上海市衛生局では、上海でも流行した手足口病の治療に中医学を介入させるために、手足口病治療のためのガイドラインを作成し、発表した。手足口病は3歳以下の子供に発生し、手のひら、足のうら、口腔内に水疱が発生し、重篤になると脳髄膜炎や肺水腫などの合併症で場合によっては命を落とすこともある。感染ルートは、おもに感染者の糞便や分泌物からの接触感染や、外気からも感染することもある。現在、特効薬はまだなく、対処療法が中心だが、中医学を使うと一定の効果があることが確認されている。
上海市が発表したガイドラインでは、手足口病を中医学の「温病」の範疇であるととられ、疫毒時邪を感受し、湿熱が体内で蘊結し、心火が盛んになると考え、病位は肺・脾・心の臓、病機は外感時邪疫毒、衛表被遏、肺気失宣であれば、体の痛み、発熱や咳などの症状が出る。さらに、湿熱内蘊し、心経の火が経絡にそって口・舌を侵す。そして脾・胃の湿熱が四肢を薫蒸すると疱疹ができる。さらに、毒邪が直ちに取り除かれなければ、気・陰を消耗するため、心悸や気短などの症状が見られる。
1.中医学による手足口病の予防
(1)中成薬による予防
①双黄黄連口服液:1回5ml~10ml、1日2回。1週間服用する。
②健児清解液:1回5ml~10ml、1日2回。1週間服用する。
(2)食事療法
①米仁粥:生米仁(ヨクイニン)100グラム、金銀花30グラム、白朮30グラムをお粥にして食用。保育所などではおやつに食用してもよい。
②銀花茶:金銀花 10グラム、野菊花6グラムを20分間沸騰させてお茶代わりに飲む。蜂蜜などを入れて飲みやすくしてもよい。
③金銀花露(シロップ状):市販されている金銀花露5ml~10mlを水に薄めて1日2回服用。
(3)予防用方剤:金銀花10グラム、野菊花6グラム、米仁30グラム、白朮10グラム、藿香10グラムを通常の方法で煎じて7日間服用。
(4)香袋:端午の節句のころによく使われる生薬香袋も効果的。菖蒲5グラム、藿香5グラム、白芷5グラム、艾葉5グラムを粉にして袋に入れる。
(5)銀花洗手液:金銀花を煎じた液で手を洗う。
(6)うがい薬:金銀花10グラム、野菊花6グラム、板蘭根10グラム、生甘草5グラムを煎じてうがい薬として使う。
そのほか、菖蒲や艾を部屋にぶら下げたり、衣類を清潔にして手洗いを励行、風通しをよくして野菜・果物を摂取する、脂っこい物や刺激の強い物を避けるなどに注意する。免疫力を高めるために中成薬として槐杞黄顆粒なども小児科でよく使われる。
2.手足口病の中医学による治療
(1)軽症の場合
【症状】急性期で発病して間もない状態。発熱があり、口腔粘膜に疱疹、手足や臀部にも軽度の赤い疱疹がある。食欲不振で咳・頭痛・嘔吐・口峡炎がみられる。
【治療原則】疏散風熱・透疹外出・佐として清熱解毒。
【処方】金銀花10グラム、連翹10グラム、板蘭根10グラム、黄芩10グラム、牡丹皮10グラム、蝉蛻3グラム、紫草10グラム。
【加減】症状にあわせて野菊花・蒲公英・大青葉・茯苓・米仁・紫草などを加減して、性熱解毒・化湿透疹の作用を強化する。発熱して喉が痛い場合は、柴胡10グラム、玄参10グラムを加える。口や唇が乾燥している場合は、芦根15グラム、便秘の場合は大黄5グラム、高熱が持続する場合は石膏30グラム~45グラム加える。また、舌苔が厚く、悪心・嘔吐がみられる場合は、藿香正気口服液を使う。煩躁し、イライラしている場合は蓮心子を加える。口渇がひどい場合は、麦冬・芦根を加える。中成薬としては、牛黄解毒片、双黄連口服液などが使われる。また、外用薬としては西瓜霜・錫類散・金黄散・青黛散などを疱疹のある患部に塗る。
(2)重症の場合
①邪毒熾盛・内陥心包
【症状】神経系や循環器系、呼吸器系に影響が及ぶ。壮熱がみられ、意識がもうろうとし、神志にも影響が及ぼされる。死亡率が高い。
【治療原則】清熱解毒・醒脳開竅
【方剤】清開霊注射液、安宮牛黄丸、紫雪丹など。
②気陰両虚・陰陽両竭
【症状】心悸・胸悶・気短・呼吸困難など。チアノーゼが見られ、白色もしくは赤色の泡状の痰が出る。四肢が冷え、仰向けに寝ることができない。
【治療原則】益気養陰・回陽救逆
【方剤】参附湯注射液・生脈注射液・丹参注射液など。
【加減】意識がもうろうとしている場合は、安宮牛黄丸。冷汗が出ている場合は、煅竜牡。四肢が冷えている場合は桂枝・乾姜。また喉に痰の音が聞こえる場合は猴棗散を加える。
(3)回復期
【症状】手足口病は熱邪の毒が陰液を損傷し、口腔内に疱疹ができるために食欲が進まない。このため、回復期においては脾虚と陰虚が顕著となる。
【治療原則】健脾助運・生津養陰
【方剤】生米仁15グラム、芦根10グラム、石斛10グラム、白朮10グラム、生谷芽15グラム、麦冬10グラム。
手足口病の治療に関して、各地で様々な治療方法が紹介されているが、温病と捉えて弁証する考え方は、ほぼ統一されているといえる。臨床上、特効薬がない以上、中医学がある程度の効果を発揮していると期待されている。(2008年6月記 山之内 淳)