中医学の東洋学術出版社：中国最新情報

　11月の初めに学会取材で北京と天津を訪問してきた。北京では当社と提携関係にある中国中医薬報社の陳貴廷社長にお会いする機会があり，同社長から興味深い話をうかがった。
　10月12日に開かれた中国の三中全会で，中国の新しい農業政策が発表されたことは，日本でも報道によりよく知られていることだが，陳社長は，新聞『中国中医薬報』においても農村医療のための頁を新たに設けることになり，現在懸命に取り組んでいる最中だと語った。政策会議からわずか半月もたたないうちに早くも，中医界においても国家政策の実行が進行しているのだ。陳貴廷社長の興奮気味に語る語調に，国を挙げたなみなみならぬ意気込みが感じとれる。
　これまで沿岸都市部の発展を優先してきた中国が，ここへきて一気に農業，農村，農民政策に軸足を移す大転換をはかるのである。莫大な資金が投下されるという。医療分野で，１農民あたり毎年100元(1,600円)の予算が投入される。農民人口は7億から10億人。総額にすると莫大な資金となる。これを重点配分する。中医分野では105億元が投下される。全国的に10病院を研究病院に指定し，それぞれに1.2億元を支給する。ハードに使用するのでなく，１病院で1～2名の選ばれた特定疾患の専門中医師の臨床研究活動に支給される。ここで成果があがれば，全国展開する。また，各省の重点病院200病院それぞれに1,000万元を支給して，臨床研究の強化を支援する。同時に各省にも1,000万元が支給される。そのほか，県クラスの病院にも大規模な補助金が支給され，農村全体の中医環境を改善するという。以上のすべては国家改革発展委員会と財政部が国のプロジェクトとして資金を出す。
　農村医療は，中国ではとりもなおさず中医が中心となる。このプロジェクトは農村の中医を本格的に支援するものであり，これにより中医の役割が飛躍的に大きくなる。未病治療が底辺医療として充実してくるだろうし，農村医師の教育と臨床力向上，人材の農村医療へのつなぎ止め，都市部の余剰医師群を農村へ移動させる経済的吸引力も要求される。さまざまな問題が浮き出てくる。今後，中国の中医は農村の状況から目を離せなくなるだろう。(Y)