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通巻145号◇【リポート】熊本鍼灸マッサージボランティア報告

熊本鍼灸マッサージボランティア報告
個室と温灸の効用


関西中医鍼灸研究会世話人・(公社)大阪府鍼灸師会会員 藤井 正道

 2016年4月14日および16日に熊本県と大分県で相次いで発生した熊本地震を受け,熊本鍼灸マッサージボランティア「チームオレンジ」は5月1日~4日,避難所の熊本市立若葉小学校と御船町スポーツセンター,熊本市立一新小学校で被災者やボランティアのみなさん242名を治療しました。のべ22名(実質7名)の治療家,補助者3名(実質1名)が参加しました。
 チームオレンジは関西中医鍼灸研究会世話人の筆者が4月22日に呼びかけ,大阪・東京・茨城・大分の仲間が流派・会派を超えて結成した混成チームです。4月24日に設置された日本鍼灸師会・全日本鍼灸マッサージ師会合同の災害対策本部と連携し,その一環として活動しました。




どんな患者さんを診たのか

 避難所は手狭で被災者で溢れかえっていました。また余震が続いているという状態のため,避難所の外にテントと車(ハイエース)で臨時治療所を設置することにしました。結果としてお灸や温灸が使いやすくなりました。避難所の外の個室,半個室状態で治療ができました。
◆熊本市立若葉小学校【1日13時~20時,4日9時~13時】
 晴天で暑い日でした。体育館内はぎっしりの避難者で溢れていました。高齢者の多い地域で,被災者も高齢者が目立ちます。ただ,診たのは高齢者ばかりではありません。5月1日午後と4日午前に治療しましたが,例えば5月1日の患者さんは,70代以上が36%,50代~60代が23%でした。
◆御船町スポーツセンター【2日9時~20時,3日9時~19時】
 2日は晴天で暑い日,3日は一転して土砂降りの雨で寒い日でした。2日,3日と治療した御船町スポーツセンターは町の中心部にあり,町役場もすぐ近く。同じく避難所になっているカルチャーセンターに隣接し,そこには自衛隊がお風呂を設置していました。「スポーツセンターだけでなく,物資の配給・入浴等で集まってくる町民のみなさんに治療をしてください」と要請されました。御船町は益城町に隣接する被害の大きかった地域です。避難所に避難されている方ばかりでなく,物資の配給を受けに来た方,入浴に来た方なども治療しました。年齢層も多岐にわたっています。例えば2日に私が診た患者さんは10代12%, 30代25%,40代25%,50代25%,70代12%という具合でした。


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御船町スポーツセンターに開設した臨時治療所




治療の様子

 鍼灸専業の治療家が多いため,マッサージのみを希望する患者さんは筆者が引き受けることにしました。筆者も鍼灸専業ですが,マッサージの経験もあります。
 若葉小学校の患者さんはみんな不眠でした。一方,御船町スポーツセンターの患者さんは避難所暮らしではない方もいて,その場合は不眠のない方もいました。やはり環境の差は大きいようです。肩や腰の痛み重さを訴える患者さんが多かったのですが,「全身」という患者さんも結構いらっしゃいました。「全部つらい」と言う方,「今が現実とは思えない」と言う方も。鍼が使えない場合,肩や腰や足がつらいという患者さんにはそこをマッサージ・指圧します。疏経活絡です。痛みや重さは気滞ですが,患者さんは気虚兼気滞です。その場合,通絡の指圧だけでは気が消耗してしまうと考え,棒灸・箱灸・台座灸を使いました。鍼を怖がる患者さんでも棒灸・箱灸の温和な刺激は大丈夫です。やってみると喜ばれました。
 避難所によっては,毎回炊き出しが行われているところもあるのですが,パンとカップラーメンというときも多く,新鮮な野菜・果物は避難所の食事には不足しています。そのためか,多くの避難所の患者さんは便秘でした。食欲のない方もたくさんいらっしゃいました。
 肩こりは太陽膀胱経を中心に湿邪が阻滞した状態ですから,通絡と同時に祛湿が大切です。温陽すると陽気が補われることで,身体の気の総量が増し,通絡の過程で失われる気を補うことができます。そのため温陽化湿健脾利水の効果のある神闕の箱灸を多用しました。神闕は便秘の腸,気秘つまり気虚の便秘にも効果的です。
 湧泉の棒灸もよく使いました。棒灸器を足裏に置いたり,棒灸を手に持って雀啄したりしました。降気補腎補陰の作用があるので,不眠の患者さんには効きますし,そういう方は「気持ちがいい」という反応です。
 身体のだるさ・疲労感を訴える場合で,頭に清陽を上げることが必要と判断したときは,百会に棒灸を使いました。通常は棒灸器をセットするのですが臨時治療所では棒灸を手に持って雀啄して得気しました。セットしにくいのと,みなさん初診の患者さんですから,反応をみながらやりたかったからです。
 個室・半個室の治療室に入ると患者さんは堰を切ったように喋り始めます。隣近所がそのまま越してきたような避難所の中では喋れないことばかりなのでしょう。心配事や嘆き・これからの不安など,喋り続けて少しだけすっきりした顔に変わります。督脈通陽法や神闕・湧泉の棒灸でウトウトされます。避難所が狭いからと設置した臨時治療室は有効なケア空間でした。


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木陰で箱灸をしているところ

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臨時治療所に使った車両の内部。筆者の車中泊にも使用

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臨時治療所に使った車両と自衛隊車両




中医臨床 通巻145号(Vol.37-No.2)特集/「火」の認識とその治療


『中医臨床』通巻145号(Vol.37-No.2)より転載






*当ボランティアに関する他の情報は著者のブログに掲載されています
http://yuisuita.sblo.jp/article/175829255.html


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