アメリカの中医教育
教育機関
1972年，アメリカのニクソン元大統領の訪中に同行したニューヨークタイムズのJame Reston記者が，現地で受けた針麻酔の経験を報道して，アメリカで大きな反響を呼んだ。その後，NIHが中国の針灸療法に注目するようになり，1973年，アメリカ政府が認可したはじめての針灸診療所がワシントンDCに設立された。責任者には，澄江学派の継承人といわれる蘇天佑氏が就任。蘇氏は，澄江学派の創始者・承淡安の弟子の曽天治から針灸を学んだ。
1975年３月，蘇氏は弟子とともにボストンで New England School of Acupunctureという針灸学校を設立。その後，アメリカ各地で中医学校・針灸学校が次々と開校。多くはカリフォルニア州に集中している。各校の学生数は100～600名で，教師の多くは中国人か華僑，学生は非中華系のものが大多数を占めている。
以下，いくつかの学校を紹介する。
●美洲中医学院
1980年設立。教員12名，学生定員40名。針灸と中薬の関係を強調した教育が特徴。全課程は2,194時間。３年以内に12学期を修了したものが針灸修士の学位を取得でき，９学期を修了したものは，州の針灸免許受験資格が得られる。広州中医薬大学の教授を招き，同時に広州中医薬大学で研修も行っている。ACTCMの学生がサンフランシスコ大学の単位を履修することも可能で，４年間学習し試験に合格すれば，サンフランシスコ大学の学士学位を取得できる。
●美国中西医科大学（Samra University of Oriental Medicine）
1975年設立。1979年，カリフォルニア州政府から認可された最初の中医学校。学校には診療所と校舎がある。教育部門は，医療針灸学部・夜間学部・中医博士の３学部。教員12名，各学部の学生定員40名。全課程は2,360時間で12学期ある。３年で終了したものは修士の学位を取得，州の針灸免許受験資格が得られる。
●国際中医学院（International Institute of Chinese Medicine)
1984年，ニューメキシコ州のサンタフェ市に設立。広大な敷地に6,000平米の校舎が建てられ，そのなかに事務局・教室・治療室・図書館がある。毎年中国の大学から教授を招き，成都中医薬大学・黒龍江中医薬大学と教育交流を行っている。夏に研修旅行のため訪中，針灸と中医学の証書を授与されている。
●美国Michener学院
政府の援助を受ける学院として，1998年に全日制の針灸課程が開設。毎年９月開校。全課程は3,200時間で，伝統中医薬学の内容が中心。最後の２年間，中国かオーストラリアで臨床実習の機会があり，卒業時に中国とカナダの修士学位が授与される。東西両医学の交流の架け橋となるため，針灸以外にも西洋医学も教育。中薬課程も開講を計画中。
●カリフォルニア州立大学
アメリカの州立大学のなかで最も早く中医学部が設置された大学。卒業すると中医学と針灸学の修士学位を取得できる。
●ニューヨーク大学医学部
中国の河南中医学院と共同で「美豫国際中医学院」を設立。中国国内とアメリカにそれぞれ学校が設立され，中医薬学・針灸・推拿・看護の４学部を開設。
この十数年来，アメリカでは中医学の教育事業の発展がめざましい。アメリカの中医教育界は，中医薬・針灸だけでなく，学術界・医療界・教育界とも相互に交流し連携を深めている。共同で植物園を造成したり，正規の大学で単位を取得できるようにもなった。また大学に中医学部が新設されるようにもなった。中医教育はアメリカの大学に浸透していっている。
教科書
1980年代以前，アメリカの大多数の針灸学校では，中国の針灸学によっては教育されていなかった。経絡にもとづくフランス・ベトナム式の針灸療法，五行針灸療法，日本の良導絡・長寿法などの方法が主流を占めていた。転機は，1980年代初頭，アメリカで，『中国針灸学概要』『針灸：総合教材』『The Web That Has No Weaver』の３冊が出版され，ほとんどの針灸学校で教科書として採用されたこと。以後，アメリカの針灸教育では，中国の針灸学が絶対的な立場を占めることになった。
ACTCMは，中国の中医薬大学のカリキュラムを真似て設立され，数多くの中医学教材を出版したため，アメリカの中医学教育に大きな影響を与えた。いま，アメリカでは，高いレベルの英文の中医薬学の統一教材を編集することが課題となっている。
（海洋）
