・現在ロシアでは約2万3千人の中医師が従事
・67%の国民が中医を含む伝統医学を信頼
・農村および小都市の中草薬使用率は40~50%
・3万5千人余りが正式な気功トレーニングの参加経験あり
モスクワの実践意象医学学院(Image Medicine College)のSmirnova Olga教授はこのほど,中国国際貿易促進委員会と国家中医薬管理局が主催する第6回中医薬国際発展フォーラムにおいて,ロシアにおける中医薬発展の近況について,「ロシアは,『健康的なロシア』プロジェクトに中医を取り入れようと考えている」と語った。
中医機関は日々増加
Olga教授は,ロシア国家社会研究所の統計によると,ロシアの人口1億3千万のうち,67%の人が中医を含む伝統医学を信頼していると話した。現在ロシアには約2万3千人の中医師(その大多数が鍼灸師)がおり,ほとんどの都市に個人の中医診療所があって,大都市には国立の中医鍼灸の研究所および治療機関があるという。教授は,「現在ロシアでは,中医学院や中医研究機関が日々増加しています。興味深いことに,2005年初頭に,ロシア医学科学院・ロシア営養医学院・ロシア伝統医学院およびその他の医学研究所や教育機関が,そろって東方医学研究院を創設し,臨床応用・学術研究・医学教育など多方面から中医学を理解・応用して,ロシアに本格的な中医を導入させました。2005年9月には,同機関はモスクワ・セントピーターズバーグ・ノヴォシビルスクに中医外来科を開設し,すでに試験基地として始動させています」と話した。
Olga教授は,ロシアのimage medicine(意象医学)およびスポーツ医学の研究者であり,image medicineの手法を10年以上研究・運用しており,臨床で長期にわたり,中国やその他の国の草薬による疾患の予防と治療を行ってきた。教授は,古中医であるimage medicineは,ロシアにおいて1つの流派になっていると説明した。「image medicineは他の流派と異なり,中医の根本的な理論である「象思惟」により人の生命および疾患を読み解き,疾患の診断や治療を行っています。私の臨床経験によると,image medicineは健康を回復するための完璧な医学体系であり,西洋医学や中医と上手に組み合わせれば,治療のうえで指導的な価値を提供してくれ,治療効果を向上させることが証明されています」と教授は話した。
現在ロシアにはimage medicineの専門家が600人以上おり,80の都市で活躍している。image medicineの診療を行う個人診療所は,その多くが徐々に患者の信頼を得ており,同診療所で治療を受けたり体調を整える人が増えているという。
伝統草薬の研究と応用を重視
Olga教授は,「ロシアは伝統草薬の研究を非常に重視しています。草薬資源も豊富で400種以上あり,一部の中薬はロシアの広範囲に分布しています。民間での使用も幅広く,農村や小都市における中草薬の使用率は40~50%に達しています。ロシアの臨床で直接使用している中草薬は,穀精草・牛膝・五味子・大黄などがあります」と説明した。
旧ソ連薬典のうち,植物薬は24%を占めており,さらに現代薬理研究が行われているそうで,新版の薬典の内容も大きな差はないという。統計によると,1991年にソ連が崩壊する前に,すでに3,200種以上の植物薬にたいする化学成分分析が行われていたそうで,ここ数年は最新の統計を行っていない。
中国の中薬企業の製品がロシアに市場に参入するに従い,華侘再造丸・三九胃泰・虫草カプセル・冬虫夏草内服液・銀杏葉カプセルなど,ロシアの薬品認可を申請している中成薬も十数種にのぼっている。ただし,さらに多くの中薬がロシアで登録申請をしているのは,保健食品としてである。
中医鍼灸は迅速に発展
中医の鍼灸は旧ソ連時代にすでに法的認可を得ており,1950年代から国の関連機関が鍼灸に対する系統だった研究を開始し,1976年からは一部の医科大学に鍼灸専門科が開設された。
Olga教授は,「鍼灸は針刺反射療法と名づけられました。この治療法は,中医に起源を発してはいるものの,中医の鍼灸と同一のものではなく,西洋医学の反射作用原理を結びつけたものです。方法は鍼灸と類似していますが,臨床における使用時期や適応症は異なっています。西洋医学では,脳出血や中風の初期に鍼灸を使用すると,血圧の上昇を招いて再度脳出血を引き起こす恐れがあると考えているため,鍼灸は,同疾患発生後半年以上経たないと使用しません」と話した。
また教授は,「ロシアの病院の鍼灸科では,通常レーザー経穴治療機器や大型の経穴電気治療器を採用しています。また,ロシア国内で研究・製造された小型の家庭用電気治療器は,ほとんどが個人診療所で使用されており,これらの治療器は大衆に非常に人気があります」と説明してくれた。
さらに,「現在ロシアには,『健康回復医学』『鍼灸治療法』という影響力の大きな定期刊行誌が2冊あります。また,ロシア語に翻訳された『黄帝内経』『難経』も出版されています。さらに,『新鍼灸学』『中医基礎理論学』『時間鍼灸学』などの書籍も新たに出版されています」と話した。
中医の完全な教育体制は未だ存在せず
Olga教授は,ロシアは医療規則や制度が非常に厳格だと語った。ロシアでは,西洋医学の大学を卒業し,その後継続して伝統療法の教育を受け,そこを卒業してはじめて同分野で合法的に医療行為が行えるという。また鍼灸師になると,さらに神経科の講習を1年受け,3カ月以上の専門教育を受けなければならない。
専門教育機関である,セントピーターズバーグ健康学院付属の意象医学発展学院を卒業すると,このような医学教育を受けていない人たちでも,卒業後に医療従事許可証(伝統医学分野に限る)を取得し,image medicineの分野で活躍することが許される。同学院は,2003年にロシア教育科学省の専門職教育許可証を取得しており,image medicineの調理師・食品保健師・マッサージ師の教育を行うことできる。
この他中国の中医専門課程については,現在ロシアにはまだ完全な中医の教育体制が確立されていないため, 中国と同様の専門課程や学歴が存在していない。このため,中医専攻の卒業証書は公式に承認されない。一方西洋医学の学歴は,ロシア教育科学省に承認されているため,就業試験に合格すれば,臨床で医療業務に従事することができる。
中医保健功法が人気
Olga教授は,「気功や八段錦・易筋経など,中国の伝統的な自己調整法は,早くからロシア人の興味を集めていました。多くの人たちが,これらの健康法を自身のおもな保健方法と捉えており,3万5千人余りの人が,正式に気功を勉強したことがあるといわれています。若い医師のなかには,気功を臨床治療の補助的手段と考えている人も多いようです」と話した。
ロシア人は,これまでずっと中医と密接に関わり合ってきた。教授は,1992年に中国から派遣された中医師団が,ロシアの北限の都市・ムルマンスクで現地の患者の治療を行い,広く認められるようになったと話した。また1996年には,当時のエリツィン大統領が系統的な中医治療を受け,顕著な治療効果をあげたという。前任のロシア大使も,中医を強く支持かつ保護しており,いつも中医治療を受け保健方法を行っている。
教授は,「内部資料によると,ロシア・中国の両国政府は,現在いくつかの分野における協力を計画しています。その計画とは,中草薬標準を策定し,中草薬登録を援助する。また,ロシア国内の中医診療活動や中医師の医療行為従事資格などを規範化し,ロシアで従事している中医と協力して,共同で開発・研究項目を進めるなどです。ロシア政府は,中医を『健康的なロシア』プロジェクトに組み入れようと考えています」と話した。
中国中医薬報[2012.05.10]
翻訳:平出由子