【読みどころ・その1】p2~11
| 『傷寒論』研究は深い。 |
【巻頭インタビュー】良質の基礎資料を比較検討して
『傷寒論』の旧態を蘇らせる(牧角和宏)
1970年以降,日本に現代中医学が導入されてから40~50年になろうとしている。現在の日本の臨床で中医学はどう活かされているのか。日本全国で中医学を実践する医師を『中医臨床』編集長が訪問して,「中医学との出合い」「中医学の魅力」「臨床応用の実際」などについてお話をうかがい,日本の中医学の実態に迫る企画。第14回は,福岡市で牧角内科クリニックを開業して漢方診療を行う傍ら,『傷寒論』研究に力を注ぐ牧角和宏先生にお話をうかがう。牧角先生の傷寒論研究の手法は,各種異本の条文の比較対照により『傷寒論』の旧態を蘇らせることにある。これによって,元来,発汗法が主体であった陽明病の治療が,承気湯による下法に変化し,結果として「太陽病(表)→少陽病(半表半裏)→陽明病(裏)」という,宋以前とは異なる認識が成無已の『注解傷寒論』(宋板を簡略化した傷寒論)以降に出現したとの結論を得たという。
【読みどころ・その2】p128~134
| 浙江における鍼灸の実態とは。 |
【特別インタビュー】浙江の鍼灸と中国の鍼灸教育(方剣喬)
浙江は南宋代以降,『鍼灸資生経』の王執中,『十四経発揮』の滑寿,『鍼灸聚英』の高武,『鍼灸大成』の楊継洲など,著名な鍼灸名家を多数輩出しており,現代の中医鍼灸の形成を考えるうえでも非常に重要なエリアである。今春,浙江の鍼灸流派に造詣の深い方剣喬教授を訪問する機会を得たので,浙江の鍼灸流派の概要と特徴,さらに方教授の学術と臨床,また浙江中医薬大学の学長でもあることから,中国の鍼灸教育の面についてもお話をうかがった。方教授のインタビューのなかで印象に残ったのは,鍼灸の家系の多くは断絶していて,1950年代に中医(内科や婦人科など)から鍼灸に転向したものが多かったこと。大学教育では『針灸治療学』の教材がいまだ満足したものになっていないということだった。これらのことは,現代における鍼灸の弁証論治体系の形成と,その活用を考えるうえでも見過ごせない点であろう。
【読みどころ・その3】p136~144
| 針麻酔を振り返る。 |
【回顧 針麻酔】針麻酔による鎮痛効果の研究〈前篇〉(韓済生)
中国の著名な神経生理学者であり,中国科学院の院士でもある韓済生教授(現在,北京大学神経生物学部教授)が,「針麻酔」を振り返る。韓教授は,長年にわたって刺針による鎮痛原理の研究に携わってきた。針麻酔は1958年,上海と西安のある医師らが外科手術に刺針技術を応用し,麻酔薬を使わないか,あるいは用量を減らして外科手術を行うことを計画し,この技術を「針麻酔」と名づけたことに始まる。1970年代には針麻酔ブームが巻き起こり,中国国内だけでなく国外においても大きな注目を集めた。しかし1980年代に入ると針麻酔の欠点が次第に明らかになり,針麻酔の熱気は徐々に沈静化していった。しかし,鎮痛効果のメカニズムを探る研究は精力的に続けられてきた。それは,針通電治療器や皮膚に装着するパルス治療器などの製造に活かされ,現在では「刺針による補助的麻酔」「針薬複合麻酔」という形で活用されている。
【読みどころ・その4】p154~161
| 『新版 東洋医学概論』教科書検討小委員会への質問状 |
【近況雑感】七情の驚は何臓と関連するのか(浅川要)
「『新版 東洋医学概論』教科書検討小委員会への質問状」と,少し刺激的な副題の付いた今回の「近況雑感」。著者が講義を受けもっている鍼灸学校の授業で,「驚は心に帰属する」と説明したところ,学生から現行の鍼灸学校の教材では「驚を腎に帰属させている」と指摘されたという。くだんの教材だけではない。最近の中医学書を紐解くと,いずれも驚は腎に帰属させている。しかし著者は,ひと昔前の中医学書(たとえば初期の中医学書である『中医学概論』)は「驚=心」であり,そもそも『内経』に示されている内容も「驚=心」で,中国の歴代文献も同様であると説く。質問は次の2点である。
〈1〉驚は腎としたのは,どのような古典的根拠にもとづくのか?
〈2〉驚は腎とするならば,驚の常見症状である善驚や驚悸の弁証論治はどのようなものになるのか?
『中医臨床』通巻155号(Vol.39-No.4)はこちら