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英国における中医法制化12年の歩み(5)
英国中医薬学会(ATCM)会長 沈恵軍
項目
(1) 背景
(2) 【2000~05年】初期の草薬・鍼灸の立法経過
(3) 【2005~06年】立法過程における中医の平等な地位確定
(4) 【2006~08年】連合立法WGおよびその報告と保健省の第2回一般諮問
☞(5) 【2010~12年】この1年の進展と今後の見通し
(6) 英国の中医界が直面する問題
■5■ 【2010~12年】この1年の進展と今後の見通し
2008年11月,第2回一般諮問が終了した後,立法の進展は再び停止した。この間に,再度代替医療に反対する一派の波が押し寄せ,英国の主要メディアは,代替医療は非合法の医療だとか,大学の鍼灸などの課程は詐欺師に学歴を与えているようなものだなどと書き立てた。このためわれわれは,政府が代替医療の立法業務を中止あるいは変更するのではないかと再度憂慮した。その憂慮は的中し,政府は1年半後の2010年4月1日,Next Step for Complementary therapyという,代替医療の新たなステップとなる簡潔な公告を発表した。当時のAndy Burnham保健大臣は,国民に無許可の草薬を処方する医療従事者(言うまでもなくわれわれ中医師もこのなかに含まれる)は,必ず補完・自然保健委員会(the Complementary and Natural Healthcare Council:CNHC)に登録しなければならず,さらにここに登録しても,正規の医療従事者として認定されるわけではないと強調した。これは明らかに,主要医学分野のなかの代替医療に反対する団体や個人におもねるものであり,この案が通過すれば,われわれは西洋医療従事者と同様の,法的に保護された肩書を得られないことになる。さらに,鍼灸従事者の登録は延期され,鍼灸と草薬中医の登録は再び分割されたのである。
CNHCは,法的な登録機関ではないため,その規則や管理は,いかなる法律の保護および制約を受けなかった。これにより,当時の労働党政府が10年も前から行ってきた代替医療の立法準備や,すでに確立しているHPC方案を全面的に破棄することを余儀なくされ,「労働党政府のエープリルフール・ジョーク」だと嘲笑された。当時私たちは,10年もかけて準備したことを最終的に何の説明もなく打ち切ってしまったのは,労働党政府が5月の英国の大選挙を前に,間もなく野党に下ることを意識して,慌ただしく結論を下したためではないかと分析した。このため,これが最終決定なのか,今後何かの変化があるのかについてはまったく目途が立たず,特に新政府になってからどうなるのかは,雲を掴むような話だった。こうしてわれわれは,さらに努力を続けて,中医立法を勝ち取らなければならなかった。
2010年5月,英国の総選挙が行われ,保守党と自由民主党の連立政権が成立した。ATCMは選挙前に,英国各地の会員を集め,選挙区の議員立候補者に書簡を送り,「労働党政府のエープリルフール・ジョーク」に反対し代替医療の法制定の支持を要請するように,と指示した。また学会としても,直接両党の関係責任者に向けて,前労働党政府の案に反対であることや,私たちの中医立法の願いを再度書面にて伝えた。そのなかで,シェフィールドの江丹医師が,選挙区のNick・Clegg(現英国副首相)議員に手紙を送ったところ,Clegg議員は3月19日に江医師に返信し,自由民主党は代替医療の立法管理を支持するという明確な回答を得たことが,われわれを大いに勇気づけた。さらに,ATCMの沈恵軍会長は,保守党の影の保健大臣であるAndrew・Lansley氏や,保守党の影の保健大臣兼保健事務スポークスマンであるEarl・Howe氏に書簡を送った。Howe氏はすぐに,保守党は代替医療の立法管理を支持するという明確な回答を示し,さらに同氏が4月16日に送付した,当時の労働党保健大臣,Andy・Burnham氏宛ての手紙が同封してあった。Howe氏は同書のなかで,労働党政府は立法管理を放棄するべきではなかったと叱責していた。5月の選挙の後には,沈ATCM会長が,新任のAndrew・Lansley保健大臣および保健部長4名それぞれに手紙を出し,中医立法というわれわれの願いを伝えた。
その後の情勢により,新たな連立政権の保健省が,代替医療の管理方案を再度審議し,労働党政府のCNHC方案を覆して,元々定められていたHPC方案が議事日程に取り入れられることが明らかになった。保健省は2011年2月16日,2012年4月から草薬師と中医師に対する立法管理(※14)を開始すると宣言した。こうして,保健業種委員会(Health Professions Council:HPC)が,再び国民に無許可の草薬を提供する業務に携わる人たちに対する立法登録業務を行うことになり,これらの人たちは,2011年4月30日にEUの伝統草薬製品法令が有効となってからも,引き続き国民に草薬を提供できるようになった。しかし,保健省はこれと同時に,鍼灸業種に対する立法登録管理は暫定的に行わないことを公表した。
保健省はさらに2月16日,1年半前に行った第2回一般諮問の結果(※15)を発表した。2009年11月の一般諮問までで,6,600余りの回答を得たが,そのうちの大多数(85%)が立法を支持しており,反対意見は15%に留まり,反対者はおもに主流医学の団体および会員だったという。回答者のうち大多数が,HPCが鍼灸・草薬・中医の3業種に対する立法管理をすることを支持し,鍼灸を独立して管理することには反対していた。
英国の中医界は,保健省の最新発表を歓迎した。われわれが待ち望み,そのために11年の歳月をかけて奮闘努力をした目標が,あと1年で実現できるのだ。しかし,われわれはこの喜びを慎重に受け止めていた。なぜなら,政府の立法方案はまだ具体化しておらず,法制定において,われわれの利益や要求がどれほど守られるかは未知数だったからである。政府の立法方案は,第3回一般諮問や議会の承認を経なければならず,今後どのような変動があるかは知る由もない。それでも英国中医薬学会はこれまでどおり,中医の英国,ひいては世界における発展と合法的地位や,会員および世界中の中医従事者の合法的権利および利益を獲得するために努力を続けていくだろう。
(つづく)
[参考文献]
14)http://www.dh.gov.uk/en/MediaCentre/Pressreleases/DH_124376
15)http://www.dh.gov.uk/en/Consultations/Responsestoconsultation/DH 124337
出典:英国中医立法12年的歴程和結局.世界中医薬学会連合会首届中医全球化与人類健康高峰論壇 論文匯編
翻訳:平出由子
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