2007年3月21日に、中国科技部・衛生部・国家中医薬管理局・中国国家食品薬品監督管理局など中国政府国務院の16部門が共同でまとめた、2006年から2020年までの中医学の発展計画『中医薬創新発展規劃』を発表した。2002年の中国国務院弁公廳がまとめた『中薬現代化発展綱要』に続く、中国政府中央が示した中医学に対する指針として注目される。
今回の『中薬現代化発展綱要』には、4つの基本原則が打ち出された。
(1) 継承と「創新」の両方を重視
(2) 中医学と中薬の協調的発展
(3) 現代化と国際化の相互促進
(4) あらゆる分野の学科の結合
ここではその中のポイントをいくつか紹介する。
1. 医療費削減への貢献が期待されている中医学
中国の一般庶民が医療に対する不満として最も高いのが、医療費の高騰と、病院にいっても長い列で待たされる、いわゆる「看病難、看病貴」の問題だ。今回の文書の中では、中医学の「予防・治療・リハビリ・健康維持」での一体的な医療サービスモデルの活用を訴えている。つまり、疾病の予防で中医学を活用することにより、医療費全体の削減を目指すというわけだ。
さらに、中国の中医薬産業の構造改革も訴えている。中医薬産業は、中国を代表する産業の一つだが、企業の意識改革もまだ始まったばかりだ。そこで、中国の伝統産業として保護や育成も行い、中国が知識財産権を持つ一大健康産業に育てあげたいとしている。
また、中医薬産業の発展は、貧困にあえぐ農村にとっても、生薬栽培などを通じ農民の収入増加が期待されている。収入の増加が見込まれれば、環境保全や医薬産業の発展、さらに地域経済の振興も期待できるとしている。
2. 国際的に中医学の競争力を高める
世界各国で健康産業が盛んになり、伝統医学の重要性が認められているが、この中で中医学の国際化が中国でも叫ばれている。今回の『綱要』の中では、中医学の国際化に向かっての目標が掲げられているが、そのポイントとして、国際社会の中で認められること、さらに国際的にブームとなっている健康産業の主流として地位を確立すること、また国際的にも合法的な地位を得ることが示されている。そして、国際的な合作を強化し、海外の先進的な科学技術の導入もうたっている。
3.10年後~20年後には生薬が国際的な舞台に出られるように
中医学と西洋医学の関係についても、述べられている。この中で、西洋医学と西洋医学とのメリットを最大に生かし、お互い補うことによって中国独自の新しい医療体系の創設を目指す。これが、いわゆる「中西医結合」や「病証結合」につながり、世界に新しい形態の医学、薬学を作りだすとしている。また、中医学の発展に関して、中国の専門家の間では、生理学や病理学、遺伝子などの知識を利用することでもって科学的成果を打ち出すとしている。
中国科学部の劉燕華副部長は、中医学こそが、中国が最も潜在力を発揮できる分野であり、中国の科学技術が全世界に進出するための突破口につながると表明している。この中で、西洋医学とは違った疾病に対する認識と方法論を展開することにより、さらなる発展が見込まれると大きな期待が寄せられているコメントした。
ただ、『中医薬創新発展規劃綱要』では、現在の中医学が抱える問題についても指摘されている。まず、健康分野における中医学の実力がまだ十分に発揮されておらず、まだまだ普及に程遠い状態である点や、中医学の現代産業への発展基礎が弱いことや、科学的基礎研究の部分で、西洋医学などと比べても差があることを認めている。(2007年4月記 山之内 淳)