サイト内キーワード検索


お問い合せ

東洋学術出版社

〒272-0021
 千葉県市川市八幡
 2-16-15-405

販売部

  TEL:047-321-4428
  FAX:047-321-4429

編集部

  TEL:047-335-6780
  FAX:047-300-0565

  • HOME
  •  > 
  • 書籍のご案内 - あとがき

▼書籍のご案内-後書き

「証」の診方・治し方-実例によるトレーニングと解説-

[ 中医学 ][ 鍼灸 ]

あとがき


 この本の元となった『中医臨床』誌の「弁証論治トレーニング」コーナーはもう75回になりました。この間,大勢の読者に深い関心をもって愛していただいたこと,東洋学術出版社が重要なコーナーとして全面的に支援してくれたこと,そして私たち執筆者もそれに応えて努力したことから,順調に回を重ねることができました。まず執筆者の立場より,熱心な読者と,出版社の山本会長,井ノ上社長,編集者の森由紀さんおよびその他の協力者に心より感謝します。
 弁証論治は中医学の歴史と発展の結晶であり,中医治療学の精髄です。長年の弁証論治の実践は中医学の存在意義と価値を表しています。その意義と価値は次のとおりです。まず,弁証論治は中医学の全人観によって人間の疾病を観ます。そして,望・問・聞・切の四診および耳診・爪甲診・人中診などの特殊診察法により,病気のすべての情報を把握し,確実な疾病の情報によって証を立て,それに対する治療を行います。これは「頭痛医頭」「足痛治足」の局所療法から脱却し,患者の体質改善と病気の治療を含んだ,全面的かつ根本的な治療ともいえます。特に生活習慣病が多発している現代の高齢社会に対して,弁証論治は重要かつ現実的な意義があります。これに対して,西洋医学の診療は病気の原因を細胞・DNAのレベルまで追求し,異常があれば治療します。しかし,異常がみつからない場合,ほとんどが「要観察」のまま放置されることが多いです。そのような半健康者(症状はあるが,検査すると異常が認められない)に対し,弁証論治では積極的に治療することができます。このような西洋医学的治療の不足を補完できる中医弁証論治の治療価値は今後ますます証明されていくことでしょう。
 本書で紹介している症例は75回分の「弁証論治トレーニング」コーナーからの抜粋です。紙面には限りがあるため,一部の症例は割愛せざるをえませんでしたが,これについては続篇に期待していただきたい。本書は症例を中心にして,臨床応用・病因病機・弁証理由・治療原則・中薬・方剤・経絡・経穴・手技など多岐にわたってわかりやすく解説をしているので,読者の理解と学習の一助になることと思います。中医弁証論治のトレーニングはこの本から始まります。これからもより多くの読者が弁証論治を熱心に学んでいかれることを心より祈っています。そうすることで日本における本格的な中医弁証論治は深く根付き,きれいな花を咲かせ,大きな実を結ぶことでしょう。

2012年夏 呉澤森


 季刊『中医臨床』「弁証論治トレーニング」コーナーは1994年からスタートして,今年で75回を超えました。
 私はコメンテーターのひとりとして,1995年の第6回目からこのコーナーを担当させていただきましたが,正直にいえばこれほど長く続くとは想像さえしていませんでした。この間,日本語の微妙な表現の難しさに悪戦苦闘することもありましたし,日本と中国の事情の違いを深く考えなければならないこともありました。しかしながら,日本全国の多くの読者の方々の中医学を学ぼうとする情熱に励まされ,また支えられて今日まで続けてこられました。全国の読者の皆さま,特に忙しい仕事の合間を縫って,一つ一つの出題症例に対して,真剣に分析しながら「弁証」と「治療」へのアプローチをしてくださった方々には,感謝の思いでいっぱいです。皆さまの貴重な投稿により,一つの病案に対してさまざまな観点からのアプローチができ,コーナー自体もよりダイナミックに展開することができました。心より感謝しています。また,長年の間,中医アドバイザーの場所をご提供くださり,コーナーへ症例提示のご協力をしてくださった日本漢方大家の桑木崇秀先生,菅谷クリニック院長の菅谷繁年先生,吉永医院院長の吉永和恵先生をはじめ,多くの諸先生方にもこの場をお借りして心より感謝を申し上げます。
 医学書で得た知識を自らの臨床経験に変えていくには,絶えず訓練や実践を繰り返さなければなりません。その点からいえば,このコーナーは「畳の上の水練」かもしれませんが,一つの練習の場として深い意味があります。しかし,実際の臨床では,症状の真偽もあり,証の挟雑や変化などもあるので,弁証と治療は,一筋縄ではいきません。過去にまとめた症例を振り返ってみると,まだまだ私の経験不足のために弁証も治療も十分でなかったと反省するところがいくつもありました。ゆえに症例に書かれた弁証と治療は,絶対のものとはいえません。あくまでも,実際の現場ではどのように弁証論治を進めればよいか,どのように臨床力を高めればよいかと思い悩む方々に,少しでも思考のヒントになってくれればと思っています。
 今回,東洋学術出版社の井ノ上匠社長と編集の森由紀さんのお力により,「弁証論治トレーニング」で発表した症例のなかから臨床でよくみられる30症例を選び,若干の修正とわかりやすい図表を加えて,新たに本として上梓することになりました。皆さまの臨床の参考としてご活用くだされば幸いです。まだ不十分なところに対して,ご批判,ご鞭撻をいただければ幸いです。

2012年夏 高橋楊子

『[新装版]中医学入門』

あとがき


 1999年に第2版を上梓して以来すでに12年を経過した。その間多くの医師・薬剤師が漢方薬を日常診療にごく普通に用いるようになったが,多くは西洋医学的な病名から方剤を選ぶような使われ方がなされてきたために,せっかく漢方薬をつかいながら十分にその長所をつかいきれていないように思われる。中医学は西洋医学とは別の視点からの疾患のとらえ方であり,生命体としての人体を別の角度から理解する有力な手段である。そのために中医学では弁証論治が重要視され,それに基づいて治療薬が選ばれる。せっかく漢方薬をつかう機会を得たなら,ぜひとも弁証論治にいたる考え方を学んでいただいて中医学の神髄にちかづいていただきたい。本書がその一助となるならこれにすぐる喜びはない。
 中医学入門に記載する事項そのものも,時代によってさまざまに解釈されておりすべてが同じではないために学ぶものにとって混乱を来すところもある。臨床に役立つ矛盾のない理論の確立が引き続き望まれる。本書は現時点においてできるだけ矛盾のない,理解を得やすい記載を試みたつもりであるが,まだ未熟な点も多く今後も努力を続けていくつもりである。読者諸氏のさらなる検討と批判を仰ぎたい。
 最後に,辛抱強く改訂原稿におつきあいいただいた東洋学術出版社・編集部の方に心より御礼,感謝を申し上げる。

神戸中医学研究会

中医鍼灸、そこが知りたい

[ 鍼灸 ]

 おわりに
 
 臨床に携わり二十数年が経過する。あっという間に時が流れた。
 この間、ふたつの柱を行動の指針とする。
 「患者に益する臨床家を目指す」ことと「先人の教えを次世代へ伝承する」のふたつである。
 まず臨床で感じたこと、出会った事実を極力言語化し再現性を高めるよう努めた。患者の表現する多種多様なオノマトペを中医用語に変化する作業は思いのほか難儀する。言語化しにくい技術的感覚は、そこにたどり着くまでの過程を方法論という形で補うようにした。脈舌のあらわす意味と現状との乖離にも論理の整合性をもって解釈する。
 伝承に関しては、発展過程の人間として、自身の力量から鑑み、主に初級者を中級レベルまで引き上げることを目標にする。
 前半の十年は師匠梁哲周先生の教えを嚙み砕き伝えることに重点を置く。性格上、軽いトーク口調になりやすいため、心の中で師匠と会話し、相手の認識レベルに合わせ、慎重に言葉を選びながら対話する。命門会会長時代の十年であり、自身よく考えた時代でもあった。
 比べて後半から現在までは三旗塾塾長としての顔である。先の経験を理論のなかに埋め、キーワードを作り発信するように努めた。思ったこと、感じたことを解放的に語る姿勢に変化する。感じた時代であったように思う。
 考え、感じ、そして悟る。
 今後は悟りの時代に入りたいが、そうたやすいものではないだろう。まだまだ感じる時代が続きそうだ。
 将来を見据えるも、真実は今の一瞬にしかないのではなかろうか? 日々の臨床の一瞬に精魂を傾ける臨床家として生を全うしたい。六味丸合補中益気湯合足三里の灸合太谿の鍼の日々はまだまだ続く。
 
     二〇一〇年十一月

著 者   

[チャート付]実践針灸の入門ガイド

[ 鍼灸 ]

あとがき


 1995年,残暑厳しい北京の9月。当時,私は,中国・大連で1年間の中国語研修を終え,北京に移って来たばかりであった。北京中医薬大学で中医学を学ぶためである。
 北京中医薬大学の教室には,日本語,英語,韓国語,スペイン語などの様々な言語が飛び交っていた。私には,まだ国際針灸班の私と同じ立場の留学生はもちろん,北京に知人もなく,不安と期待,希望が交差するなかで,最初の講義となる「針灸学」の先生が教壇に到着されるのを待っていた。
 私は,2年目にしてようやく中医学の勉強を本格的にスタートできる嬉しさも感じていたが,正直なところは,専門用語の多い中医学の講義を中国語で受けて,講義についていけるのかと不安のほうが大きかった。
 ガチャッとドアが開き,教室に入ってこられた「針灸学」の先生が,本書の原著者・朱江先生だった。朱江先生は,簡単に自己紹介をされたあと,自分が以前日本に滞在されていたときの経験,日本語が話せることなども話され,日本人である私は非常に親近感を覚えたのを鮮明に記憶している。
 その後の北京留学期間中,朱江先生には,中医針灸について多くのことを教示していただいた。なかでも北京留学2年目からは,週に一度,個人的に特別講義を受けさせていただいた。ふだんは講義のない時間に,朱江先生の研究室で補講していただくものだったが,夏期休暇や冬期休暇には,先生のご自宅にまで押しかけ個人講義を続けていただいた。
 個人講義では,「弁証実践練習」という目的で,主訴・年齢・性別症状・病状経緯などが4~5行にまとめられた病案を渡された。私は,その場で患者に対しているつもりで,分析・診断し弁証を組み立て,導き出された弁証にもとづき治療法則を定め,治療法則にもとづき治療に用いる経穴を選択し,さらに経穴に対しどのような手技を行うかをレポート用紙にまとめていった。ここで一番難しかったのは,すべての症状を1つひとつ中医学的な角度から病因病機を考え,図で表し説明することだった。私なりの弁証,治療法則,選択した経穴や病因病機図を記した答案を作成し,朱江先生が赤ペンで訂正しながら,解説してくださる形式の個人講義であった。この講義は,1年近く続き,当初はほとんど書けなかった病因病機図も徐々に正確に書けるようになり,それに比例して私の弁証する力,正確性がともに向上していった。ここで学んだ図解による繊細な弁証方法は,今日,私の臨床の礎になっている。
 本書の原著『実用針灸医案表解』は,2000年9月に中国で中医古籍出版社から出版されたものだ。じつは,私の「弁証実践練習」講義の際に使われていた教材資料が,当時,朱江先生が執筆中であった『実用針灸医案表解』の原稿であったという経緯もあり,私個人としてもたいへん思い入れのある本である。東洋医学全般,特に針灸に携わる者にとって,中医針灸の基本的な弁証論治法がシステマティックに図解された本書は,日々の臨床上での弁証論治の実践に非常に参考になり,とても心強い。
 20世紀なかばまでの中国では,現在の日本のように,針灸や漢方薬を使う医師にも多くの派閥や流派のようなものがあった。しかし中医学が大学教育に組み込まれるにあたり,多くの中医師が専門用語などの統一に努め,中薬の名称,経穴の名称と位置,弁証論治,治療法則など中医学全体の基礎が統一され,中医学を体系的に学ぶシステムが作られたのだという。日本でも同じように,針灸学の基礎や基本の部分はしっかり統一し,横のつながりが生まれるようになることを私は願う。
 
 「病因病機の解説」図のなかの中医学用語については,細かく文章化してしまうと,図解のもつシンプルなわかり易さを損なう恐れがあるので,あえて翻訳していない。しかし,わからない中医学用語に対して1つひとつ読者が中医学辞典で調べていると膨大な時間を費やしてしまう。そこで,原著にない「図の説明」の項目を設け私なりの図解の解釈を執筆し,さらに本書に出てくる内容に限った中医用語辞典として活用していただけるよう,巻末に「訳者注釈」をつけた。

 最後に本書の翻訳にあたり,お世話になった山本勝司会長をはじめ,編集部の方々,快く私に翻訳させてくださった朱江先生に感謝します。

訳者 野口 創 

『漢方診療日記―カゼから難病まで漢方で治す―』

[ 中医学 ]

あとがき
 

 「詩においては『孤絶』を尊び、学問の道は『孤詣独往』を尊ぶ。ひとり雲山万畳の奥まで道を極める」
 漢字学の泰斗、白川静先生の言葉です。伝統医学を学ぶうえでも例外ではありません。経方、後世方、中医学の学術思想を学び、優れた先達に倣うことは基本的な姿勢ですが、患者さんを前にして、一つの思想に固執するわけにはいきません。漢方治療に垣根はないのです。「スッタニパータ(仏陀のことば)」にも、「犀の角のようにただ独り歩め」とあります。臨床家は、その時々で苦しみ悩み、最後は自分自身の責任で最適と信じる学術治法を追求するしか道はないでしょう。
 二〇〇二年十二月(『中医臨床』冬号)から連載が始まった「私の診察日記」は、このような気持ちに立って、臨床の現場で悪戦苦闘した記録です。あらためて振り返って視ると、一つ一つの情景を思い出し感慨深いものがありますが、同時に当時の私の思考回路と古典解釈に対し、今では乖離や錯誤を覚えるケースがないわけではありません。しかしその時々の臨床記録として、今回の書籍化にあたって敢えて訂正は加えませんでした。どう考え、何をしたのかという事実は、変わらないからです。
 執筆に際しては、できるだけ漢方治療における私自身の思考回路と、治法選択の根拠を記載することに努めました。また同時に読者が一緒に診察に参加できるように、診療風景の情景描写に意を注いだつもりです。
 本書の出版にあたり、妻の厚子、親友の法橋正虎氏(思想史学者)、同朋同行の坂井由美さん(編集部)、山本勝司前社長(会長)、井ノ上匠社長を始め多くの皆様のご協力に、深く感謝いたします。

二〇一〇年三月

  

風間 洋一 

『針灸三通法』

[ 鍼灸 ]

あとがき

近年,中国針灸の国際化,標準化が進み,世界各国からたくさんの人が中国に来て中国針灸を習うようになった。さらに,ヨーロッパやアメリカでは針灸の治療効果に対して高く評価されるまでになってきている。日本でも,中国針灸を用いて難病を治療するなど,中国針灸に対する理解が深まり,普及しつつある。
ちょうど4年前,私はある学会の講演会で東洋学術出版社の山本勝曠社長とお会いし,中国科学技術文献出版社から出版された父・賀普仁の著作『針具針法』を翻訳出版しないかと相談を受けた。じつは十数年前から,私は『針具針法』の日本語版を考えていた。しかし,当時の日本では中国針灸に対する認識がまだまだ足りず,中国針灸の理論を身につけなければ中国針灸の有効性を充分に発揮できないだろうと思い,『針具針法』を日本で出版するのは時期尚早と,断念していた。しかし,今なら大丈夫だろうと思い,翻訳出版の打診を受けてすぐに,著者である父・賀普仁に連絡をした。父は,「日本の鍼灸師が,この本を通じて中国針灸の多種多様な針具,針法の活用を理解し,中国針灸の真髄を認識して,臨床効果を引き上げることができ,日本の患者さんのために役立てば幸いだ」と述べて,快く日本語版の出版を許可してくれた。

針灸療法は中国伝統医学のなかで重要な部分を占めている。そして,針具針法は針灸療法の根幹である。賀普仁は大量の古典文献や現代資料,60年にわたる臨床経験をもとに,『針具針法』を書き上げた。本書では,針具・針法および手法の臨床応用,内功・指功の基本練習法を紹介している。中国針灸に対して,賀普仁が果たした最大の貢献は,「病には気滞が多く,法は三通を用いる」という中医病機学説を打ち立てたことと,「賀氏針灸三通法」という針灸治療体系を創立したことである。
「賀氏三通法」とは,配穴と経絡の関係や,気血運行の調節原理にもとづき,臨床上の「滞」と「通」に注目し,異なった疑難雑病の治療方法を総合した学術思想と方法学の体系である。それは,たんに3種類の治療方法という意味ではなく,賀普仁は,中医薬学・針灸医学に対して深く理解し認識する,ということも含めていたと思う。「賀氏三通法」は,針灸理論の研究,治療手段,操作手法および針具など,多方面において新機軸を打ち出し,多くの臨床経験を重ね,確実に成果をあげて成し遂げられた針灸医学の結晶である。なかでも,伝承が絶えた火針療法を発掘して,中医理論と古典文献の記録より自ら針具を製作し,研究と実践に身を投じて検討したことは特筆される。そしていまでは,火針療法は臨床において幅広く運用され,大きな成果をあげている。
中国政府は,中国針灸に対する賀普仁の貢献を高く評価して,2007年,中国初の非物質文化遺産針灸伝承人(日本の人間国宝に相当)に認定し,2009年には中国国医大師にも選定した。著者・賀普仁は私の父であり,偉大な大先輩であり,そして師匠でもある。師弟として,師匠の業績を受け継ぎ,向上させていくためには大きなプレッシャーがかかっているが,私は臨床経験を通して,「賀氏針灸三通法」以上に,便利で,即効性があり,効果の高いものはないと確信している。そのなかでも,特に切皮の重要性を知り,ツボの大切さを深く学んで十分に活用されることを願っている。今後,熱心に中国針灸を探索し,虚心に学問を研究する針灸同志の協力を得ながら,本書が日本における賀氏三通法の普及や発展を更に推進する一助となるように心から希望している。
末筆ながら,この本の翻訳のために尽力してくださった,鍼灸師であり,優秀な翻訳家でもある名越礼子氏に,感謝の意を表します。また,出版にあたってお世話になった東洋学術出版社の山本勝曠会長はじめ井ノ上匠新社長,出版に関わってくださった関係者のみなさまに,心から厚くお礼を申し上げます。

精誠堂針灸治療院院長  賀 偉

『[実践講座]中医弁証』

[ 中医学 ]

訳者あとがき

 医学の最も基本的な目的というのは一体何でしょうか? それは病気で苦しんでいる方々が,少しでも楽になれるようにお手伝いするということではないでしょうか。では,その目的を達するために最も大切なことは何でしょうか?それは患者さんの疾患の原因を正確に把握し,それに従い正しい治療方針を選択し,治療できる能力だと思います。
 みなさんは,そんなことは至極当たり前のことであり,取り立てて言うほどのことではないとお考えかもしれません。しかし,この当たり前のことを実践するのは,実は非常に難しいことではないでしょうか。
 こういった能力は,けっしてすぐに身につけられるものではなく,ある程度の経験を積まなければ,なかなか手に入れられるものではありません。しかしそうなると,患者さんは経験豊富な「老中医」ばかりを頼りにし,若い中医師の経験の場は,益々少なくなってしまうことにもなりかねません。
 では,臨床研修中や大学を卒業したての中医師は,どのようにしてこの経験の場を勝ち取ればいいのでしょうか?

 本書『[実践講座]中医弁証』は,中医学の初学者に,擬似臨床の場を与えてくれる,ユニークで新しいスタイルの良書です。本書には,付録の「症例トレーニング」も含めて,200近い症例が収められています。しかも本篇部分は,医師と患者との問診のやり取りが記載されており,会話の途中で解説を交えているので,患者さんの話をどのように受け取るか,また,問診に対しはっきりした答えが返ってこない場合には,どのように聞き出したらよいか,ということまでわかるようになっています。
 さらに,中医入門者の方にもわかりやすいよう,中医独特の言い回しはできるだけ簡易な日本語に直し,把握しておいたほうがいいと思われる中医の専門用語については,井ノ上匠氏を始めとする東洋学術出版・編集部のみなさまのご意見もうかがい,巻末に「訳者注釈」としてまとめてみました。
 このように,新任医師も,本書を通してある程度の経験不足をカバーできると訳者は確信しています。本書が中医学を勉強する医師の方々にとって,少しでも経験を積むお役に立てることができたなら,訳者にとってこれ以上の幸福はありません。

 訳者は何分にもまだ翻訳経験が浅く,不十分な部分も多々あるかと思います。諸先輩方のご指摘・ご指導をいただけましたら,非常に光栄に思います。
 最後に,私のようなかけ出しの者に,本書の翻訳という大役を授けてくださった,東洋学術出版社の山本勝司社長にこの場をお借りしてあつく御礼申し上げます。そして,本書の翻訳にあたり多大なご協力をいただいた,山東中医薬大学の諸先生方および「同学」のみなさま,また,本書の翻訳を薦めてくださった,同じく山東中医薬大学の留学生・八木誠人さんにも心より感謝申し上げます。また,翻訳期間中(それ以外にも)いろいろな方面から支えてくださった,私の周囲のすべての方々に,この紙面をお借りして心より御礼申し上げます。

2008年4月14日
山東中医薬大学にて 平出 由子

 


『傷寒論を読もう』

[ 古典 ]

あとがき       

 漢方はよく『傷寒論』に始まって、『傷寒論』に終わるといわれる。これは漢方の学習においても臨床においてもいえることで、私自身の漢方学習も大塚敬節先生の『傷寒論講義』から始まり、その後の三考塾でも毎回行われている寺師睦宗先生の『傷寒』『金匱』の講義を、すでに何回も繰り返し聴講している。臨床の場でも最初に覚えたのは葛根湯や小柴胡湯などの『傷寒論』の処方であったし、また中医の処方を使う機会が増えても、いつも「この処方の方意は『傷寒』『金匱』ではどの範疇に属すのか」ということを常に考える習慣が身に付いていた。
 張仲景の『傷寒卒病論集』がはじめて世に出たとき、おそらく当時の人々に大きな感激と期待を与えたであろうことは想像にかたくない。人々はこの活人済世の福音書ともいうべき十六巻の内容を先を争って写本し、その教えは速やかに世に広まり強烈な影響を与えたことであろう。しかし戦乱の世である。その原本はわずか五十年後には亡失したそうである。
 それ以来、およそ医を志す者にとって、一度はこの世に医術の真髄を体現してみせた『傷寒卒病論集』の原本を再びこの世に甦らせたいということが共通の悲願となった。歴代一流の学者たちが心血を注いで原本を復元しようと努力していくうちに、それぞれの時代の医学理論と実践を積み上げて、最高の臨床医学体系が作り上げられ、時代とともに継承された結果、出来上がったのが今日伝えられる『傷寒論』であり『金匱要略』であると考えられる。換言すれば各時代のエネルギーと精華を吸収し尽くして成長し完成した『傷寒』『金匱』であるからこそ、時代を超えて常に漢方医学の聖典として強い光とエネルギーを放ち続けるのであろう。
 そのような『傷寒論』を学べば、とりもなおさず漢方医学の精華と真髄を修得できるはずであるが、ただ講義を聴いたり本を読んだりするだけでは、どうもいまひとつ曖昧な部分が残り、自分でも『傷寒論』を理解できたという実感が得られなかった。そこで勉強してわかったことを逐一自分の言葉で書いてみたら、どの程度に理解できているのかよくわかると思い、約十年前から少しずつ書き始めた。その作業のなかで、それまで気がつかなかった発見が少なからず得られた。その中の一つは『傷寒論』の条文はただ漫然と書き連ねられているのではなく、読者の理解の流れを妨げないように十分配列に工夫が凝らされているということであった。例えば互いに関連のある条文同志が隣接して配置されるのは当然であるが、次にそれに対比する概念や変証などへ主題が移行するときの巧みさ、次の篇に移る前の伏線の配置など、現代でも十分通用するような編集技術が用いられており、一見多岐亡羊の感さえある三百九十八箇条もの条文が、いささかの齟齬を生じることなく見事に一本の太い線で繋がれている。
 今回東洋学術出版社の山本勝司社長のお計らいと、編集担当の坂井由美さんのご尽力により一冊の本となって世に出ることができたことは望外の喜びであり、深く感謝している。願わくば一人でも多くの先生方にご披見いただき、そのうえで忌憚のないご意見やご批判をいただければ幸せである。

二〇〇七年九月 東京虎ノ門の寓居にて
                     髙 山 宏 世

【図解】経筋学-基礎と臨床-

[ 鍼灸 ]

経筋学を志す
 数年前から,現代の針灸学には「経筋学」の考え方が欠けているのに気づき,経筋について調べ始め,臨床でも経筋療法を試みてきた。
 まず,『黄帝内経』を調べてみて,十二経筋は,先人が人体解剖を行い,筋肉は機能しているものと考えて記述されたものであることを知った。
 その後,経筋について調べているうちに,わが国よりも中国で「経筋学」がはるかに進歩しているのに気づいた。原書で読むためには中国語の語学力が必要である。そこで当地に留学中の中国医師・崔泰林氏に1年間,医学中国語を学んだ。しかし,やはり言葉は喋ることが大事である。当地に住む李今丹女史(翻訳家,日本人と結婚)に中国語会話を習い始めてもう4年半になる。経筋について,より深く知るために中国語を学び始めたが,これは正に「盗人を捕らえて縄を編む」きらいがある。
 この間,臨床的にも経筋療法を応用して,いろいろな症例を経験してきた。
 「経筋学」の必要性について確信が得られたので,東洋学術出版社の山本勝曠社長に「『経筋学』を本にまとめてみたいのですが……」と,電話で相談してみた。
 すると驚いたことに,即座に「わかりました。引き受けましょう」と答えてくださった。私はこのことを非常に感謝している。
 もっと早くまとまると思っていたが,『[図解]経筋学』として原稿をまとめ始めてからすでに5年が経過した。
 書名を「図解」としたのは,イラストや写真をできるだけ多く掲載して理解を容易にし,日常の臨床にただちに役立つようにしたかったためである。

現代社会は「経筋学」を要求している
 「経筋理論」は立派な学問であり,「針灸学」とともに重要な存在であるので,書名を「経筋学」とした。これは,本書にも多くの経筋理論を引用し参考にさせていただいた『経筋療法』の著者・黄敬偉氏にも相談して,「学」と呼ぶに相応しい領域であるとのご意見であった。
 治療学は,ただ理論のみに走って臨床に役立たなければ存在価値はない。そのため,本書では読者の理解を容易にするために,東洋医学の用語はできるだけ平易な言葉で表現することにした。
 本書をまとめるにあたり,本当に経筋療法で効果があるのかを確認するために専門書の治療方法を追試したり,自分でもいろいろと治療方法を考案してみた。気がつくと,今では「経筋学」を学ぶことによって,現代医学では治すことができないさまざまな病気を治療できるようになっていた。また,私の住む周囲の人々も,経筋療法を含めた針灸治療を,「現代医学で治らない病気を治せる治療法」として認めてくれるようになっていた。
 大部分の患者は,整形外科・外科・精神科などに転々と治療を求めたが,「治らない」と訴えて来院する。例えば,線維筋痛症は精神的な緊張が原因となって全身,特に頸背部の筋肉に緊張を来す。筋肉痛はさらに進行し,ついには全身の筋肉に異常をもたらすようになる。一方,不安やうつ状態など精神的異常も進行していく疾患である。経筋病巣を治療すれば,精神的異常も改善される。線維筋痛症は,現代医学では原因不明で決定的な治療方法はないが,経筋療法で短期間に治療できる。

経筋病は筋肉だけの病気ではなく,精神的な異常など全身的に及ぶ
 一般に,経筋病は筋肉や関節に関係した領域だけだと思われがちであるが,実際には精神神経的な異常などを伴うことも多い。経筋病巣を治療すると精神的な異常が改善されていく。脳やあらゆる臓腑は,経絡(十二経脈や十二経筋など)を通じて,全身とつながっており,けっして個別に存在するものではない。これらの臨床例を本書のなかにも具体的に挿入した。「心身一如」といわれるが,精神状態(心)と筋肉組織(身)とも相互に強く影響し合っている。
 「経筋学」を学問として学ぶことによって,ほかの臨床家が治せない病気を治すことができるという臨床家として強力な武器を手に入れることができたと思っている。これらの治療法をできるだけ多くの臨床家に利用していただきたいと願っている。

多くの方々の協力に感謝する
 本書の編集にあたり,東洋学術出版社の山本勝曠社長に,また直接編集の労をとっていただいた井ノ上匠氏の特別のご配慮に感謝したい。
 医学中国語を教えていただいた崔泰林先生と李今丹女史,また古典に詳しい小松一先生にもさまざまな助言をいただいた。これら多くの方々の援助のもとに本書ができあがったことに感謝している。
 本書には,足らないところや誤りがあるかも知れないが,ご叱責をいただき,より正しいものにしたいと思っている。本書が少しでも実際の治療に役立つことを願っている。

西田皓一
2007年12月

脈診

[ 中医学 ]

あとがき

 自分なりに得た脈診のコツや考え方を,呼泉堂の白川徳仁先生に話したところ興味をもってくださり,ぜひ一冊の本にまとめてみなさいとアドバイスされたことが始まりでした。
 その後,できあがった原稿を持って,約15年にわたり指導を受けている上海中医薬大学の何金森教授のもとに,2年の間に4回上海へ行きご指導を受けました。その間に受けた的確な指摘や懇切丁寧な指導があったおかげで,本書が読むに堪える内容となりました。
 出版については,白川先生が熱心に東洋学術出版社の山本勝曠社長へ働きかけてくださり,山本社長のご快諾を得ました。これも日頃から中医学普及に情熱を傾けておられる白川先生の無私の行為と感謝しております。
 また一介の針灸臨床家である私の原稿を,出版決定された山本社長のご決断に感謝しております。「中国伝統医学を現代にいかす」という東洋学術出版社の一助になれたことと,たいへんうれしく思っております。

2007年11月吉日

  山 田 勝 則


 

前へ |  1   2   3   4   5   6  | 次へ

ページトップへ戻る