現在,上海ではWHOの専門家による調査が進められている。またテレビ,ラジオなどでは特別番組を組み,市民への知識普及に努めている。一方で,市内の一般薬局からは黄耆,防風,貫衆,銀花などすでにSARS予防処方として発表された生薬各種が品薄状態になっている。前回に引き続き,国家中医薬管理局が公布した中医学によるSARS治療方案の概要をまとめてみる。前回では主に予防用の処方を紹介したが,今度はSARSに感染した場合の処方だ。すでに衛生部の疾病コントロールセンターから西洋医学の診断基準,治療方案について発表が出ているが,今回は中医学的な弁証を踏まえたもので,西洋医学の治療効果をさらに高めるものとしている。一方で,その地区や患者の状況によって適宜加減をしなくてはならない。
初期
初期の患者の主な病機は熱毒襲肺,湿遏熱阻を特徴としている。その中で1.熱毒襲肺2.湿遏熱阻3.表寒内熱挟湿の3つの型に証が分類されている。それぞれの証に使われる基本方剤とその主な組成を示す。原文には方剤の組成についての記載はないが,本欄では便宜上組成を記すこととし,その内容は上海科学技術出版社が発行している《方剤学》第5版,《温病学》第6版を基準に記した。
・熱毒襲肺証……
治法:清熱宣肺,疏表通路
方剤:銀翹散+麻杏石甘湯加減
銀翹散《温病条弁》:連翹 銀花 苦桔梗 薄荷 竹葉 生甘草
荊芥穂 淡豆鼓 牛蒡子
麻杏石甘湯《傷寒論》:麻黄 杏仁 甘草 石膏
・湿遏熱阻証……
治法:宣化湿熱 透邪外達
方剤:三仁湯+昇降散加減
※もし湿重熱軽の場合は霍朴夏苓湯
三仁湯《温病条弁》:杏仁 飛滑石 白通草 白_仁 竹葉 厚朴
生苡仁 半夏
昇降散《傷寒温疫条弁》:僵蚕 蝉脱 姜黄 生大黄
霍朴夏苓湯《医原》:霍香 姜半夏 赤苓 杏仁 生苡仁 _仁
猪苓 沢瀉 淡豆鼓 厚朴
・表寒裏熱挟湿証……
治法:解表清裏 宣肺化湿
方剤:麻杏石甘湯+昇降散加減
中期
中期の患者は疫毒が肺を侵し,表裏ともに熱が盛んになる。邪気は少陽を阻むと疫毒はますます盛んになり,表裏ともに氾濫する。中期の証の分類としては,・疫毒侵肺,表裏熱熾・湿熱蘊毒・湿熱鬱阻少陽・熱毒熾盛の4種類挙げられている。
・疫毒侵肺,表裏熱熾証……
治法:清熱解毒 瀉肺降逆
方剤:清肺解毒湯加減
清肺解毒湯《雑病源流犀_・臓腑門》:黄_,陳皮,麦門冬,貝母,
赤茯苓,黄連,桑白皮,甘草,蒲公英
・湿遏熱阻証……
治法:化湿辟穢,清熱解毒
方剤:甘露消毒丹加減
甘露消毒丹《温熱経緯》:飛滑石 綿茵陳 淡黄_ 石菖蒲 川貝母
木通 霍香 射干 連翹 薄荷 白豆_
・湿熱鬱阻少陽証……
治法:清泄少陽,分清湿熱
方剤:蒿_清胆湯加減
蒿_清胆湯《重訂通俗傷寒論》:青蒿 淡竹茹,仙半夏,赤茯苓,
黄_,生枳殻 陳広皮 碧玉散
・熱毒熾盛証……
治法:清熱涼血,瀉火解毒
方剤:清瘟敗毒飲加減
清瘟敗毒飲《疫疹一得》:生石膏 小生地 鳥犀角 真川連 梔子
桔梗 黄_ 知母 赤芍 玄参 連翹 甘草 丹皮 鮮竹葉
後期
極期の患者は,熱毒壅盛,邪盛正虚,気陰両傷,内閉外脱を特徴とする病機。臨床上では・痰湿鬱毒,壅阻肺絡・湿熱壅肺,気陰両傷・気陰両傷,邪盛正虚,内閉脱の3種類に分類される。方剤は以下の通り。
・痰湿鬱毒,壅阻肺絡……
治法:益気解毒,化痰利湿,涼血通路
方剤:活血瀉肺湯
活血瀉肺湯《?》:?
・湿熱壅肺,気陰両傷……
治法:清熱利湿,補気養陰
方剤:益肺化濁湯
益肺化濁湯《?》:?
・邪盛正虚,内閉脱……
治法:益気固脱 通閉開竅
方剤:参附湯
参附湯《正体類要》:人参 附子
回復期
回復期の患者の病機は気陰両傷,肺脾両虚で湿熱鬱毒がまだ体から完全に抜け切っていないのが特徴。臨床では・気陰両傷,余邪未尽・肺脾両虚の2種類の証に分類している。
・気陰両傷,余邪未尽……
治法:益気養陰,化湿通路
方剤:李氏清暑益気湯加減
李氏清暑益気湯《温熱経緯》:西洋参 石斛 麦冬 黄連 竹葉
荷梗 知母 甘草 粳米 西瓜翠衣
・肺脾両虚……
治法:益気健脾
方剤:参苓白朮散と葛根_連湯加減
参苓白朮散《太平恵民和剤局方》:蓮子肉 _苡仁 縮砂仁 桔梗
白扁豆 白茯苓 人参 甘草 白朮 山薬
葛根_連湯《傷寒論》:葛根 甘草 黄_ 黄連
[2003年4月27日]
(上海中医薬大学修士課程・中医内科学 藤田康介記)