【読みどころ・その1】p2~13
| ニッポンの中医臨床。 |
複雑系に対応した伝統中国医学の真価(木田正博)
日本の中医臨床の実態に迫る企画の第5回。今回は1990年から2年間,中国の安徽中医学院附属病院で本場の中医学を研修し,現在,高知市で木田山薬堂診療所を開業して日々,中医学治療を実践している木田正博先生に話を聞く。木田先生は,物質文明に対する疑問や西洋医学への不信感から東洋医学の道に入ったという。そして「教科書中医」を身に付けることを目標に,2 年間中国で研修し,帰国後は「教科書中医」にもとづいて臨床を行ってきた。現在の臨床では葉天士の学説を始め,温病学を掘り下げる一方で,生活習慣や環境を重視した診療を続ける。また化学物質の影響を中医学で捉えるようなことも試みている。「伝統中国医学は複雑系に対応した稀な医学で,体系化されて幅広く臨床で役立っており,今後ますます必要とされ,注目される医学です」と強調する。
【読みどころ・その2】p66~70
| 中気理論を臨床で応用する。 |
黄元御の中気理論とその臨床応用(陳聖華ほか)
土を中央に配置し,上方に火,下方に水,左に木,右に金を分布させた中土五行の中気理論を探るシリーズ。第2回目は,清代に活躍した黄元御(1705-1758)の中気理論とその臨床応用について紹介する。黄氏は,中気は陰陽の間で五行の中位にあり,六気を調和し安定させており,これが安定していると病気に罹らないと考えていた。中気が健全かつ旺盛で昇降作用をめぐらせることが生命の源であり,中気の虚衰と昇降機能の逆行は万病の元であるという。そのため治療では,中気を転運させ,昇降作用を正常化することが基本になると強調している。本稿では,さらに黄氏の症例(喘息・吐血・眼科疾患)を提示し考察を加える。
【読みどころ・その3】p126~133
| 針灸でもやはり弁証論治が重要だ。 |
針灸の弁証論治と中国における針灸の現状(王啓才)
1955年に任応秋先生が中医臨床における弁証論治を提唱して以来,湯液だけでなく針灸分野においても弁証論治は核心として位置付けられてきた。しかし近年,現行の針灸の弁証論治は湯液からの借りもので針灸に適しているとはいえない,さらには針灸のための弁証論治を再構築するべきだという議論が出てきている。そこで今回,南京中医薬大学の王啓才教授のもとを訪ねて話を聞いた。王教授は第7版統一教材『針灸治療学』を主編しており,この問題を投げかけるには最適な人物である。編集部では,1999年にも類似のテーマで王教授に話をうかがったことがあるが(通巻79号に掲載),あれから15年以上が経過して,改めて針灸の弁証論治に対する王教授の考えをうかがうとともに,さらに中国における針灸臨床の現状について聞いてみた。
【読みどころ・その4】p134~141
| 経絡とは何かを探し求めて。 |
近代の経絡解釈の変遷(張建斌)
現在,中医教材で学ぶ経絡理論は臓腑理論と並列になっているが,じつはこのスタイルが確立したのは1957年のことである。経絡理論を鍼灸学にとどまらせず,中医理論の中核に据えたことではじめて中医学の整体観が完成したのである。転機となったのは,承淡安の学生であった梅健寒らが中心となってまとめた『鍼灸学』(江蘇人民出版社・1957)である。近代になって西洋医学が中国に伝えられると,伝統的な経絡の実態が探られるようになった。あるものは血管,あるものは神経にその根拠を求めた。現代中医鍼灸の父・承淡安も日本への留学を経て,西洋医学的な経絡観に傾いていた。しかし最晩年には古い鍼灸理論に立ち返ったという。結局,承淡安は体系化する前に亡くなるが,その未完の事業は弟子である梅健寒らが成し遂げた。経絡研究は今なお続く重要なテーマであるが,こうした歴史的経緯を知っておくことは重要であろう。
『中医臨床』通巻143号(Vol.36-No.4)はこちら