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高価な冬虫夏草に代わる新しい生薬
中国で、「三大補薬」といわれている冬虫夏草・人参・鹿茸は、いずれも宝石に匹敵する値段がつき、1グラムで200元(約3000円)以上するようなものはざらにある。冬虫夏草に関しては、その価格高騰が著しく、過去30年で1000倍にまで高騰した。そのため、いかにして人工的に栽培をして価格を下げるかが、大きな研究テーマであった。この冬虫夏草に新しい動きがあり、中国の新聞各社では大きく報道している。
1. 高価で問題が山積していた冬虫夏草
そもそも、冬虫夏草には類似品種が多いのも問題だった。分かっているだけでも同様のものが350種類あるといわれているが、生薬として重宝されるのは青海省やチベットの高原エリアに生息するもので、天然資源は枯渇しはじめており、環境問題の観点からも人工栽培の必要性が高まってきた。そこで、中国では10年余にわたって、約60の研究機関や企業が研究を重ねてきたが、これまで統一した品質基準がなく、日本などの先進国でも中国産を受け入れられなかったという経緯もある。
そんな中、冬虫夏草の中でも人工栽培と品質の均一化が図りやすい北冬虫夏草に対して、中国の政府関係部門が産品としての品質基準を満たすと批准し、さらに中国科学技術部の「863プロジェクト」の中で産業化として発展させること明確に打ち出した。上海では、製薬関連会社が集まる浦東張江ハイテクパークの企業が生産許可証を取得し、年間20トンの規模で北冬虫夏草が大量生産される。このように人工栽培された北冬虫夏草の価格は、1グラム10元(約150円)に満たず、患者にも広く受け入れられる可能性が高まった。
2.北冬虫夏草と冬虫夏草では成分はほぼ同じ
「中華虫草」と呼ばれる冬虫夏草は、おもにチベット・四川省・青海省などの高原エリアで生息している。コウモリ蛾の幼虫が、冬虫夏草真菌の胞子を食したあと、真菌に感染して幼虫の体温が急激に下がる。その結果、寒さから逃れようとするため地面にもぐりこみ、地面に頭を突っ込んだ形になる。一定の深さにまで潜りこむと、今度は酸素が不足して幼虫は死んでしまう。夏になると、これら感染した真菌が幼虫の栄養分を吸い取り、冬虫夏草の頭部分が地表から出てくるようになる。これを現地の農民たちは収穫している。
一方で、北冬虫夏草は、中国東北エリアに生息する冬虫夏草の同族種で、これまでの研究で栄養価や薬効成分はほぼ同じであることがわかった。冬虫夏草は人工栽培が難しい一方で、北冬虫夏草は人工栽培に成功している。
3. 冬虫夏草の有効成分は虫の部分か、草の部分か?
中国で売られている冬虫夏草の多くは、「虫」の部分が大きいほど、冬虫夏草の重さも重くなり、滋養強壮の力も強いと一般的に信じられている。大部分の中国の生薬薬局でさえも、そのように信じられている。しかし、これまでの中国の研究では、冬虫夏草の栄養分や有効成分のほとんどは草の部分に集中していることが明らかにされた。実は、この部分の重要性が中国でこれまであまり重視されてこなかったのだ。
また、冬虫夏草の有効成分の評価についても、誤解が多かった。中国では、これまでアデノシンの含有量を調べることで、冬虫夏草の品質の良し悪しを評価していたが、実はアデノシンはシイタケやマッシュルームなどキノコ類にも含まれるもので、冬虫夏草特有の物質ではなかった。
そこで、上海市農業科学研究院では、アデノシンに代わる有効成分として、コルディセピン(中国語:虫草素)の含有量に着目した。この物質は、冬虫夏草に含まれているものの、人工合成が難しい。これまでの研究では、幅広い抗菌作用が確認されていて、肺結核にも効果があるとされている。さらに、抗がん作用や免疫力を高める作用もあり、世界中の研究者が研究している物質の一つでもある。すでに、アメリカではこの物質を使った医薬品が臨床試験に入ったという情報もある。
今回の北冬虫夏草では、このコルディセピンの含有量が、冬虫夏草と同等か、それ以上あることが確認された。また、上海市農業科学研究院で栽培された冬虫夏草でも、コルディセピンの割合が1%以上となっており、純度も98.8%と医薬品として応用できるレベルに達したとしている。(2007年4月記・山之内 淳)
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