最近の中国で、中医学の医師たちが処方する処方箋をみると、「○○1号方」など記号を使って中身を書かない処方が多く見られる。一体、中医師たちの間で何が起こっているのか?広東省の新聞でその状況が紹介されている。
実は、中国では『処方管理弁法』という法律があり、政府は処方の中身は公開すべきであるということを強調している。しかし、実際には中身を公開しない処方はあとをたたない。
規定では、生薬を処方する時も、医師は薬典で使われている名前を用いて、処方の中身は公開しなければならないことになっている。ただ、この規定を違反する医師が多すぎるのと、監督する機関や罰則が明確でないため、野放し状態となっているのが現状だ。
患者側からすれば、自分が服用している処方の中身の生薬を知る権利がある。しかし、医療機関側にも言い分がある。それは、昨今、中医学の知的財産権を守ることが非常に難しくなっているからだ。
処方を完全に公開してしまうと、その医師が長年かかって研究してきた成果が、流失してしまい、さらには一部の企業などがその処方を盗み出し、中成薬として製品化してしまう危険性に晒されているとしている。その結果、患者が減り、医師の収入が減るというわけだ。
さらに、中医学の本質の一つである、患者1人の体質の違いにあわせて処方するという考え方からも、こういった処方の流出により処方が素人的に使われて、患者に対して悪い影響をもたらすという危惧もある。
患者の動きに敏感になっている中国の医療機関。その背景には、いま中国の医療機関が抱える問題が浮き彫りにされている。
近年来、政府が医療機関に投入する額は年々減少し、現在は病院の収入の16%程度しかない。病院が大きくなればなるほど、その割合は減少し、5%~7%というところもある。
そのため、病院では検査や薬などで収益を上げるしか仕方がないというわけだ。さらに、副業で医療での損失を補わなければならない現状もある。最近では、薬の価格規制も厳しくなり、検査で収益を上げなければならないようにもなってきた。このような背景が、患者と医療機関との関係を悪化させ、中国の医療業界では悪循環となってきている。
そこで、病院では処方の流出には極めて敏感になっており、中薬処方に対しても、記号・暗号などを使って処方の知的財産権を守ろうという動きが顕著になっているのだ。
出典:羊城晩報など 2006年7月19日
担当:岸田 賢治