【読みどころ・その1】p2~10
| ニッポンの中医臨床。 |
日本の小児漢方 その方法と現状(山口英明)
日本の中医臨床の実態に迫る企画の第4回。今回は地域の中核的公立病院で,勤務医として小児科の臨床にたずさわり,その傍ら院内紹介制の漢方外来を開設して,小児から高齢者までを対象に中国伝統医学を活かしてきた公立陶生病院の山口英明先生に話を聞く。近年,小児の救急重症疾患に対する治療は急速な進歩をみせているが,一方でアレルギー性疾患や精神心理的な問題に対して西洋医学では対処しきれない例が増えており,そこに漢方治療がある程度機能することがわかってきているという。小児漢方は構造的に成人の中医学とも日本漢方とも異なりベースの体系が曖昧だ。さらに小児の病態は成人に比べて比較的シンプルであるため,使用する生薬・漢方薬も少ない種類で対応でき,治療に対する反応もシャープに現れるという。今,小児の特徴にあった漢方治療の構築が進んでいる。
【読みどころ・その2】p74~82
| 医療用漢方エキス剤の中医学的理解とその運用。 |
基本処方とプラスαの加味方(渡邊善一郎)
近年,日本の医療現場で漢方エキス剤の使用が広がっているが,まだまだ病名に合わせて投与されているケースが多い。しかし,伝統医学的な方法によらなければその真価を十分に引き出すことはできない。本連載では,薬価収載の漢方エキス剤を,病名投与(処方単位)ではなく病態投与(生薬単位)できる力をつけることを目標に,中医学的視点から解説していく。まず「初級篇」として基本13処方を覚えてもらい,その後,「中級篇」として基本処方プラスαの加味方に発展させ,「上級篇」で基本処方を生薬構成から理解してもらい,その生薬構成に関連した処方を提示する。最後に「名人篇」として生薬構成が類似した処方を比較しながら,各処方の特徴を理解できるように展開していく。生薬単位で処方の理解を深めることで,病態に応じ臨機応変に対処することが可能になる。
【読みどころ・その3】p56~59
| 中気理論を探る。 |
「中土五行」その理論と応用(任海燕)
普段,私たちが目にする五行図といえば,“木・火・土・金・水”が,相生の順番で右回りにぐるりと円を描いているものである。しかし五行図には,土を中央に配置し,上方に火,下方に水,左に木,右に金を分布させたものもある。これは,土(脾胃)が中央にあって四方をコントロールすることを強調した考え方である。この考え方の萌芽は春秋時代の『管子』にあるが,医学的には『黄帝内経』のなかに見ることができる。これは『内経』が“中土脾胃の気”(中気)を重視していた証左である。その後,中気思想は李東垣の『脾胃論』に引き継がれ,さらに清代の黄元御が「中気は陰陽昇降の枢軸である」と述べ,中気の理論化を進めた。本シリーズでは,中国で発表された関連文献を猟歩しながら中気理論の臨床的価値について紹介していく。
【読みどころ・その4】p136~148
| 現代中医鍼灸形成の背景が明らかに。 |
承淡安と澄江鍼灸学派が現代中医鍼灸に与えた影響(張建斌)
現代中医鍼灸はどのような過程を経て現在の形になったのか。中国伝統医学の大きな変革期であった民国期から新中国初期の動向が焦点となるが,なかでもカギになるのが,承淡安とその弟子たちからなる澄江鍼灸学派である。承淡安は当時,民間医療となっていた鍼灸を復興して医療体系へと昇華させ,さらに教育体制を整えてその後の現代中医鍼灸の土台を築いた。そして弟子たちは,現在の鍼灸教材の基礎となる体系的なテキストをまとめあげ,さらに多くの学術的新機軸を打ち出していった。このたび,この学派を専門に研究し,関連する論文を数多く発表している南京中医薬大学の張建斌氏のもとを訪れ,承淡安と澄江鍼灸学派の特徴や現代中医鍼灸に与えた影響について,さらに彼が責任者を務める“澄江鍼灸学派伝承工作室”の活動や研究状況について話を聞いた。
『中医臨床』通巻142号(Vol.36-No.3)はこちら