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通巻175号(Vol.44-No.4)◇【リポート】日本中医薬学会第13回学術総会

REPORT
日本中医薬学会 第13回学術総会
~日本の中医学と世界の中医学~

―編集部―

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2023年10月14日・15日,日本中医薬学会の第13回学術総会が,東京江戸川区のタワーホール船堀において現地およびLIVE配信によるハイブリット形式にて開催された。4年ぶりとなるリアル開催である。会頭講演を皮切りに,5つのシンポジウム,中国と台湾から講師を招いた特別講演と招待講演,その他,教育セッション・鍼灸実技講演や国際交流STなど盛りだくさんの内容であった。ここでは,本大会の会頭を務めた王暁明先生(国際中医薬研究所)の会頭講演と,本大会のメインテーマである「世界の中医学」と題したシンポジウムについてリポートする。





会頭講演:世界の中医学へ,日本ができることはなにか
(王暁明先生)

 今大会の会頭を務めた王暁明先生(国際中医薬研究所)は,東京墨田区向島にある常泉寺に建つ「医聖漢張仲景先生之碑」という『傷寒論』の作者・張仲景の顕彰碑を取り上げ,「この碑を通して皆さんと『世界の中医学へ,日本ができることはなにか』を考えたい」と問いかけた。
 この碑は,高さ182cm,幅91cm,厚さ61cmの巨石に,中国の明末清初の学者・桑芸が書いた墓誌が刻まれており,約1,200字の碑文は,清代の関思亮が唐代を代表する書家・顔真卿の書を拾い集めて大成したものであるという。それを出雲の儒医・滝清敬が,当時日本全国の漢方医有志百余名の寄金を募り,1827年に建立したとされる。ただ,この碑はもともと常泉寺に建立されたものではなく,かつて荏原郡大井村字鮫洲(現在の品川区東大井一丁目付近) の富貴園にあったものが,同園の閉鎖と同時に常泉寺に寄進されたのだという。
 現在,張仲景に関する顕彰碑は,世界で2基しかない。1つは,張仲景の故郷である中国南陽市の「張仲景医聖祠」にある墓誌で,これは傷寒論学者である黄竹斎が書いた。そしてもう1つがこの常泉寺の「医聖漢張仲景先生之碑」であるという。張仲景の故郷に顕彰碑があることに疑問はないが,遠く離れた日本に顕彰碑が建てられていることは,いかに日本が『傷寒・金匱』を大切なものとして扱い,発展させてきたかを如実に物語るものだといえよう。
 約2千年前に張仲景によって著された『傷寒論』は,その後日本にもたらされ,深く根をおろし,いま現在も医療用漢方製剤(約44%が『傷寒・金匱』を出典としている)として臨床において活用されている。日本は中国から中国伝統医学を受容,伝承,融合し,さらに日本独自の漢方・鍼灸として創出してきた。そのなかでも日本から世界に発信できるものとして,管鍼法(ソフトな鍼)・灸所鑑(灸の手引き書)・経方・方証相対の4つがあるのではないかと述べ講演を結んだ。


シンポジウム1  「世界の中医学」
(座長:王暁明)

オーストラリア中医薬の現状:
王海東先生(中医薬国際ブランド研究専門委員会 会長)
 王先生はオーストラリアの中医薬の現状について紹介した。オーストラリアは西側諸国において中医が合法的な地位を確立した最初の国であり,世界の中医の発展を考えるうえで特筆すべき国である。オーストラリアは多元文化の国であり,多様な文化を受容しやすい土壌があり,中医薬も中華文化の1つとして受け入れられてきた。記録によると19世紀のゴールドラッシュ時代に最初の中医診療所が開設されたという。
 オーストラリアの中医薬は,2012年7月に中医立法が施行され中医薬の合法化がはかられたことを境に分けることができ,1970年代から2012年までは商業的登録を要する業態が主体で,それ以降は中医従事者に対し登録制管理を実施し,専門的な訓練を受けて合法的な執業資格を得なければならなくなった。現在,全国で1,933名が中医師として登録されているが,その内訳は鍼灸師(97.89%)・中薬師(63.14%)・薬剤師(21.83%)となっている(重複あり)。
 中医従事者の登録と監督管理を担うのはオーストラリア国家中医局(Chinese Medicine Board of Australia:CMBA)で,業界標準のガイドラインを作ったり,学歴認可の標準やその教育課程を承認することも行っている。これによって中医教育の標準化がはかられ教育の水準が高まったという。また中薬および中薬健康食品の監督・管理を担うのはオーストラリア連邦薬監局(Therapeutic Goods Administration:TGA)で,中薬材料と中薬製剤の販売と使用をコントロールしている。
 王先生は,最後にオーストラリアでは中医は立法化されさまざまな規則が設けられたが,今後,われわれは厳格な規定を公表するよりも中医の管理に対して規範性や方向性の指導を行うことのほうがより重要だと結んだ。

香港における中医薬の発展の回顧と展望:
趙中振先生(香港浸会大学中医薬学部 名誉教授)
 趙先生は香港返還後の香港の中医薬の現状と動向について紹介した。まず法律面では香港基本法により中医と中薬の地位が明確になったという。1999年,中医師の登録が実施され,2003年より資格試験制度が正式に始まった。
 中薬の登録に関しては,香港立法会は中医薬規制条例を公布し,香港の常用中薬を,31種類の毒劇中薬と574種類の常用中薬に分け,さらに中医薬の登録も行われるようになった。
 中医薬の大学教育については,1998年に香港浸会大学が中医課程を開設し,さらに2001年に中薬課程を開設した。それ以来,香港において正規の中医薬教育が行われるようになった。これまでに卒業した学生は,中医学士628名,中薬学士299名になり,合わせて約千人の中医専門人材が誕生したという。さらに香港中文大学と香港大学でも中医課程が開設されている。これらはいずれも政府の助成を受けており政府に認められたコースである。
 また趙先生は中医学を世界に普及するには4つのステージがあるという。それは,製品,ブランド,標準,文化である。なかでも標準が非常に重要であり,特に中薬標準では『中国薬典』が中医薬の国家規範であり,中医薬の標準化と国際化を実施するうえでの基準になる。また2001年より香港において「香港中薬材料基準」が発足した。これは香港と大陸が提携し,同時に13カ国から参加する科学研究にもとづく大型プロジェクトだという。また中薬資源の持続的な利用を可能とする目的で香港における薬物資源の調査も行われている。
 今後,2025年末の完成を目標に,香港中医院と政府中薬検査センターの設立が進んでいる。これは香港の中医薬発展史における新たなマイルストーンになるだろうと力を込めた。

中国中西医結合の現状及び血液病の中医臨床治療:
李鉄(大連市中西医結合医院 教授)
 李先生は,中国における中西医結合の現状を述べた後,専門である血液病の中西医結合治療について紹介した。中西医結合は中国医学と西洋医学の両立を目的に治療効果を高め,イノベーションを創出することができる。中西医結合は中国における医療衛生事業50年の歴史のなかで最も重要な成果であるという。例えば抗腫瘍薬のパクリタキセルはタイヘイヨウイチイの樹皮から単離・構造決定された。中国初のノーベル賞を受賞した屠呦呦も中西医結合研究の成果によって世界の医学に貢献した事例といえる。
 中西医結合医学による血液系疾患治療の分野では王振義,陳竹,さらに李先生の師である黄世林らを代表とする人たちが絶えず探索し,ヒ素製剤による急性前骨髄球性白血病治療の効果の機序と作用の標的を少しずつ明確にしていった。黄振翹・梁冰・陳信義らの白血病・貧血・骨髄増殖異常症候群に対する中西医結合治療の研究は,中西医結合による血液病治療の模範になったという。
 李先生は,唐容川の『血証論』の止血・消瘀・寧血・補虚の四方思想から深く影響を受け,血と人体の関係性と影響を重視し,血熱・血虚・血寒・瘀血を最も重要なメカニズムとして血液病の診療を行ってきたという。そこで治療では,止血薬として涼血止血(犀角地黄湯等)・化瘀止血(大黄䗪虫湯等)・収斂止血(十灰散等)・温経止血(帰脾湯等),活血薬として行気活血(血府逐瘀湯等)・破血逐瘀(大黄䗪虫丸等)・補気活血(黄耆当帰湯等)・養血活血(膠芥湯等),涼血薬として清熱涼血(犀角地黄湯等)・止血涼血(小薊飲子等)・養陰涼血(二至丸等)・涼血散血(犀角地黄湯等),補血薬として補気補血(当帰補血湯等),養肝補血(四物湯等),滋補補血(当帰地黄飲等),活血補血(桃紅四物湯等)に分けて治療しているという。

マレーシア中医発展史:
邢益騰(マレーシア中医師公会(中医総会)会長)
 邢先生は,マレーシアの中医発展史について紹介した。マレーシアへ中医薬が伝来したのは古く,記録上は紀元前111年頃より中国が華南との海外貿易を再開したことに遡り,その際に中国伝統治療の一部も伝わってきたという。さらにその後も中国との間で商業的な往来が続き,中国からは多くの中医薬がもたらされ,マレーシアからは香辛料が輸出されたという。そして1974年,中国との国交が樹立され両国の関係は緊密になり,中医学の協力関係も徐々に深まっていった。
 中医教育の面では,1955年に最初のマレーシア中医学院が設立された。これは,1950年に政府が新移民規制条例を公布したことで,中国の中医師がマレーシアに再入国できなくなり,そのため将来の中医人材の不足を懸念して人材育成が求められたからだという。また政府が中国の印刷物の輸入を禁止したことで,講義を担当する教師が自ら編集したり,以前中国から持ち帰った中医学の本を教材にしたという。これにより以後数十年にわたり中国との学術交流を欠くことになったという。その後,広州中医薬大学の協力を得て中医教育を充実させ,2009年からは大学教育が始まり,現在,国が認可した中医学部が6大学に設置されている。
 中医学の立法化は2016年,「伝統と補助医療法令」の公布において始まった。現在マレーシアの政府病院には中医外来が設置され,中医学による腫瘤治療と鍼灸治療が提供されている。また中医師の執業登録は3つの段階で実施されることになっており,規制管理を行う権利を有する理事会を設立する第1段階(2016年~),中医師の執業登録を行う第2段階(2021年~24年2月29日終了見込),そして法令を全面的に執行する第3段階で,現在は第2段階で未登録の中医師に登録を求めている状況だという。

フランスの中医薬の現状:
王徳鳳(フランス黄家中医薬学院 院長)
 王先生は,フランスの中医薬の現状について紹介した。中医がフランスに伝わってから700年ほどの歴史があるが,20世紀まで,フランスでは中国の鍼灸だけが認識され,鍼灸が中医のすべてとされてきた。20世紀末に中国からの移民がフランスに入るにつれ,中薬・推拿按摩・気功などがもたらされ,次第に鍼灸治療だけでなく他の中医治療や健康法も求められるようになったという。教育分野においても鍼灸一辺倒だったものが,中薬・推拿按摩・気功・食療など全面的な内容になっていった。ただしフランスの医師公会は中医の合法化を厳しく制限していた。そんな中でも中医鍼灸を求める患者のニーズは大きく,やがて鍼灸を受けるだけでなく,中医を学び,中医鍼灸の実践者となる者がでてきた。それがフランスの中医従事者の中で一定の割合を占めるようになり,彼らは連合して全フランス中医連合(CFMTC)を設立した。
 フランスの中医従事者は次の4つに分けられるという。(1)EU認可の西洋医学博士号を持つ西洋医師が中医鍼灸専門に従事。数は少ない。(2)鍼灸技能訓練を受けた助産師。極めて少ない。(3)EU認可の西洋医学の学位を持たないが,私立の中医学院にて中医教育を受け,試験に合格して中医学位を得た者。自由職業者として登録でき,中医鍼灸の職業に従事できる。中医従事者の80%前後を占める。(4)中国から来た中国人医師。数は少ない。
 また現在,フランスにはいくつかの中医教育機関が存在している。(1)数は少ないがフランス医科大学に開設された西洋医向けの鍼灸の在職教育。(2)私立の鍼灸学校。鍼灸に関する教育のみで2~3年制。(3)総合中医薬学校。総合的な中医の内容を学ぶ。5年制。この20年でできた新しいタイプの学校。(4)専門学校。推拿按摩・気功学校などがある。2年制。
現在,中医学は世界に拡がっている。そのなかでも日本は早期に中国伝統医学を受容した国のひとつで,日本漢方・日本鍼灸として独自の発展を遂げてきた。現在,世界に拡がっている中医学の多くは現代になって再構築された現代中医学をもとにしたものも多いが,それを受容した国や地域でも医療制度や文化の違いにより,その発展にはそれぞれ特徴がある。今回,オーストラリア,香港,中国,マレーシア,フランスの中医学の歴史と現状を知ることができた。今後,日本中医薬学会が世界の中医学との窓口となり中医学のさらなる多様な発展につながることを期待したい。

(文責:編集部)




プログラム
10/14
 会頭講演 「世界の中医学へ,日本ができることはなにか」
   演者:王暁明
 シンポジウム1 「世界の中医学」
   演者:王海東,趙中振,李鉄,邢益騰,王徳鳳
 教育セッション「『弁証論治』と『臨床推論』の融合」
   進行:石川家明,木村朗子
 招待講演 「中医による皮膚難病の治療」
   演者:林源泉
 シンポジウム2 「伝統医学を科学する」
   演者:髙岡裕,向野晃弘,大澤匡弘
 特別講演  「エビデンスによる鍼灸の研究と臨床実践:肥満細胞から八綱九弁まで」
   演者:李永明
 シンポジウム3 「withコロナの中医学」
   演者:張煒,高山真,平畑光一,江丹,藤田康介
 特別講演 「仲景故里南陽の中医学と六経弁病」
   演者:崔書克
10/15
 鍼灸実技講演 「日本,中国及び台湾の鍼灸臨床実技の多様性」
   演者:形井秀一,房繄恭,黄碧松
 市民公開講座 「ドクターに聞く 漢方薬を上手に利用する方法」
   演者:岸奈治郎
 シンポジウム4 「多様性をもつ“鍼”を学術化する中医学鍼灸」
   演者:木村研一,近藤哲哉,和辻直,池藤仁美,荻野三恵子,王財源
 シンポジウム5 「薬局・薬店の中医学」
   演者:松本比菜,萬代誓,谷圭吾,川﨑千尋
 一般演題
   演者:王全新,渡邉大祐
 協賛セミナー 「パイオネックスの応用」
   演者:宮崎彰吾,陳志芳,万力生,楊潔
 国際交流ST
   演者:劉園英,張勝鈞,高資承,崔衣林


日本中医薬学会https://jtcma.org/


中医臨床 通巻175号(Vol.44-No.4)特集/コモンディジーズの中医治療―発疹―

『中医臨床』通巻175号(Vol.44-No.4)より転載


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