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乾燥総合症の治療について ―劉永年先生の治療法

あけましておめでとうございます。
貴重なお正月休みにも関わらず,どうしてもぼーっとできずに中医学の勉強をされてしまった先生も多いでしょうか!?
2006年もみなさんにとって良い年になるように,お祈り申し上げます。

さて,お年玉は差し上げらないのですが,かわりに興味深い論文がありましたので,ご紹介したいと思います。

「劉永年教授による乾燥総合症の治療経験」
 江蘇中医薬2005年第26巻第11期

南京市中医院で国家級老中医・劉永年先生に3年に渡り指導を受けている駱天炯氏が,劉先生の乾燥総合症の治療経験を要約して報告していました。
先日の病院研修で劉先生の臨床を実際にそばで見せていただきましたが,劉先生の治療に対する考え方はたいへん参考になるものです。
以下に,論文のポイントを抜粋しました。

1 本病の原因は燥毒であり,津傷液燥が病理基礎にある
 劉先生は,本病でみられる燥は,通常の内燥と比較してもっと進んだ「邪毒」の性質をもつと認識している。
燥毒が生じる背景には,「先天の稟膩不足」と「後天の邪毒の侵襲」が密接に関与している。
 また本病の病理基礎としては津液不足が存在し,津液の正常な生成・分布・転化のサイクルが障害されている。
津液不足には,「陰津の欠損」と「津液の分布障害」の2つの側面がある。
前者は先天および後天による津液不足,後者は気虚と血瘀が主な原因となっている。

2 肝・腎・脾の三臓が主要な病位である
 本病では,人体のあらゆる臓腑・経絡・器官に燥の病変がみられるが,臨床経験から本病の燥証の根源は肝・腎・脾の三蔵にあるといえる。
眼は肝の竅であり,陰血が不足すると容易に化熱・化燥・燻灼上炎して眼部が乾燥する。
 また,口は脾の竅であり,口中の津液は脾の化生の働きにより作られ,腎は精を蔵し五液を主っており,先天の本である。
したがって脾腎の病変は,陰津の化源不足や精血陰津の欠損を招き,その結果燥火が上炎する。
 さらに本病の症状は,しばしば関節や筋肉・皮膚に現れるが,それらは「痺証」の範疇に含まれるものである。
ただし,本病では寒象・湿象のタイプの痺証はみられず,多くは乾燥象である。
そのほとんどは気鬱化熱・素体陽盛あるいは内蘊積熱によって陰液が傷つき,血燥生風・陰傷血滞不通となっているところに,風邪が関節・筋・骨を侵すことによって痺証を発症する。

3 滋陰潤燥が治療の原則
本病の治療の基本は,滋陰潤燥にある。
しかし,その際に注意しなければならないのは,「陰の不足を急激に補うと,効果が現れない」ということである。
猛剤・重剤で滋塡すれば,かえって膩滞を引き起こしてしまうので,忍耐強く養柔するのである。
小雨がじわじわと沁みこむように,時間をかけて滋陰してはじめて効果を得ることができる。

 基本的な方薬は,玄参・生熟地・天門冬・生山薬・楓斗・玉竹・黄精・亀板・白芍・烏梅などを用いる。
もし燥火内熱を兼ねていれば,知母・黄柏・牡丹皮を加え,微熱があれば,地骨皮・白薇・銀柴胡・青蒿などを加える。
 そのほかにも,血虚があれば生地黄・阿膠・赤白芍・当帰・丹参を用い,燥毒熾盛であれば清熱解毒の水牛角(犀角の代わり)・土茯苓・大黒豆・黄芩・連翹・貫衆などと,泄熱降火の生石膏・知母・牡丹皮・生地黄・夏枯草などを用いる。
 また気虚の場合には,党参・黄耆・太子参・白朮・葛根・薏苡仁・炙甘草・荷葉などを,虚寒がはなはだしい場合には桂枝・仙茅・巴戟天・兎絲子・仙霊脾などを,四肢厥冷の場合には桂枝・細辛・当帰・鶏血藤などを用いる。
 ただし,脾虚陽弱がみられないときは,むやみに温熱薬を与えてはいけない。
補脾しても壅滞させないように,益気しても温燥に偏ることのないように,壮陽しても温潤であるように,潤燥しても陰膩にならないように,全体を考えて弁証にもとづいた選方用薬をすることが大切である。


内容は,いかがでしたか?
「個々の患者さんの病態にあわせて,処方全体のバランスを上手にとりながら最大の治療効果を引き出す処方が出せること」
それは経験豊富な老中医だからこそなせる業であり,私たちの目指す目標ですね。

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2006年01月04日 14:24に投稿されたエントリーのページです。

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