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▼李世珍先生の針

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ここから新しい世紀が始まります

 当社が発行する『臨床経穴学』(原書名:『常用腧穴臨床発揮』 訳者:兵頭明)の著者・李世珍先生と李伝岐先生を,今年(2002年)の夏(7月11日~8月20日) 40日間にわたってお迎えすることになりました。そして,6月20日に発売予定の両先生の2冊目の大著『中医鍼灸臨床発揮』(原書名:『針灸臨床弁証論治』)の出版を記念して,東京・大阪を中心に20数回の大講演会と中・小の講習会が開催されます。

李世珍先生とはどんな先生?

 李世珍先生は,『傷寒論』の著者・張仲景の生誕の地,河南省南陽市にある張仲景国医大学の針灸名医であり,教授です。また今回同行される李伝岐先生は,李世珍先生の息子さんで,家伝5代目にあたられ,同じく張仲景国医大学で教鞭をとっておられます。
 李世珍先生は,4代にわたる家伝の針灸を受け継いでこられた上に,新たな発展を加えられました。その最大の特徴は,針灸における弁証論治の体系を強調されたことです。針灸の弁証論治の体系が強調されるようになったのは,新中国になってからですが,その初期に主張されていたのが李世珍先生であったというお話を聞きます。

針灸弁証論治を強調

 先生の針灸弁証論治の体系は,先生の大著に遺憾なく発揮されています。全編にわたり弁証論治の実質が説かれています。皆さんは,弁証論治という言葉を耳にされたことがあると思いますが,本書を通じてその実質を知ることができると思います。とりわけ「理―法―方―穴―術」の一貫性は見事です。

衝撃を与えた臨床の指導書

 この大著が中国で発行されたときには,中国針灸界に少なからぬ衝撃を与えました。印刷事情もよくなかった80年代に出された本としてはボリュームからして際だっていました。北京でお会いした中国の医師たちに話を聞くと,このような場合,人を評価することには躊躇する人が多いのですが,みな口を揃えて「いい本だ」と高く評価していました。当時は李世珍先生もそれほど有名な先生でもありませんし,むしろ中国の人も書物から初めて名前を知ったくらいだと思います。

兵頭先生の慧眼とご苦労

 兵頭明先生が本書を見つけて翻訳・出版されたのは1995年。一人でよくもこのような大部の本が翻訳できたものだと心底から感心したものです。その苦労・努力はいかほどのものか,想像もつかないほどでした。
 本書が出版されて以来,すでに2,500冊が発行されています。当時定価が18,000円と極めて高額な本でしたが,これほど多くの読者が求められるとは想像もつきませんでした。そのため限定本に近い定価をつけたのですが,後から兵頭先生から本書は日本針灸教育の歴史のなかで重要な位置づけの本になるので,なんとか定価を安くしてほしいという強い要望があり,印刷屋さんと相談をしてコストを切りつめ,並製本にして現在の定価にしたという経緯もあります。

中医針灸臨床の手引き書

 兵頭先生は,天津中医薬大学と共同出版した『針灸学』シリーズ三部作(基礎篇・臨床篇・経穴篇)で,ほぼ中医針灸学の基礎知識の大枠を完成したのち,弁証論治にもとづく臨床学習の手引き書として本書を位置づけ,非常に重視してこられました。しかし,この段階ではまだ知識の提供に終わっていましたが,これ以降,変化が生まれてきました。

留学生が南陽まで学びに行く

 中国へ留学した学生たちが,留学期間が終了した段階で,臨床力を身につける目的から,自ら南陽まで足を伸ばして李世珍先生の診療所へ研修に行き始めたのです。南陽といえば,飛行場はあるにはありますが不定期便です。やむなく汽車で北京から片道18時間をかけて行きます。本当に田舎です。設備も整っていません。そんな場所へ行く学生が1人2人ではなかったのです。もう20人,30人という留学生,あるいは直接日本から噂を聞いて研修に行く針灸師が増えていきました。

愛媛中医研が大決断で李世珍先生を迎える

 愛媛中医研の越智富夫先生も南陽へ研修に行かれた針灸師のお一人です。越智先生たちの大決断で昨年9月に李世珍先生をお迎えしての講演会が松山で開かれました。東京や大阪でなく,初めて地方で開催されたにもかかわらず大成功をおさめました。120人の会場に160人が申し込み,20人に入場をお断りせざるをえなかったそうです。李世珍先生の針を学び取るのだという熱気が会場に満ち,近年にない素晴らしい講演会になりました。そして,この大会が引き金になりました。

追試して効果を実感!

 皆さんは,あの大部の『臨床経穴学』をどう学んでこられたでしょうか。おそらく苦労して読んでみたが,それを実際に運用した際に,思わしい効果が得られずに,投げ出してしまわれた方も多かったかもしれません。ところが,愛媛で臨床家たちが李世珍先生の実際の臨床に触れたことが,大きな変化を生み出すことになりました。
 参加者のなかから,まずツボの少なさ(3~4穴)に驚いたという声が伝わってきました。また,帰ってから自らの患者に追試をしてみたら,「ものすごい効果が出た」「患者が気持ちのよい鍼だという」「こんなのは初めてだ」と驚きの声が寄せられました。その声は1人2人だけではありません。複数でした。これまでとはまったく違う嬉しい反応です。ぜひ李世珍先生をお呼びして,直接じっくりと学ばせてほしい,実務は自分たちでやるから,ぜひ東洋学術出版社に呼んでもらいたい,という強い要望が寄せられました。

李世珍先生を迎える実行委員会

 現在,当社が主催ではありますが,実質的には各研究会の有志が中心になって李先生をお迎えするための準備が着々と進められています。いわゆる「草の根運動」です。今年1月27日に第1回連絡会議が開催され,東京のいくつかの研究会を代表して13名が参加,3月17日には新しい研究会も加わって第2回連絡会議が開催されました。多くの方々が,献身的に準備活動に参加されています。このような取り組みは初めてではないでしょうか。
具体的な講演会・講習会の企画は次のホームページでご覧になれます。
http://www.nexsite.net/li-daifu/plan.html

 東京(7月14日)・大阪(8月4日)で大きな講演会が開かれます。会場は大きい会場が予定されています。できるだけ多くの針灸家に参加していただきたいと思っています。全国の先生方の総力を挙げた立派な講演会になるよう,皆さんのご協力をお願いいたします。
そのほか,40日間の期間中に22回の中・小の講習会がおこなわれます。ここで,徹底的に李先生の針灸治療の真髄に触れていただくわけです。

「虎の子」をはたいても

 これまで中国の名医を迎えて,一定期間に集中して徹底的に学ぶというようなチャンスは,あまりありませんでした。今回,皆さんがこのチャンスを利用して講習会に参加され,李世珍先生のノウハウを徹底的に学び取っていただきたいと思います。
 李世珍先生も大変ご高齢です。このようなチャンスはもうないかもしれません。もし南陽まで行けば数十万円という費用と時間が必要になります。今回の講習会は,思い切って「虎の子」をはたいてでも学んでいただく価値があるものと思います。「匠の技」を習得するための代価とお考えください。
 
「痛い中国針」が「心地よい針」に大化け! ほんと?

 これまで「中国針」は痛いものと思いこまれてきました。「弁証論治は取り入れるが,使う針は細い針で」――これが一般的でした。しかし,太い針でも患者に合った配穴と補瀉手技を行えば,かえって「ソフトな心地よい針」になるといわれます。最近,私も李世珍先生のやり方で針治療の体験をさせてもらいましたが,手技は実にソフトで,得もいえぬ快感を感じました。もちろん刺入時はいつ刺入されたのか気づかないほどです。このような中国針があるのだ,とはじめて感動さえも覚えました。
研ぎ澄まされた弁証と厳密な選穴,補瀉手技の時間の設定,これがすべてを決定します。補瀉手技の時間も,時には,補の手技が10分に及ぶこともあります。李世珍先生の針はこれまでの常識を覆すものです。
刺入後の操作が心地よい感覚を患者に与え,治療効果がその操作によってより有効に発揮されるのであるとすれば,置針だけで済ませるこれまでのやり方では,大事に育てた果実を食べずに捨てるようなものといえましょう。

中医針灸学は優れた治療技術

 ほんらい,中医針灸は疾病治療のための優れた高度な技術です。日本社会において,もっともっと威力を発揮し,医療界に貢献して当然な内容をもっているはずです。しかし,日本ではまだ十分な力を発揮できていません。「太くて痛い針」とか,「理屈は優れているが,臨床はイマイチ」などと揶揄されることもあります。それもやむを得ない事情がありました。中医針灸学が日本に導入されたのは,ほんの20~30年前であり,それも書物を通じて輸入されてきたものです。師匠もおらず,臨床教育施設もない条件のなかで,独習しながら手探りで臨床に応用されてきたのです。中医学を学ぶ人々のなかでも,「なにか手応えがつかめない」「臨床に応用しても今ひとつ自信がもてない」,といったある種の無力感,閉塞感がつきまとってきたのも事実です。

こんどこそ中医針灸臨床の真価を身につけよう

 しかし今回,状況を一変させるような転機が訪れようとしています。2~3時間の講義を1回だけ聴いて終わるのではなく,1ヵ月余にわたって李世珍先生の針をつぶさに学ぶチャンスが生まれました。臨床の手応えを必ず獲得していただけるに違いありません。
 また今回は,以前とは異なる有利な条件も整ってきています。一方的に老中医の話を聴くだけでなく,すでに皆さんが李世珍先生の針を吸収できるだけの十分な力量をそなえてこられていることです。李世珍先生の針を実践に応用して,十分な手応えを感じ取っている方々が,すでに生まれてきています。最近号の『中医臨床』88号にご寄稿いただいた白川徳仁先生の「李世珍先生の針を追試して」は,特筆すべき文章です。この記事を読んだ読者から「まさに目に鱗でした」と感動されたお話を伺っています。皆さん,ぜひとも読んでいただきたいと思います。
そして今回,「李先生を迎える連絡会」のメンバーが,ボランティアで事前に李世珍先生の手技の初歩を教えてくれています。希望される方は研究会を通じて申し込んでください。お互いに助け合う条件ができてきたことは素晴らしいことです。
「今年の夏が過ぎたら,日本の中医針灸の世界に変化が起きている」,そういう状況が生まれることを願っています。

 (2002年5月記)


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