サイト内キーワード検索


お問い合せ

東洋学術出版社

〒272-0021
 千葉県市川市八幡
 2-16-15-405

販売部

  TEL:047-321-4428
  FAX:047-321-4429

編集部

  TEL:047-335-6780
  FAX:047-300-0565

  • HOME
  •  > 
  • 書籍のご案内 - あとがき

▼書籍のご案内-後書き

『経脈病候の針灸治療』訳者あとがき

[ 鍼灸 ]

 
訳者あとがき
 
 
 あとがきの執筆に際し,本書の翻訳執筆の契約書を確認したところ,2013年2月であった。丸7年かかったことになる。執筆した本人でさえ,時間がかかり過ぎたという思いが強い。もし,量・内容的に同様のものを,今から新しく翻訳するとしたら,おそらく1年半ぐらいでできるのではないだろうか。それぐらい,ずいぶんと回り道をした。
 本書では大量の古典引用がなされている。その引用文の扱いに手間取ってしまったことが7年もかかってしまったことの最大の要因であろうかと思う。古典書の扱いに関して訳者はあまりにも無知であった。訳者が本書の翻訳を始めた時期に,中国へ出張する機会があり,現地で段ボール2箱分の書籍を買い込み,船便で日本へ送った。この時,書店で目についた書籍や有名どころのシリーズ本などを,多く考えもせずに購入してしまったのが間違いの始まりであった。もともとは古典原文も現代語訳にするつもりであったので,中国で購入した書籍が簡体字表記であることは,気にしてはいなかった。ところが,訳者のレベルではとても世に出せるような現代語訳にはならないという思いが,執筆を進めるごとに強くなっていったのである。現代語訳をあきらめ,書き下し文にすることにしたものの,今度は古典が書かれた時代とは異なる簡体字表記や現代に出版された古典文献の誤字・脱字などに悩まされることになる。加えて,訳者は中国で中医学を学んだ自分が古典中国語を日本語の書き下し文にする機会があるなどとは,それまで夢にも思ったことがなかった。今回の翻訳に際し,鍼灸学校時代にあった漢文の授業にもっと真剣に取り組むべきだったと後悔することしきりであった。四苦八苦して書いた書き下し文にはご指摘を受けるようなところも少なくないかと思われる。読者の皆様からのご教示をいただければ幸甚である。
 さて,本書に関してである。「経脈弁証」という言葉自体はけっして新しいものではない。訳者が学んだ1990年代~2000年代初頭の中国の鍼灸の教科書にも経脈弁証の記載はあった。しかしながら,その内容はといえば,鍼灸学の歴史の長さから考えると,ほぼないに等しいものであった。当時は中医鍼灸においても湯液ベースの弁証論治が盛んであり,それぞれのツボの穴性をもとに治療を行うのが中医鍼灸であるというのが,臨床においても教場においても大方の共通認識であったかと思う。そして,その流れは今日の日本においても続いている。
 訳者は以前,ある機会があり,数十人の鍼灸師・学生の方々に対し「中医鍼灸の特徴とは?」と尋ねてみたことがある。返ってきた答えの多くは「弁証論治」や「鍼が太い」といった予想通りのもので,期待したようなものではなかった。おそらくそれは,訳者の期待した答えが,あまりにも当たり前のものとして認識されているからであろう。訳者は,中医鍼灸の最大の特徴は「経絡の存在」であると思っている。中国古代の医家達が経絡というシステムを見出したことこそが,今日われわれが学ぶ鍼灸医学の最大の特徴ではないだろうか。アルプスで見つかった5000年以上前のミイラ,通称「アイスマン」にツボの位置を示すと思われるタトゥーがあったというニュースは記憶に新しいが,世界中に存在したかもしれない同じようなツボ刺激の治療方法と,中国古代の鍼灸との最大の違いは,「経絡」の有無ではないだろうか。点と点を繋ぎ,線として体全体を包括するシステムによって,単なる経験医学にとどまらない,予測や推断を可能とする系統立った学問としての鍼灸医学が成り立ち,現在のわれわれに脈々と受け継がれているのである。では,われわれはこの「経脈」を十分に活用しているであろうか。
 訳者は,かれこれ16年ほど前,鍼灸学校の受験の際に,面接官の先生にある質問を受けた。それは「中国は八鋼弁証がメインであろうか」という質問とも確認とも受け取れるようなものであったのだが,中国から帰国したばかりの訳者にとって「八綱弁証」というものは,弁証方法に入れるまでもないと思えるほどに,弁証をするうえで欠かせない内容であったため,正直なところ,質問の意味が理解できなかった。今になって思うのは,それは「中国の弁証はあくまで湯液ベースの弁証ではないか」という意味であり,「経絡を無視した弁証ではないか」という意味であったのではないかということである。
 現在,中国では鍼灸医学における弁証方法の見直しが行われていると聞く。特に臨床に際し,経絡の存在が改めて脚光を浴びているということである。かつて老中医と呼ばれた医師たちが見せてくれたような,目を見張るような効果というものが,湯液ベースの鍼灸治療では,なかなか得られないことに,臨床に携わる鍼灸医師たちが気付き始めたということであろう。
 本書には大きな特徴が2つある。1つは経脈弁証に関する本であるということ。もう1つは大量の古典引用を行っているということである。中医鍼灸学に関する現代の書籍で,これほどの古典引用が行われているものはおそらくないのではないだろうか。「古典へ帰れ」と言われたものの,どの古典を読めばよいのか悩んでいる方々が,この本をきっかけに,さまざまな古典に触れ,それを鍼灸臨床に応用されることで,鍼灸界全体のさらなる発展に繋がることを切に希望するところである。
 古典引用文の多さは,本書の大きな特徴の一つである一方で,多くの読者の方々にとっては,難解で敷居の高さを感じさせるものとなるかもしれない。いくらかでも緩和できればと思い,時間の許す限り注釈や用語解説の作成などを行った。これも本書の翻訳に時間がかかった理由の一つではある。1つの単語を調べるのに,どこから調べ,何を根拠とすれば,より信頼度の高い説明ができるのかということに関しても,コツを掴むのに随分と時間がかかった。そのため不十分な内容もあるかと思う。ここでお詫び申し上げると同時に,やはり読者の皆様からのご教示を頂戴したく思う次第である。用語解説に入れた単語には,一般的な中医用語も多く含まれ,あまり中医学に親しみのない読者も想定しての内容となっている。また,注釈やルビの多さは普段から古典文献に慣れ親しんだハイレベルな読者の方々には,いささか邪魔に感じられるものであるかもしれない。古典医学の普及の一端にご協力いただくということで,御寛恕いただければ幸いである。
 本書の翻訳にあたり,7年も待ってくださった東洋学術出版社には感謝の念を禁じ得ない。特に編集の森由紀さんには,翻訳・校正のサポートのみならず,何度も途中で挫折しそうになったところを上手におだてていただき,おかげでなんとか最後までやりきることができた。心からお礼を申し上げたい。
 

2020年1月
鈴木 達也


 

『漢方診療ワザとコツ』あとがき

[ 中医学 ]

 
 
あとがき
 


 「漢方診療ワザとコツ」を漢方専門誌に連載して56回となりました。この雑誌は諸般の事情により一時休刊になることと,今年72歳になる私の年齢を考え,このあたりでまとめて一冊の本として出版しようと思いました。
 この「ワザとコツ」は,著者が思いつくままに書きましたので必ずしも系統立っておりませんが,編集部が上手にまとめてくれました。
 私はこれまで山田光胤先生から20年以上にわたり漢方の教えをいただいておりますが,その「ワザとコツ」を自分だけの宝としておくのは,あまりに勿体ないので,それを自分なりに整理してまとめた内容であります。
 お読みいただき,不明な点,おかしなところがあるとすれば,それは私の責任であります。最後までお読みいただいた先生には心から感謝いたします。
 単著は『漢方事始め』(日本医学出版),『東洞先生はそうおっしゃいますが』(たにぐち書店)に続いて3冊目となりました。残された私の時間はどれくらいあるのかわかりませんが,これからも漢方の発展のために頑張っていこうと思っています。
 

2019年4月 織部和宏


  

『「証」の診方・治し方2 -実例によるトレーニングと解説-』あとがき

[ 中医学 ][ 鍼灸 ]

 
 
あとがき
 


 中医弁証論治の臨床専門書である前書『「証」の診方・治し方』第1巻が,発行以来多くの読者にご愛読いただいていることに感謝しています。そして,読者の期待に応えるべく,私たちは第2巻を発行する運びとなりました。第2巻をこれほど早く順調に出版できることについて,まずは執筆者の立場から,熱心な読者と東洋学術出版社の山本勝司会長,井ノ上匠編集長,編集者の森由紀様およびそのほかの協力者の皆さまに心より感謝を述べたい。
 30年前,私は北里東洋医学総合研究所の招待で来日しました。当時も,医師・鍼灸師・薬剤師で中医学に関心のある人は居たものの,今ほど増えるとは予想できませんでした。最近では,中医学の日本への導入・普及が進んでいることを実感しています。
 中医学の学習は,まず中医学の基本理論を深く理解することが重要です。中医学の書籍は漢字が多く,日本の漢字と似ていることも多いですが,中医学理論の勉強を軽くみてはいけません。しっかりと中医学の基礎理論を勉強したうえで,次のステップとして臨床実践があるのです。臨床実践を積み重ねるうちに,中医学の基礎理論の奥深さに感心し,それを体得できるようになることでしょう。『「証」の診方・治し方』で紹介した症例は,日常的に遭遇する病気ですから,皆さんの診療にも参考価値があるのではないでしょうか。同じ病気でも,個人の体質や病状によって,違う証が立てられる可能性があります。中医弁証は,初診日の第1回目の弁証が,病気を治すための弁証のスタートですが,病状の変化・体質の変化に伴い,また新たな証が立てられることがよくあります。病気を治す全過程において,弁証論治は継続しているのです。
 『中医臨床』誌では,弁証論治の専門コーナーである「弁証論治トレーニング」が読者の熱心な応援により順調に続いています。これからもよろしくお願いします。また,本書の不十分な所については,ご批判・ご鞭撻をいただければ幸いです。


 

2019年春 呉澤森


  
 
 このたび,『「証」の診方・治し方』の第2巻が発刊される運びとなりました。
 本書は,『「証」の診方・治し方』第1巻(2012年12月発行)と同じく,季刊『中医臨床』の「弁証論治トレーニング」のコーナーに長い間掲載されてきた多くの症例から,新たに30の症例を厳選しました。各症例に対して,症状分析にもとづき病因病機を推理しながら弁証する方法,治療方法と経過,そして迷いやすい点についてのアドバイスをまとめ,さらに弁証ポイントと病因病機図を加筆しました。
 中医治療の素晴らしさは,弁証論治により疾患を根本から治療できることです。病の原因を取り除き,目の前の患者が一刻も早く苦痛から解放されることは,臨床家の一番の願いでしょう。しかし,授業や本から学び得た知識だけでは,良い臨床家になるまでの道のりは長く,その距離を縮めるためには常に実践的な訓練をしながら臨床経験を積むしかありません。
 その意味でも,本書と第1巻に紹介された症例は,皆さまに実践的な訓練の場を提供しているといえるでしょう。本書に書かれた弁証論治の手順・経過などを見ながら勉強してもよいし,また症例をもとに自分なりの分析・弁証・治療(中薬・方剤・配穴・手技など)を考えてから,その解説と比較してもよいと思います。たくさんの症例トレーニングを繰り返すことによって,皆さまの中医学の臨床力は着実に進歩することでしょう。
 おかげさまで,2018年12月に本書の元となる『中医臨床』の「弁証論治トレーニング」は第100回を迎えました。これも皆さまのご愛読・ご支持の賜物と深く感謝致しております。振り返ってみれば,私の力不足で,また拙いところもありましたが,皆さまに何らかのヒントを示すことができたのであれば幸いです。
 最後に,本書の発刊にあたりまして,東洋学術出版社社長の井ノ上匠様のご助言と,編集者の森由紀様に多大なご尽力をいただきましたことに,心より感謝申し上げます。


 

2019年春 高橋楊子

『腹証図解 漢方常用処方解説[改訂版]』 改訂版 発行にあたって

[ 中医学 ]

 
 

改訂版 発行にあたって


 
 昭和63年(1988年)の初版発行以来,読者の皆様から『赤本』の愛称で望外のご好評をいただき,多くの方々にご愛用いただいて今日まで参りました。
 平成10年(1998年),本書の内容を補充する目的で『古今名方 漢方処方学時習』(青本)を,さらに平成15年(2003年)には,漢方医学の基礎理論と日常的な疾患や症状に対する漢方処方の選び方をわかりやすく説いた『弁証図解 漢方の基礎と臨床』(黄本)を出版,三考塾叢書三部作として完成させました。
 これらの活動に対しては,平成17年(2005年)富山市で開かれた第56回日本東洋医学会学術総会で日本東洋医学会奨励賞を授与されました。これもひとえに読者の皆様方のご支持のお陰と感謝いたしております。感謝の気持を表すうえで,何か皆様方のお役に立てるようなわかりやすい参考書はないものかと考えた末,平成20年(2008年)に『傷寒論を読もう』を,また平成28年(2016年)には『金匱要略も読もう』を東洋学術出版社より刊行いたしました。
 このような活動のなかで,本書も第59刷まで増刷を重ねてきましたが,最近「赤本を買いたいがどこの本屋にも売っていない」「赤本はどこで売っているのかサッパリわからない」などといったお叱りを少なからずいただくようになりました。かねがね私家版であるが故の限界と制約を痛感していたところでしたが,ちょうどそのような折,井ノ上匠社長のご尽力で東洋学術出版社に本書の刊行を引き継いで頂けることになりましたので,第60刷以降は東洋学術出版社より従来と同じ内容・体裁・価格で本書の出版を続けることができました。
 その間,増刷を重ねるごとに字句の誤りを正すのはもちろん,本版でも内容を今までよりわかりやすい表現に改定して,少しでも使いやすいように改良を加えて来ました。また,従来の「効能」の欄が「漠然として情報不足」というご指摘がありましたので本改訂版から「臨床応用」と改め,その処方の証によって起こり得る病名をいくつか例示するとともに,他の処方とも比較検討できるように症状・病名索引を設けました。いうまでもなく,これらの病名は適応症とは別のものです。今回の改訂にあたっては編集部の森由紀さんに多大のご尽力を戴いたことを深く感謝いたします。
 これからも『赤本』をご愛読・ご愛用のほどよろしくお願い申し上げます。
 

平成30年(2018年)大暑の日
東京虎ノ門の寓居にて 髙山 宏世


  
 

『腹証図解 漢方常用処方解説[改訂版]』 あとがき

 

あとがき


 
 漢方医学に初めて興味を抱いたのは,昭和44年,母校九大医学部の大学紛争のさなかのことであった。当時大学の医局にいた私は,現代の医療を批判する若い青医連の人達の鋭い問題提起に答える術を知らなかった。
 自分なりに解答を捜そうと,あれこれやっているうちに,漢方医学という,われわれが習ってきた西洋医学とは全く異なる医学の世界があることを知った。しかし,それに入りこむことは,そう簡単にできるものではなかった。
 漢方を学ぶ機会を得たのは,ひとえに恩師寺師睦宗先生にめぐり会えたお蔭である。
 寺師先生の主宰される漢方三考塾に於いて,先ず,医経(素問,霊枢)を学んで病理を考え,経方(傷寒,金匱)を学んで方考を究め,本草(本草学)を学んで薬性を知ることが,漢方修得の基本であることを教えられ,以後授業ではこの三本の柱を徹底して叩き込まれてきた。
 先生は第一期の終講にあたって,全塾生に対し,今迄に勉強したことの成果を何でもよいから,各自一冊の書物にまとめるようにと厳命された。浅学非才の身には,到底大論文をものにして,新説を掲げるというようなおおそれたことは望むべくもないので,自習用に作っておいた処方運用の覚え書きに,塾で教わった事柄を書き足して一冊にまとめ,宿題の責を果たすことにした。
 「知ル者ハ言ワズ,言ウ者ハ知ラズ」という。私がここで敢えて小冊にまとめるのは,わたしが何も知らないからである。お読み下さった諸賢兄に忌憚のない御批判,御叱責をいただければ,私にとっては何よりの勉強をさせて頂くことになる。
 上梓に当り,全処方の腹証のイラストを描いて下さった三木(旧姓太田)早苗さん,いろいろお世話下さった津村順天堂(現 ツムラ)の山上勉,中西琢郎の両氏に深く感謝の意を表する。
 

昭和63年初夏 髙山宏世識す


 

『経方医学6』 あとがき

[ 中医学 ]

 
あとがき


 当初,原稿を出版社に送った時点では,江部洋一郎も健在であった。しかし,2017年5月の急逝により,図らずもこれが遺作となってしまった。今となってみれば,自身の先行きを予感して,出版を急いでいたのかもしれない。
 あらためて見直すと,内容の濃淡,力の入り具合もいろいろで,あまりまとまり感はないが,それがかえって普段接していた者からすると「らしい」感じがする。言葉遣いも,読むためのものというよりは話口調で,強調したいところは繰り返しも多く,読むほうにしてみればくどいような部分もあるかもしれない。もし,講演など実際に話しているところを聞かれたことのある方は,その口調を思い出しつつ読んでみられるとよいかもしれない。
 経方理論はけっして完成されたものではないし,唯一の正解でもない。既刊の『経方医学』シリーズについても,最後まで手を入れようとしていたことが,残されていた蔵書の書き込みなどからもわかる。
 江部は師匠と呼ばれることを嫌っていた。漢方を学ぶ者は同志だと。なにかに盲目的に従うのではなく,それぞれが自分なりに考え,高め合っていき,ひいては全体のレベルアップにつながればよいという考えだったのではないだろうか。これからは,疑問があっても江部が直接答えてくれることはない。しかし,これまで得たものは惜しみなく与えてくれた。受け取ったほうがそれを踏み台にし,各人なりに消化し活用し,ひいてはそれを乗り越えることこそ,江部が望むところではないだろうか。
 今回も東洋学術出版社の方々には大変お世話になった。特に編集部の麻生修子氏には,見慣れないであろう手書きの原稿を活字に起こすところから,多大なるご苦労をかけた。江部独特の図も見事に出版に堪えるものに仕上げていただいた。深く感謝する。


2018年8月 送り火の日
蟬時雨の京都にて
宗本尚志



『マンガ 食事と漢方で治すアトピー性皮膚炎』 あとがき

[ 中医学 ]

 
あとがき


 私は、他の漢方の先生方と異なり、学生時代には、漢方に全く興味がなく、漫画倶楽部に所属してマンガばかり描いていました。研修医時代も漢方には興味がなく、「理論がわからない薬は使えない」と考えていました。しかし、あるとき先輩医師の基礎中医学の勉強会に誘われ、「基礎理論を学べば少しは使えるようになるかもしれない」と考えて、遅蒔きながら勉強を始めました。いまから約二七年前のことです。
 その後、小児科の外来をするようになり、アトピーの患者さんを多く診るようになりました。しかし、マニュアル通りに治療して、何とかステロイド軟膏が要らないようにしても、三カ月も経たないうちに、みな元の状態に戻ってしまう状況を見て、今の治療はあくまで対症療法のみで根本は治していないのではないかと考えるようになりました。
 そんなときに岡山のクリニックに移り、そこで北京中医薬大学大学院卒の甄立学先生とお会いし、漢方でわからないことはいつでも教えていただける環境に恵まれました。そこから大人のアトピー患者さんを治療する機会を得て、中医学の本を見ながら試行錯誤を始めました。皮膚の暗黄色・舌体の青色・腹の冷えなどのある患者さんは、ベースに「脾陽虚」があると考え、また顔の赤みは『傷寒論』の通脈四逆湯証の「戴陽」と判断して、乾姜・附子・甘草をスーパーで売っている白ネギと一緒に煎じて服用してもらったりしました。それでかなり効果はあったのですが、顔の赤みがすっかり取れるほどではありませんでした。中医が皮膚の赤みを取るのによく使う黄芩も混ぜてみましたが、少し良くなったり、逆に悪くなったりもしました。
 その頃から、全国的に有名な中医の先生方の勉強会に参加する機会を得て、生薬に対する知識が広がり、アトピーの治療成績が少しずつ良くなってきました。
 しかし福岡で開業後、アトピー患者さんの数が増えるにつれ、同じように処方しても治りが良い患者さんと悪い患者さんがいるのは、薬以外の要因が関係していると考えるようになり、その一番の原因は食事だと思い至りました。最初は患者さんに指導通りに食事ができているか聞いていたのですが、治りが悪い患者さんに限って「きちんと食事をしている!」と主張されるものの、皮膚や舌を診るととてもそうとは思えません。水掛け論をしても仕方がないので、一週間分の食事を写真に撮ってきてもらうことにしました。百聞は一見に如かず! 写真を見ると、患者さんがおっしゃることと、食事の内容が全く違っていたのです。もちろん患者さんを責めるつもりはありません。本人の認識と、医師の認識の違いを、写真で埋め合わせることができるとわかったのが収穫です。そこからは食事の指導と漢方薬で、アトピーの治療効果が急速に良くなっていきました。アトピーが「治った」といえるのは、食事の自己調節だけで症状をコントロールでき、漢方薬が要らなくなったときだと、自信を持って言えるようになりました。
 私のアトピー治療が上達したのは、尊敬する諸先生方のお蔭です。表面は冷やしても脾胃は冷やさずにすむ石膏の大胆な使い方は江部洋一郎先生から、「引火帰源」に必要な附子の重要性の確信は小髙修司先生から、麻黄の機能と使い方は仙頭正四郎先生から学びました。そして、最も大切な食事療法の重要性は甄立学先生からです。私自身、頑固な副鼻腔炎に悩まされており、手術をしても完全には治らず、風邪を引くたびに二週間は耳鼻科に通わなければならなかったのですが、それを完全に治してくださったのは甄先生です。私はピリ辛が好きで、風邪のときに温めるつもりでピリ辛を摂っていたのですが、「風邪のときは炎症を悪化させるピリ辛と肉は絶対に駄目です。野菜を中心に、日本料理のようなあっさり味にしなさい」と教えてくださったのです。その通りにすると風邪を引いても副鼻腔炎にならなくなり、後鼻漏もすっかり治りました。さらに鼻前頭管の閉塞も治り、飛行機に乗っても頭痛が起こらなくなりました。
 アトピー治療の本はたくさん出ているのですが、食事で治して、漢方で治るスピードを上げる考え方の本はあまり見かけません。またマンガで描いた方が広く読んでいただけるのではないかと考え、こういうスタイルにしました。食事指導の一環として患者さんに読んでいただくことを中心に考えましたが、漢方初心者の医師が適切な処方を選べるような内容にもしたつもりです。医療従事者、患者さん双方にこの本を役立てていただきたいと思います。
 最後に、プロのマンガ家で連載中にも拘わらず作画依頼を快く受けてくれた岡山大学漫画倶楽部の後輩・馬場民雄先生、今までと毛色の違う出版を引き受けてくださった東洋学術出版社の井ノ上匠社長、麻生修子さん、アトピーの漢方治療の要点を教えてくださった故・江部洋一郎先生、小髙修司先生、仙頭正四郎先生、そして食事療法の重要性を教えてくださった甄立学先生に心からお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。


二〇一八年五月吉日 三宅和久




『中医臨床のための医学衷中参西録』 第3巻[生薬学・医論・書簡篇]  あとがき

[ 中医学 ]

 
あとがき
 
 《医学衷中参西録》もようやく最終巻として上梓することができた。本書は薬物講義・医論・書簡を中心とした内容で張錫純の最晩年に書かれ,臨床家のみならず教育者としての彼の実像を伺うことができてまことに興味深い。翻訳は池尻研治が行い,研究会の場で会員諸氏と討論を行った。はじめて張錫純に注目されて,実臨床でその処方を駆使された伊藤良先生は鬼籍に入られ,森雄材・竹原直秀・浜田富三雄諸先生ら一緒に討論をした会員たちも黄泉に旅立たれた。本文中では《素問》《霊枢》をもとに論じられた個所も多く,故・竹原直秀先生の訳書(未発表)を参考にした。当時の人びとの考え方や,手紙文に対する知識が不十分で,読みにくいところや誤解があることを危惧するが,間違いなどがあればご指摘をお願いしたい。物故会員を含む多くの会員,とりわけ東洋学術出版社の井ノ上匠社長はじめ関係者の方々の多大なる御協力で本書が完成できたことを心より感謝申し上げる。
 

『中医臨床のための常用生薬ハンドブック』あとがき

[ 中医学 ]

 
あとがき


 旧版を出版して30年が経過した。多くの読者を得るも絶版となって久しい。再版を望む声もあり,今回「新装版」として出版されることとなった。旧版のハンドブックという体裁を踏襲しつつ,蜂蜜を除くすべての生薬にイラストを加えるとともに基原を追加し理解のたすけとした。さらに細かな修正を加え使い勝手を改善した。
 以前に比べると漢方製剤を処方される方々は増加したが生薬1味ごとの匙加減についてはいまだにハードルが高いようである。本書が生薬処方の理解のたすけになれば幸いである。
 旧版は前会長・伊藤良のもと,森雄材が下原稿を作成し会員の討論修正で完成した。すでに物故者となられた両氏をはじめ,旧版成立に尽力された方々に心から感謝を捧げる。
 また,辛抱強くご協力いただいた東洋学術出版社の井ノ上匠氏にも深く感謝を申しあげたい。


神戸中医学研究会



『中医皮膚科学』 あとがき

[ 中医学 ]

 
編訳者あとがき


 私が中医学に出会ったのは30年前,1990年代の前半であった。同じ年に2回,北京と台中(台湾)で行われた研究会・国際学会に参加し,発表したことがきっかけであった。以降,北京東直門病院・天津中医薬大学第一附属病院(石学敏院長)で中医鍼灸を参観する機会を持った。また,昭和医科大学のリハビリテーション科初代教授・森義昭先生のもとに留学していた北京医科大学の先生などを北京に訪ねたりしているうち,周りの中国人朋友の尽力もあり,95年から96年まで上海に1年半の留学をする機会を得た。
 95年秋には,東京理科大学の山川浩司教授,東京薬科大学の川瀬清教授などの諸先生方と一緒に薬史学会主催の中国の漢方史蹟を巡るツアーに参加する機会があった。西安訪問の後,陝西省耀県に『千金方』で有名な孫思邈の生地を訪ね,最後に四川の成都でその地の中医学を見ることができたのは幸運であった。
 私は,80年代には,北里研究所附属東洋医学研究所の岡部素明部長の鍼灸部門に定期的に通って,東洋医学の鍼灸(経絡治療派)は習得していたが,留学中に中国鍼灸で学ぶものは少なくなかった。日本では,74年頃より日本医師会長・武見太郎先生のバックアップのもと,保険適用となる漢方エキス製剤が数多く出現しており,日本の医師たちは簡便なそれに頼っていた。しかし,私は中国で中薬を学習し,それを用いた包剤(煎じ薬)の使用を習得したいという希望が強かった。それで,当然,帰国後は漢方治療に煎じ薬を取り入れた。また,中医中薬理論・包剤理論・弁証方法の習得にも力を入れた。
 従来の西洋医学で治りの悪い患者に,伝統医学を応用して良い結果が出せるようになったのは,これらの技法を使うことができたからである。その後も,さらに技を極めたく,中国の本場の現代漢方・中医学を実地に見続けてきた。当初は,中薬の数の多さに圧倒され,珍奇な動物性のものや,虫類のものの有効性に驚くことが多かった。破傷風に対する玉真散の存在や,痙攣に対する熄風鎮痙の羚羊角(犀角)・地竜などの効きめなどを知った。
 さて,この『皮膚病中医診療学』(人民衛生出版社)の翻訳作業は,東洋学術出版社の前社長・山本勝嚝氏のお薦めで取りかかった。この本は中医外科がベースになっており,膠原病からエイズまで西洋医学の皮膚科の概念を超えて,難治性の内科疾患も扱っている。中医外科・皮膚科のはじめての本格的な日本語訳の書籍であると思う。翻訳に加えて編集作業も行い,内容の豊かさを企図した。欧文表記も追加したので,欧米にアピールするときに参考になると考える。
 読者には,日常の診療に弁証・弁病というアプローチを取り入れて,難病との格闘に大いに利用してほしいと思う。また,伝統医学に初心の医療関係者には「西学中」(西洋医が中医学を学ぶこと)の姿勢で取り組んでほしい。大陸では特に伝統医学を目指す若い西洋医をこのように呼んでいた。これから伝統医学の習得を目指す本邦の「西学中」の医師にとって,この書は皮膚科が専攻であるかどうかを問わず,中薬の使用法,組み合わせ(方剤)を思案するのに非常に有益な内容になっていると思う。
 この翻訳・編集作業にあたっては,中医翻訳家の田久和義隆先生にご協力いただき,多大な謝意を表したい。各論の翻訳については,当時上海中医薬大学に留学中だった宮本雅子さんと守屋和美さんにお世話になり,感謝している。
 皮膚科の専門的な部分に関しては,日野治子先生(元関東中央病院皮膚科部長・現特別顧問)にご教示いただき,感謝申し上げたい。
 古典の条文解釈については,東京世田谷・明正堂薬局の赤本三不先生(温知会)にご尽力をいただき,感謝申し上げたい。
 中国では,上海中医薬大学や浙江中医薬大学の諸先生方にお世話になった。特に朱根勝先生(上海中医薬大学国際教育学院)には多大なご指導,ご尽力をいただいた。
 最後に,ご協力くださった関係各位に厚くお礼申し上げます。


2017年4月
村上 元



 

前へ |  1   2   3   4   5   6  | 次へ

ページトップへ戻る