北京の首都医科大学宣武医院の李林副院長などが中心となって行っていた「補腎による老年性認知症の中医薬治療の実験研究とその技術的プラットフォームの確立」の研究課題が、北京市の科学技術1等奨を獲得し、話題を集めている。
これは、中医学の理論「補腎填髄」の考え方から、現代の生物学の考え方を導入して、新しい中薬開発のモデルを示したとして、注目されている。さらに、今回開発された「参烏膠嚢(カプセル)」は、アルツハイマー症の治療に一定の効果が有るとされ、今後の研究に大きな期待が集まっている。
一般に、中医基礎理論では、補腎が記憶力の改善や、認知症の治療に効果があるとされていたが、「補腎」と「益脳髄」と現代生物学との関係について、まだ系統だった考え方はなかった。さらに、西洋医学による治療も難しく、中医学による介入が期待されていた。
李林副院長らの研究グループは、中医学によって脳萎縮を治療する際に臨床でよく使われる生薬を探し出し、「補腎填髄」をメインに「豁痰化瘀」の理論も使って、動物実験を行ってきた。その上で、「参烏膠嚢(カプセル)」の開発にたどりついた。
「参烏膠嚢(カプセル)」で使われる何首烏と山茱萸の有効成分が、認知症をモデルにした動物に対して有効であり、その作用点は多岐にわたることを証明した。特に、体内の神経栄養因子とその受容体の働きを活発にすることも明らかになった。
その上で、中医学の補腎填髄法が、エネルギー代謝を促進し、体内の神経栄養因子とその受容体の働きを活発して、神経細胞(ニューロン)の再生と生存に関して作用することを生物学的に説明したとしている。
また、今回の動物実験では、ミトコンドリア複合体Ⅵの欠如が、認知症が発病する原因の一つであることを突き止め、そこから10種類の動物モデルと8種類の細胞モデルに応用させた。
「参烏膠嚢(カプセル)」は、すでに中国で特許を取得し、中国の国家新薬臨床研究の批准を受けて、臨床試験に入った。
出典:中国中医薬報 2006年5月29日
担当:山之内 淳