2016年11月5日(土)・6日(日)の両日にわたって,つくば国際会議場にて「WFAS Tokyo/Tsukuba 2016」が開催された(主催:全日本鍼灸学会・日本伝統鍼灸学会)。当日は32の国と地域から1,733名(日本人1,495名,海外238名)の参加者が集い活気に溢れた大会となった。
WFAS(World Federation of Acupuncture-Moxibustion Societies:世界鍼灸学会連合会)は,1987年の設立以来,毎年各国の持ち回りで学術大会を開催しているが,前回日本で開催されたのは1993年の京都大会(第3回世界鍼灸学術大会)であり,今回はじつに四半世紀ぶりに日本で開催された。WFASはもともと日本が発案し,全日本鍼灸学会の初代会長・高木健太郎氏,元国際部長・黒須幸雄氏らの活躍により設立に至った経緯がある。
――編集部
会場であるつくば国際会議場は,科学技術分野の研究機関の集積する茨城県つくば市中心部に位置し,数多くの国際会議やイベントが催される。早朝は曇り空で,時折小雨がちらついていたが,午前のうちには上がり,澄み切った青空が広がる心地よい秋空のなかでの開催となった。
「美しき鍼灸」
本大会のテーマは,「美しき鍼灸(The Art of Acupuncture and Moxibustion)―持続可能なヘルスケアと養生」。会頭の
後藤修司氏(前・全日本鍼灸学会会長)は,「今や鍼灸医療は,世界に広く伝播され,普遍的でありながら,各地域固有の文化と融合した多種多様性のある,『最も古く,そして最も新しい健康観を内包した医療』として各国国民に受け入れられている。これからの鍼灸医療の目指すところは,人類共通の医療資源として,生命・生存・健康をひと連なりのものとして捉え,従来の伝統的な枠組に止まらず,社会の変革や疾病の変化に対して柔軟な姿勢を持ち続け,常に自己改革と社会が求める意義ある価値を創造し,未来にあるべき持続可能なヘルスケアのモデルをダイナミックに提示することである」と強調する。とりわけ本大会では,「世界」からの目を意識して,世界に向けて日本鍼灸を発信する意気込みを感じるプログラムが多く組まれていた。
会頭講演を行う後藤修司氏
大会初日の最初の基調講演では,WFAS会長の
劉保延氏(中国中医科学院)が登壇し,「鍼灸の臨床研究プラットフォーム構想とその実践」をテーマに講演した。鍼灸は世界に広がり症例報告は年々積み重ねられているが,質の高い臨床研究は少なく,そのため鍼灸の臨床研究のプラットフォームをつくり,研究データの質を高めることは危急の課題であるという。講演では劉氏の研究グループが取り組んできた研究成果を紹介した。劉氏らはこの5年間で,難治性機能性便秘・緊張性尿失禁・閉経症候群に関する11のRCT(症例数は4,000以上)を実施し,鍼灸の効果と安全性の確認を進めてきたという。世界規模で鍼灸を普遍化するためには質の高い臨床研究を数多く積み上げていくことは必須だ。プラットフォームづくりはそのための基礎となる。
先陣をきって基調講演を行う劉保延氏
また2題目の基調講演を行った
矢野忠氏(明治国際医療大学)は,「日本鍼灸の形成とこれからの社会における鍼灸の役割」をテーマに講演。矢野氏は「わが国の鍼灸療法は,その起源は中国を発祥とするが,わが国に伝えられてから1450年以上の時間の流れのなかで日本の精神的・文化的風土により練り上げられてきた誇るべき日本固有の医療であり,文化でもある」と強調。講演では鍼灸の日本化が始まった鎌倉時代以降の日本鍼灸の歴史をトレースし,現在の日本鍼灸の原型は江戸時代に成立したと語る。現在日本で行われている鍼灸療法には,①古典理論にもとづいた鍼灸,②西洋医学理論にもとづいた鍼灸,③両者を併用した東西折衷の鍼灸の3タイプがあり,文明(西洋医学)と文化(東洋医学)が統合した鍼灸療法こそが日本鍼灸の特色であると述べた。
この他,本大会では46題の特別プログラム(劉氏・矢野氏の講演を含む基調講演7題・鍼灸実技セッション27題・スペシャルセッション5題・サイエンティフィックセッション5題・市民公開講座2題)と,323題の一般演題(口演87題・一般ポスター203題・学生ポスター33題)など,バラエティに富んだ演題が組まれた。
次回,2017年大会は韓国・テグで開催される予定である。中国に起源をもちながらも各国の文化や環境と融合しながら,さまざまな場所で独自の発展を遂げている鍼灸。さらなる深化と広がりを期待したい。