5月17日、四川省成都で治療を続けていた中国で第1例目の新型インフルエンザ患者が無事退院した。日本をはじめとして全世界での流行が懸念されている新型インフルエンザだが、中国国内の治療では、中医学と西洋医学の専門家が協力して治療が行われている。
今回の新型インフルエンザ治療で注目されているのが、衛生部・中国国家中医薬管理局が緊急に発表した治療案で、中医学の弁証論治が取り入れられており、この第1例目の患者に対しても中医学が用いられている点だ。5月18日付けの『中国中医薬報』では、四川省で発生した患者の治療にあたった北京中医薬大学付属東直門医院救急科の劉清泉主任がこの患者の経過を紹介している。
アメリカからブラジル・東京成田・北京経由で5月9日に四川省に入ったこの患者は、この段階で発熱、咳、喉の痛み、鼻づまりなどの自覚症状があった。成都市伝染病医院に転院され隔離治療を受けた。この患者の治療に対して、5月11日に中国衛生部は四川省に派遣したが、この中に劉清泉主任が唯一の中医学の専門家として参加している。SARSや手足口病の伝染病以降、中医学の早期介入に衛生部門が力を入れ始めていることへの現れとも言えるだろう。
治療チームが四川省に到着後、まず患者に対しての弁証が行われた。衛生部が示した中医学の治療案をもとに専門家が討論をかさね、タミフル以外の薬の使用を一旦停止した。その上で、中成薬の「銀黄顆粒」と中医薬による静脈点滴剤「痰熱清」を使用、およそ1日半後に熱がさがり、体温が正常に戻った。その後、咳・痰が激しくなったが、麻杏石甘湯を5日分服用し、咳などの症状は改善された。
劉清泉主任によると、今回の新型インフルエンザは、中医学では温病に属し、中医学の伝染病に対しての豊富な経験が活用できるとしている。張仲景の『傷寒雑病論』や李東垣の『内外傷弁惑論』、呉又可の『温疫論』、葉天士の『温熱論』、呉鞠通の『温病条弁』などそれぞれ様々な観点で弁証論治を展開しているが、これらが参考になるとしている。
さらに、今回の世界的に流行している新型インフルエンザに対して、中医学では南半球と北半球では、気候の違いによりその性質に変化が出てくるとみられている。たとえば、中国国内ではその性質は「温」である一方、南米では「温」と「寒」が交錯しており、中医学での治療では、「因人・因時・因地」の思想のもと、治療案を組み立てて行かなければならない。西洋医学は原因となるウイルスを探しだし、これの対策を講じる一方で、中医学では人に着目するため、弁証論治を基礎に、未知の伝染疾患に対して力を発揮できるとしている。(2009年5月21日 中国中医薬報 5月18日付け 新民晩報 5月12日付けなど 藤田 康介)