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上海市人民代表大会で討論された中医学の現状とその対策

 上海市にはかつて様々な中医学の流派があり、中国全国的にも有名であった時代があった。しかし、現代ではその継承が十分ではなく、人材の海外への流出も続き、今では後継者の育成に大きな問題を抱えている。

 次世代の中医師をいかに育てるかの問題は、今や中国で早急に取り組まなければならず、2009年1月に上海市で行われている上海市人民代表大会でもその対策が討論されている。

  上海市にはかつて様々な中医学の名医がいた。例えば、チフスを診察した張雲驤などもその代表だろう。特に、近代上海においては「海派中医」とも呼ばれた名医たちが隆盛した時期があり、中国国内でもその活躍は有名だった。代表的なのは、中医傷科八大家・中医婦人科四大流派、中医内科十一大流派、中医小児科4大流派、針灸六大流派などがあった。孟河医派や呉門医派、江南何氏や中西匯通派なども有名だ。現在でもこの流れは残っているものの、残念ながら息絶え絶えとなっている流派が少なくない。

  中医学の整形外科系列となる中医傷科八大家では、石氏・施氏・魏氏などの流派は現存するが、閔殷傷科や佟氏傷科などそのほかの流派に関しては海外に流出してしまったり、後継者が高齢化を迎え、中国国内にはいまや若手後継者がいない状態に陥っている。また、婦人科で有名な陳氏婦人科や沈氏婦人科、蔡氏婦人科も後継者が少なくなってきている。さらに内科・小児科にいたっては、各流派の後継者が殆どいない状態で、学派の規模が縮小傾向にあることが問題だ。

  このような現状を受けて、上海市人民代表大会の代表でもあり、上海中医薬大学の専門家でもある謝建群教授は、上海の中医学各流派に関して、早急に整理して復活させるべきだという議案を提出している。

  それに関連する動きとして、「上海近代中医流派臨床伝承中心」が上海中医薬大学附属岳陽中西医結合医院の名医特診部に設立された。ここでは、上海中医薬大学と上海中医薬研究院が中心となり、さらに上海中医薬大学文献所、上海中医薬大学基礎医学院、上海中医薬博物館、上海市中医文献館、上海市中医老年医学研究所などが協力する体制となっている。主な任務は、上海の各中医学派の継承人を集めてきて、若手医師たちに研究させるほか、臨床を実践したり、録音録画を通じて資料の整理をするなどの試みが行われ、理論基礎から流派の学術研究、臨床での実践まで、医療技術を継承させる仕組み作りを早急に行う。

  一方、上海市人民代表大会での上海市の韓正市長の発言によると、市内の中医学の発展を促進するため、『中医薬発展弁公室』の設立を決めた。これは、上海市の中医学に対する政策が、他省よりも後れを取っているという声をうけたもので、上海市の中医薬行政や教育、医療などの資源を統合し、統一した行政機構を設立するというもの。上海市による財政的基礎ができるため、発展が期待される。また、これまで西洋医学の関係者による管理システムを中医学分野にも導入していたが、今回の弁公室では中医学の臨床経験者から責任者を選び、上海市の中医学発展にふさわしい体制を作る。2009年の春節明けにも正式に始動する見込みだ。

  現代の中国の中医薬大学で行われている中医学教育に関しても、現代の科学技術を導入した研究や実験は必要だが、これまでの中医学教育に欠けていた伝統的な継承を重んじる教育方法の両立が出来るような環境整備が必要だと上海市でも考え出しているようだ。(2009年1月記・医師 医学博士 藤田 康介)

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