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▼李世珍先生の針

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『中医鍼灸臨床発揮』の「著者まえがき」

日本語版序文

日本の鍼灸医療に従事している皆さんへ

 孔子は「三人で行けば,その中に必ず師となる者がいる」と述べている。『常用穴臨床発揮』(日本語版:『臨床経穴学』)に継いで,『鍼灸臨床弁証論治』(日本語版:『中医鍼灸臨床発揮』)の日本語版が出版されることとなった。日本における多くの鍼灸医療に従事している先生方から本書に対する貴重な意見を賜り,相互に経験交流を行うことによって長をとって短を補いあい,一緒になって鍼灸医学を広め,人類に幸福をもたらすことができることを,ここに衷心より希望する。

 鍼灸の発展史から見ると,内経や難経から甲乙経,鍼灸大成にいたるまで,また標幽賦から勝玉歌にいたるまで,鍼灸医学は徐々に系統化,理論化をすすめてきた。しかしその中には「一症一方」,つまり某経穴が某病を治すとか,某病には某経穴を取るといったものが多々ある。さらに後世においては鍼灸に従事する医家が歌賦の影響をかなり受けたことによって,臨床経験の総括を重視するあまり,基礎理論の研究を軽視する傾向にあった。このため鍼灸医学はたえず低い水準を徘徊することとなったのである。

 1950年代初めの頃であったが,中南衛生部の主催する鍼灸教師班において,私はいくつかの経穴の効能や弁証論治について紹介したことがある。合谷に鍼で補法を施すと補気をはかることができ,復溜に鍼で補法を施すと滋陰をはかることができるといった内容や,合谷と三陰交を配穴して鍼で補法を施すと八珍湯に類似した効果を得ることができるといった内容を紹介すると,会場の専門家たちは驚きをおぼえるとともに非常に新鮮に感じたということだった。その後,何度も全国各地の鍼灸界の諸先輩方,専門家たちと家伝である諸穴の効能,経穴の効能と薬効との関係,弁証取穴,全体治療といった経験について交流を行い,専門家たちから非常に高い賞賛を得ることができた。整体弁治,経穴効能研究の先駆けとして認められたのである。とりわけ『常用穴臨床発揮』の出版は,鍼灸界から鍼灸発展史の上における新たな一里塚となるものであると誉め称えられた。

 2冊目の『鍼灸臨床弁証論治』を出版したこの3年の間に,中国国内ではまた1つの小さな高まりがまき起こっている。中国各地からの研修希望者がたえないばかりか,国外の留学生も日増しに増えるようになった。南京中医薬大学鍼灸推拿学院は,本書を同学院の大学院生の必修書として指定し,同学院の院長である王玲玲教授はさらに本書にたいして「中医理論研究を運用した近代まれにみるまことに得がたい鍼灸専門書であり,また鍼灸臨床の指導を可能にしたすばらしい専門書である。本書の貴ぶべきところは,五世代にわたる精華を集積し,理論と臨床の実際を結びつけているところにある。つまり実践経験を理論に昇華させ,さらにその理論により臨床実践を指導していることが重要なのである。本書は臨床にそくした実用書であるとともに,さらに重要な点は本書が科学研究と教育面において極めて高い価値をもっていることにある。」と書評を記してくれている。

 私はすでに古稀を迎え,臨床および教育に従事して50幾年になるが,上述の2つの著書のためにほとんどすべての心血を注いできた。しかしながら「老驥伏櫪,壮心不已」[老いても志が衰えないこと]の気概をもち,現在さらに『鍼灸配穴処方学』を執筆中である。この書は家伝経験の重要な構成部分をなしている。これらの3部書が一体化することによって,先祖伝来5世代にわたる鍼灸経験の全貌を示すことができるのであり,一体化した鍼灸弁証論治の理論体系を構成することができるのである。 私の弟子たちがあいついで育ち私の有力な助手となりえていること,家伝鍼灸事業に後継者がいることは,私にとってこれ以上の喜びはない。

 最後に『鍼灸臨床弁証論治』が日本で出版され,これが中日医薬文化交流の契機となり,鍼灸医学が人類医薬学のなかでいっそうの役割を発揮することを希望する。

李世珍
1999年

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