サイト内キーワード検索


お問い合せ

東洋学術出版社

〒272-0021
 千葉県市川市八幡
 2-16-15-405

販売部

  TEL:047-321-4428
  FAX:047-321-4429

編集部

  TEL:047-335-6780
  FAX:047-300-0565

▼中国最新情報

« 中国最新情報 トップに戻る

生薬と産地の関係、生薬の枯渇問題

盲目的に生薬栽培を増やした中国

 最近、中国の中医師の間で、生薬の量と効能の問題について討論されることが多い。その背景には、昔と同じような生薬の量を使っても、なぜか効果が出ないという問題点が指摘されはじめている。黄耆なんかもその一つで、数十年前よりも量を多めに使うという中医師の話をよく聞く。さらに、患者の間にも、生薬が以前より効かなくなったと感じる人も出始めている。処方の善し悪しも当然関係するが、忘れてはならないのは生薬自身がいま中国で大きな局面にたたされているという点だ。
 中医学の本場である中国だけに、生薬の消費量もすさましい。中成薬や健康食品、エキス剤、刻み生薬などで使われる生薬の量は年間70万トンにも達している。しかも、その使用量は年々増加しており、過去10年間で3倍にまでふくれあがっている。さらに、昨今の世界的な健康ブーム、伝統医学ブームの影響で、海外での需要も急増している。そのため、野生の生薬資源は年々枯渇し、中国では最近人工的な生薬栽培が広く行われるようになった。
 こうした状況の変化に、中国医学科学院薬用植物研究所の陳士林所長は、警鐘を鳴らしている。すなわち、生薬がもともと生育していた場所と異なったところで栽培され、その性質が根本的に変化してしまったというのだ。その結果、中国の「薬典」に書かれている基準を満たさず、処方しても従来の効能をしっかりと発揮できていないというわけだ。
 
連作が難しい生薬

 生薬を栽培するにあたって、大きな問題となっているのが連作障害だ。仮に、人工的に連作し続けると、10年~15年で害虫被害が深刻化し、栽培できなくなるという問題点がある。とくに、当帰や地黄など根物の生薬に関しては影響が大きい。人参では、1度栽培すると30年間は2回目が栽培できないし、西洋参でも20年、田七でも8年~10年の連作周期が必要とされている。こういった状態を無視して栽培を続けた所も中国国内では少なくなく、その結果農地の荒廃が始まっている。さらに、生産量を確保するために、生薬の植物としての特性を無視して、盲目的に生薬の栽培を行っている所も出始めており、その地方に合致しない品種の導入が生薬の有効成分に影響を与え始めているという研究結果もある。

生薬と産地の関係の研究
 
 そこで、90年代から中国医学科学院薬物植物研究所、中国薬材集団公司、中国測絵科学研究院などが共同で、中薬材産地の適合性に関する情報システム(TCMGIS-Ⅰ)プロジェクトを行っている。2006年度にこの成果が中国衛生部から重大な研究成果としての認定を受けた。
 このシステムを利用すると、これまでは経験則に頼っていたどの場所にどういう品種の生薬を植えたらよいかという産地適合性の判断を、中国全国で系統的なデーターベースとして分析できる。例えば、この中には気候データなども登録されていて、中国各地を1平方キロメートルの単位に分けて、年間気温や湿度、土壌、海抜についてのデータを中国全国960万平方メートル規模で得ることができる。これら数値を分析して、各品種で生薬栽培にふさわしい場所を見つけるというわけだ。

 これらデータをもとに、すでに甘草・人参・黄耆・三七・附子・川芎・浙貝母・暗紫貝母など20種類あまりの生薬の産地適合性の分析を行い、実際の栽培で応用され始めた。陳士林氏の分析では、このTCMGIS-Ⅰシステムをつかって人参の産地適合性を分析したところ、東北地区の長白山・大興安嶺、小興安嶺・山西上堂太行山区・燕山山脈・秦嶺が選ばれた。いずれも、歴史的に人参の栽培が盛んな地区で、それ以外にもあらたに大興安嶺、小興安嶺や燕山山脈などのエリアが選出された。そこで、これらの新エリアが今後の人参栽培基地としての適合性が良いことが分かった。
 黄耆に関しても同じことが言える。黄耆の栽培は、これまで黄河以北で行われていた。しかし、現在の多くの黄耆は黄河以南で行われていて、品種の違いも大きくなってきた。すなわち、過去は「鞭竿耆」と呼ばれる品種が栽培されていたのが、今では「鶏爪耆」の品種に変わってしまった。さらに、TCMGIS-Ⅰシステムを使って分析をすると、黄耆の生産地としては山西省北部や内蒙古南部がふさわしいとされ、黄河以南の華東エリアなどは栽培に適さないという結果になった。ここからも、黄河以南で黄耆を栽培することは問題点が大きいことになる。西洋参に関しても、最近中国全国で栽培しようとする農家が増えているが、最終的に華北・東北・陜西省で成功するものの、その他のエリアではうまくいかない。もちろん、江西省・安徽省・福建省の高地でも栽培可能なエリアがあることが分かったが、もし大量生産することになると華北・東北エリアほどふさわしいエリアはない。すなわち、これら地域が米国の西洋参の産地であるウィスコンシン州に似ていることが分かっていて、さらに広大な耕地面積が確保できるという条件が揃っている。
 興味深いのは、甘草の栽培についての産地適合性分析だ。例えば、北京で栽培された甘草は、確かに成長も早くていいのだが、分析すると有効成分であるグリチルリチン酸の含有量が、中国の薬典の基準に達しないということも分かった。

産地の重要性の再認識を

 これら結果からわかるように、生薬の栽培には、それにふさわしいエリアがあり、盲目的に栽培しては有効成分にすら影響をもたらすことがある。もちろん、科学技術が発展して、栽培技術も向上しているが、栽培されたものが地元産のものと同じかと言えば、そう簡単ではない。
中国の地方政府も農業の活性化のために生薬を栽培するのはいいが、科学的に分析して生薬の品種を選ぶべきであり、経済的・市場的理由で品種を選ぶと、栽培農家へ与える損害も大きい。さらに、有効成分の少ない生薬を使うことは、直接的に生薬の有効性に関係し、中医学そのものの存在を脅かしかねないことを危惧する。(2007年12月記 中国中医薬報より抜粋 山之内 淳

ページトップへ戻る