サイト内キーワード検索


お問い合せ

東洋学術出版社

〒272-0021
 千葉県市川市八幡
 2-16-15-405

販売部

  TEL:047-321-4428
  FAX:047-321-4429

編集部

  TEL:047-335-6780
  FAX:047-300-0565

▼『中医臨床』プラス

« 『中医臨床』プラス トップに戻る

通巻161号(Vol.41-No.2)◇「COVID-19中医対策」Live交流会

 
リポート
 「COVID-19中医対策」Live交流会
【編集部】

 
 4月11日(土)夜,中国工程院院士で天津中医薬大学学長の張伯礼先生を講師に迎え,Zoom会議システムを活用したOnline Liveの形で,「COVID-19中医対策」のLive交流会(主催:日本中医薬研究会)が開催された。当日は主催者発表で735名もの参加があり,COVID-19に対する関心の高さがうかがえた。
 張伯礼先生は,春節期間中の1月27日に武漢入りし,猖獗をきわめた武漢市の医療の最前線に立って陣頭指揮を取り,積極的に中医学の介入を推し進めていった。このたびのLive交流会は,日本の医療関係者に向けその経験を役立ててもらうことが狙いである。また講義の後には,日本の医師・薬剤師・鍼灸師らからの質疑に答えていただく機会があり,中国の経験を日本の医療に反映するための参考意見を直接うかがえる貴重な機会となった。
 
■演題:COVID-19の予防と治療に中医学の対応について
■講師:張伯礼先生(中国工程院院士・天津中医薬大学学長)
■ゲスト:小川恵子先生(金沢大学附属病院漢方医学科臨床教授)/加島雅之先生(熊本赤十字病院)/渡辺賢治先生(慶應義塾大学医学部客員教授・修琴堂大塚医院院長)/高橋秀実先生(日本医科大学名誉教授・高橋内科クリニック院長)/陳志清先生(イスクラ産業株式会社副社長)
 
 
張伯礼先生の講義
 
●COVID-19の特徴
 まず今回のCOVID-19は強い伝染性と流行性を具えた「湿毒疫」であり,毒邪の特徴である「一病一気」の同質性を具えているが,環境や体質の違いによって熱・寒・燥・虚・瘀に転化することが示された。化湿解毒・穢濁化濁が主な治則であり,熱・寒・燥・虚・瘀によって弁証論治することが必要である。
●武漢では治療の全過程に中医が介入
 武漢では治療の全過程に中医が介入しており,軽症・普通症では連花清瘟カプセル・金花清感顆粒などで症状を改善し,解熱時間と治癒時間の短縮や重症化率の低下に役立った。重症・危篤症では中西医結合によって介入し,生脈注射液・参麦注射液(血中酸素濃度を安定),血必浄注射液(炎症反応の制御),熱毒寧注射液・痰熱清注射液(肺感染に抗生剤と併用して使用)などが用いられた。回復期では中薬の扶正祛邪によって回復を促進し,炎症組織の粘着性を低下させ,免疫機能を調整することで回復期の症状を改善した。
●隔離者・軽症者に中薬投与
 発熱者・濃厚接触者・疑似例・観察者を「隔離施設」へ,診断が確定した軽症者を「方艙医院」(臨時病院)へ振り分け,それぞれ中薬を投与した。隔離者では陽性率を低下させ,軽症者では重症化率を下げることに役立った(中医チームが担当した江夏方艙医院では中薬の投与率100%で,重症化率は0%)。
 無症状感染者に中薬を投与することによって発症を押さえる可能性があり,早期から十分な量を投与することが重要なポイントであるという。
 講演のなかでは,西洋薬治療群(18例)と西洋薬+中薬(34例)の後ろ向き観察研究(論文化されたものが『中医雑誌』Vol.61 No.5,2020に掲載済)などの臨床研究の例が紹介され,病程の短縮や重症化率の低下等で,中薬併用がいずれも優れていたことが示された。
●「三薬三方」
 国家衛健委によってCOVID-19の有効処方として「三薬三方」が薦められた。三薬とは,軽症・普通症に用いる連花清瘟カプセルと金花清感顆粒,重症と重篤症に用いる血必浄注射液。三方とは,軽症・普通症・重症・重篤症に用いる清肺排毒湯,軽症・普通症・重症に用いる化湿敗毒方,軽症・普通症に用いる宣肺敗毒方。講演では張伯礼先生が開発した宣肺敗毒方について詳しく話され,古典+臨床経験+有効薬物の探索によってつくられたことが紹介された。
 なお,後日4月23日に本交流会の復習を兼ねた「まとめの会」が開催され,①張伯礼先生の講義のポイント,三薬三方の処方解説,その他に薬局の協力体制などについて交流がはかられたが,張伯礼先生の講演内容がポイントを押さえて整理され,丁寧に解説が補足されており非常に有意義であった。
 
 
質疑応答
 
Q 清肺排毒湯の投与期間は?
A 1週間の服用。1週間後,熱が下がり咳や倦怠感などの初期症状が好転する。服用期間は長くても2週間。
Q 清肺排毒湯が効かない判断は?
A 強い倦怠感・動悸・胸の圧迫が現れれば重症化する可能性がある。
Q 清肺排毒湯のうち,紫苑・款冬花・射干が手に入りにくい。代用可能なものは?
A 紫苑・款冬花は前胡・白前で代用可。射干の代わりに牛蒡子が使える。
Q 軽症者・予防のためには?
A 軽症者でも何もしないと10~15%の患者が重症化。PCR陽性が判明したら藿香正気散・麻杏甘石湯・銀翹散がよい。葛根湯・小柴胡湯も使えるが弁証したほうがよい。
  予防は体質に応じて弁証が必要。普段から汗をかきやすい気虚の者には補中益気湯・玉屏風散,軟便・膩苔など湿証の場合は藿香正気散を使う。咽痛などの炎症が起きやすい場合は五味消毒飲。予防では陰陽のバランスを取ることが大切。
Q 清肺排毒湯に五苓散が含まれているのはなぜか?
A 五苓散には利水滲湿・温陽化気の作用があり,麻杏甘石湯などの薬と一緒に表邪を発散するとともに膀胱の気化作用を助け水湿痰濁を取り除く働きがある。夏には藿香正気散を使う。
Q 中医学的に重症化しやすい特徴は?
A 中医学では湿邪が多いもの,舌苔が厚いもの,舌質が湿・瘀のもの,痰瘀互結のものが重症化しやすい。化痰以外に血必浄を使う。さらに独参湯や生脈飲の点滴を投与し,血中酸素飽和度を上げる。
Q 嗅覚・味覚障害の治療は?
A おもに湿濁の邪気は肺と脾を阻害する。鼻は肺の竅であり,肺気失宣によって嗅覚障害が現れる。治療は養肺陰・益肺気・開肺竅の中薬も用いる。針灸も一定の効果がある。


 オンラインによるCOVID-19交流会は,その後,日本中医学会と中華中医薬学会などが主催となって引き継がれ,4月25日に劉清泉先生(北京中医医院院長),4月26日に王三虎先生(元・第四軍医大学教授),5月9日に王檀先生(長春中医薬大学附属病院呼吸器内科教授),5月16日に南征先生(長春中医薬大学附属病院教授),5月30日に方邦江先生(上海中医薬大学龍華医院救急救命センター長)を講師に迎えて開催されている。日本中医学会のホームページに各講演会のレポートがまとめられているので参照されたい(https://jtcma.org/)。
 日本では,COVID-19の感染拡大によりテレワークが推奨され,Zoomなどを使ったテレビ会議がすっかり定着した感があるが,距離の壁を乗り越えるこのシステムを活用した講演会・勉強会が非常に有効であることを実感した。




中医臨床 通巻161号(Vol.41-No.2)特集/新型コロナウイルス感染症と中医学


『中医臨床』通巻161号(Vol.41-No.2)より転載



ページトップへ戻る