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中国針灸の西洋進出顛末の真相(1)

針麻酔秘話の真実

 中国の中医学界に,長く広く伝えられている美談がある。それは,1970年代に当時のニクソン大統領が訪中したとき,随行した記者が急性虫垂炎を患い,記者は北京医院に入院し,中国人医師が執刀したのだが,手術時に麻薬ではなく針灸による麻酔を行い,手術は無事成功を収めたというものだ。手術を受けた記者は米国に帰国後,新聞に自身の経験を記した記事を発表し,その後米国で針灸熱が高まった。
 しかしこの美談は誤りであった。
 米国籍の中国人医師・李永明は,12月5日に行われた中国中医薬報社の講座のおりに,自身の調査によって,40年以上前に針灸が西洋に進出した真相を明らかにした。李氏は,「私は,当時手術を受けた記者が訪中した際に,全行程で通訳を担当した人や,接待した中国の外交官・記者に針灸を行った医師を探しました」と話した。
 李永明氏は,米国で医師・専門医師・針灸師・中草薬剤師の免許を取得しており,10数年にわたり米国東海岸で最大の中医学会の会長を務めた人物である。李氏は調査や考証を何度も繰り返し,長年にわたり広く伝えられている針灸の西洋進出の事実を徐々に明らかにしていった。そしてその事実がどのような過程を経て現在伝えられているような話に変化したのかを調べた。
 李氏が紹介した真実の物語は,以下のとおりである。『ニューヨークタイムズ』の記者ジェームス・レストンは,1971年の夏(1972年のニクソン大統領訪中時ではない)に訪中した際,急性の虫垂炎にかかり反帝医院(現・協和医院。北京医院ではない)に入院して手術を受けたが,術後腹部が張って痛み,針灸・艾灸などの術後処置を受けて痛みが消失したという(針麻酔を受けたのではない)。記者は病床で自身の経験を整理した「Now, About My Operation In Peking」と題した記事を(帰国後に発表したのではない),『ニューヨークタイムズ』の一面に発表した。記事では,針灸による治療経過や効果が詳細に記されており,アポロ15号発射のニュースと時を同じくしたこともあって,広い関心を集めたという。その後,中国の針灸は米国に進出し,社会的にも主流となって,多くの人に認識され受け入れられた。
 李氏は,「私は記者ではなく,一介の医療従事者です。しかし,私たちは忘れてはならない歴史的な事実を発掘し,真相を明らかにするべきだと深く感じました」と話した。これらの物語は,中医学が西洋に伝わる過程において,重要な影響を与えた人々や事実を表している。しかしこれらの物語は真実によって再現されるべきであり,この物語に携わった人々の黙々とした貢献がなければ,中医薬や針灸が今日のように,米国で健全な発展を遂げることはできなかったであろう。
 李氏は記者に,「率直に言えば,真の意味で針灸が西洋に進出できたのは,1人の記者,2人の科学者,4人の医師および1組の訪問団を含む,多くの人々による数件のできごとのおかげです」と話した。記者というのはレストン氏であり,科学者・医師・訪問団というのは,1970年代に訪中した米国サイドのスタッフのことで,彼らは中国針灸の神秘的な治療効果を理解したうえで,米国に戻って積極的な宣伝と呼びかけを行ったのである。このことが,中国針灸の米国における伝播と発展を後押しした。李氏の調査研究の結果は,2011年に出版された『美国針灸熱伝奇』にすべて収録されている。


関連リンク:「中国針灸の西洋進出顛末の真相(2)」


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