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「世界中連」理事会リポート

「世界中連」理事会リポート




 世界に中医学を普及する目的で,2003年に成立した世界中医薬学会連合会(略称:世界中連),その第2期第2回理事会および第1回監事会が,3月23,24日,中国江蘇省江陰市で開催された。参加者は51の国々から約80名。中国の改革開放政策以来,海外に出て,世界各国で中医学を普及してきた中国人中医師たちが大部分を占める。ほかに,現地で育った旧華僑の中医師,および欧米人やオーストラリア人などが参加した。



第2回世界中連会議写真01
(写真1) 会場正面



 世界中連主席の元衛生部副部長・中国国家中医薬管理局局長をつとめた佘靖(しゃせい)女史が全日程を通じて出席し,最終日には全体の総括を行った。世界中連副主席兼秘書長の李振吉氏が全体の司会をつとめた。



第2回世界中連会議写真02

(写真2) 左から2人目が佘靖女史,1人おいて李振吉氏



 会議のテーマは,大きくは下記の2つ。

① 国際的な中医師養成のための教育問題。

② 中医師試験の問題。

 ほかに,世界で中医学普及に貢献した人々への表彰,雑誌『世界中医薬』の編集発行状況,インターネット教育などについて,本部より素案が提案され,活発な討論が行われた。



第2回世界中連会議写真03

(写真3) 場内



国際的な中医師養成のための教育

 世界中連の主なキーワードは,中医学の国際化・標準化・教育・試験の4つに集約される。

 この20年ほどの間に中医学は,世界各国に普及し,様々な活動が展開されてきた。もともと中医学の土壌が皆無であった国々で,中国人中医師たちが中医学を普及し,教育を行って,ついにその国で中医師資格の立法化に成功し,中医治療家のライセンスを獲得する国も出現している。アメリカのカリフォルニア州,ニューヨーク州,オーストラリアのヴィクトリア州,オランダ,シンガポール,マレーシアがそれで,ほかにイギリスでも近い将来実現するといわれる。また,大学に中医専門の学院や学科が設立されたり,中医専門大学が誕生している国もある。日本からみると,いつの間にこれほど中医学が世界に広がったのかと,驚くほどの規模とスピードで拡大している。

 しかし,中医が注目されるにしたがって,ニセ医者が横行したり,勝手に資格を与える商売が出現したりして混乱状況も生まれており,これを整理しなくては,中医の評価も低下し,将来的な中医の国際化に支障をきたすという危惧がある。そこから,世界中連による教育の一元化,規格化の方針,試験制度の統一の問題が生まれてきた。



第2回世界中連会議写真04

(写真4) 参加者全体写真



国際中医師試験制度

 試験制度の問題では,本部より助理医師,執業医師,主治医師,高級医師(副主任医師),主任医師など中国の資格制度をそのままもちこむ提案がなされたが,各国代表からそれぞれの国の状況にそぐわないという意見が提出された。討論の結果,試験はただちに資格に繋がるものではなく,学習を促進するための目標として位置づけるという結論になった。

 会議では,試験制度の問題や資格制度の問題が相当切実な問題として受け止められているようで,活発な議論が行われた。中医治療を正統な医療行為として認められるためには,その国々での法的保証がなくては不可能であるから,ライセンス問題が優先課題になるのは当然のことであるが,やや日本とは関心事が違うなという印象をもった。日本では医師が漢方の処方権をもち,針灸に関しては,鍼灸師の資格試験が実行されていて,ライセンス問題は解決されている。教育内容の充実と学術的向上,臨床力のレベルアップという問題は存在するものの,各国代表が議論するような資格問題は存在しない。

 ただ,日本でもすでに世界中連による中医の試験が実行されているという現実がある。中国の各中医薬大学の日本分校や薬膳学校の卒業生が世界中連の国際中医師や国際薬剤師,国際針灸師,国際薬膳師,国際按摩師といった試験を受験している。これらの学校の責任者が世界中連に参加しており,今回の理事会にも出席している人がいた。これらの学校や学習会は,日本全体の中医学の普及とレベルアップに大いに貢献しており,世界中連の試験制度も中医学習のよい刺激剤になっているので,この試験制度については,今後正面から向き合ってゆく必要があるだろう。



単味エキス製剤

 今回の会議が開催された江陰市は,南京と上海の中間で無錫の北方にあり,長江大橋の南に位置する。温病学の柳宝貽(りゅう・ほうい),経方家の曹頴甫(そう・えいほ),針灸家の承淡安(しょう・たんあん)らのゆかりの土地であり,「中医の郷」と称される伝統色豊かな土地である。近いところでは南京の黄煌氏の故郷であり,ここで黄煌氏は大学にゆかずに地元の老中医について中医学を学んでいる。



第2回世界中連会議写真05

(写真5) 天江製薬



 この土地に今回の会議を後援した天江製薬会社の本社と工場がある。同社は,今回の会議の設営から,参加者の宿泊,交通,食事のすべてを賄ってくれた。中国もメーカーの協力なしには活動ができない状況になっているようだ。同社は,煎じ薬を濃縮噴霧乾燥したエキス製剤を製造している。特徴は,単味のエキス製剤を300種類ほど製造していることだ。単味エキス剤であるために,中医学の弁証論治にもとづいて自由に処方を組むことができるという利点がある。また,患者の多い老中医の有名処方は,頼めばすぐにエキス剤にしてくれるので,老中医たちも重宝しているといわれる。このような効果の高い固定処方エキス剤と単味エキス剤をうまく組み合わせれば,自由度がより高くなる。天江製薬の製剤は,煎じ薬に比べてあまりにも高価なために(煎じ薬が安すぎるのかも),中国国内では普及しにくいようだが,欧米では利便性があるために国内よりも先に浸透してゆく可能性があり,天江製薬も世界への普及に期待を寄せている。国家中医薬管理局も同社を「全国中薬飲片改革の試験拠点」と位置づけて支援し,世界中連も同社と強く連携しているようだ。



第2回世界中連会議写真06
(写真6) 天江の単味エキス剤

第2回世界中連会議写真07
(写真7) 工場見学する李振吉氏,佘靖女史,
その隣は天江製薬社長の周嘉琳女史



 世界中連は2003年に成立して4年,毎年国際伝統医薬大会を開いてきた。第1回が北京,2回目がフランスのパリ,3回目がカナダのトロント,4回目がシンガポール。第5回目は今年2008年11月にマカオで開催される。2009年はオーストラリア,2010年はオランダで開催されることも決まった。

 4年を経て,世界中連の体制も充実してきているように見えた。佘靖女史,李振吉氏をはじめとする本部のリーダーたちは,政府機関と深い関係をもち,世界に広がる中医師たちの活動をしっかりと後方支援しているようだ。佘靖女史や李振吉氏は,気配りのできる人柄で人望が厚く,接した人々に強い信頼感を与える。世界中連は,今後しばらくは,中国の政治力をバックにしながら,伝統医学の新興国での中医の合法的地位を確保することに力点をおいてゆくように思われる。日本や韓国など,伝統医学の長い歴史を有し,現代医療のなかで現実的に大きな役割をはたしている国々の伝統医学とどう連携してゆくのか,また,日本や韓国の側もこの世界中連とどうかかわってゆくのか,いつも念頭においておく必要があるだろう。



第2回世界中連会議写真08

(写真8) 江陰市中医医院



[追伸]香港での新しい動き――中医と西医のライセンスを分離する試み

 今回,上海から江陰にいたるバスのなかで,香港浸会大学中医薬学院の劉良学院長とお話をする機会があり,興味深い話を伺った。香港では,数年前から,新しい試みとして,中医と西医のライセンスを分離する措置を実行したところ,非常に目覚ましい成果が生まれてきたという。中医のライセンスをもっている人は,一切西医の薬を使用できない。中医医院では,中医でのみ治療しなくてはならないので,中医師たちは懸命に腕を磨き,かれらの治療レベルが格段に向上したという。この話を聞いた上海留学中の藤田康介氏も,上海で今同じような試みが行われはじめたと紹介した。もし,そうであるなら,この数十年来たえずぎくしゃくしてきた中医と西医の相互関係の問題がひとまず落ち着くかもしれない。劉良先生の談話は,いずれ『中医臨床』に紹介します。(Y)



第2回世界中連会議写真09

(写真9) 曹頴甫の故居



(2008年4月10日)




世界中連の組織については,『中医臨床』108号に詳しく紹介されています。
「中医臨床プラス」にも転載しておりますのでご参照ください。
 >>>通巻108号(Vol.28 No.1)◇リポート




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