【読みどころ・その1】p2~9
| ニッポンの中医臨床。 |
宋以前傷寒論の世界に魅せられて(岡田研吉)
日本の中医臨床の実態に迫る企画の第3回。
今回は国立東静病院で漢方を学び,1982年に北京中医学院に留学,現在,東京・玉川学園で岡田医院を開業し,漢方を中心とした治療を行っている岡田研吉先生にお話をうかがう。岡田先生は,北京留学中に本屋めぐりをしていて『太平聖恵方』を見つけ,以来この本を軸に『傷寒論』に取り組むようになった。岡田先生は「『傷寒論』には色々なテキストがあるのに,どうして明版の『宋板傷寒論』だけを取り上げて漢代の張仲景と直結させて(中間の諸経典をすっ飛ばして)議論するのかがわからない」と疑問を呈し,宋以前傷寒論に取り組む意義を強調し,さらに臨床においても原典を重視し北宋以前の理論体系で治療にのぞんでいる。
【読みどころ・その2】p10~17
| 中国における経方派の旗手が語る。 |
経方には方証相応があり,確実な効果がある(黄煌)
近年,中国において現代中医学のアンチテーゼとして経方を見直す機運が徐々に高まってきていると感じられる。思弁性を排除し,薬味の少ない処方で切れ味するどく効果をあげるやり方が評価されているものと思われる。黄煌先生は中国で方証相応を推奨する経方派旗手の1人。このたび,南京の黄煌先生を訪ね,なぜ経方を推奨するのか,さらに最近の中国で経方をめぐってどのような動きがあるのかについて話をうかがった。黄煌先生は,経方の方証は確実な効果があり,客観性があり,さらに複雑で千変万化する臨床病症をどう扱えばよいかを教えてくれるという。黄煌先生の主張は,現在の中国の中医学が抱える課題を浮き彫りにする写し鏡のようだ。
【読みどころ・その3】p72~78
| 国医大師が示す中医がん治療の考え方と対策。 |
中医がん治療の基本的な考え方(周仲瑛)
国医大師・周仲瑛教授が中医がん治療の基本的な考え方と対策について論じる。周教授は証を審らかにして病因を探る「審証求因」を基礎に,解毒・攻毒の薬材によって祛毒する「癌毒致病説」を提唱する。この学説では,がんは臓腑の気化機能の錯乱から始まり,この状態が進んで有形のがんが発生すると考えている。痰・瘀・鬱毒はがんの核心的な病機・病証であり,臨床では弁証と弁病を並行して行い,邪正の消長の変化や,がんと整体の病変の関連性を見きわめなければならない。解毒と攻毒は,証や患者によって変化させる必要があり,またがんの病位によって病理的特徴が異なることを理解しなければならないという。さらに本稿では,複法大方はがん治療の基本的対策であること,がん治療に使用する薬材運用の要点,標病・急病は臨機応変に対処し苦痛を和らげることが重要であること,再発・転移の予防には養正が重要であるという観点も示す。
【読みどころ・その4】p142~148
| やはり薬性と同一の穴性はない。 |
穴性論と鍼灸の弁証論治(徐斌)
「理法方穴術」の一貫した弁証論治体系は,現代中医鍼灸の根幹だが,なかでも「法」と「穴」を結びつけるうえで穴性は重要な役割を果たしている。しかし中国では1990年代以降,薬性を真似た穴性に否定的な見解が現れている。だが,もし穴性がなければ,「法」と「穴」をどのように結びつけるのだろうか。このたび今から16年前の1999年に,穴性と薬性の違いを明らかにしながら,薬性をモデルとした穴性に否定的な見解を示した論文「穴性論」を発表し,穴性論争に一石を投じた南京中医薬大学の徐斌教授にお会いし,穴性に対する認識,中国における穴性をめぐる議論,鍼灸の弁証論治,鍼灸教育の実際などについて話を聞いた。
『中医臨床』通巻141号(Vol.36-No.2)はこちら