イギリスにおける中医の立場
イギリスにおける針灸は,すでに40年以上の実績があり,針灸師の数は7,500人に及ぶ。導入の初期からイギリス政府は針灸を中医薬と区別して補完代替医療(complementary and alternative medicine:CAM)の第1類として認めたが,中医薬は西洋ハーブ・インド草薬とともに草薬医学(Herbal Medicine)に分類され,効果の低い第3類に置かれた。
ところが,この十数年来,イギリスで中医診療所が急増し,ロンドンだけでも300~500カ所が登録され,正式に資格を持っている中医師は1,200人~1,500人にのぼるようになった。さらに1994年には,中国人を主体とする「英国中医薬学会」(The Association of Traditional Chinese Medicine:ATCM)が設立されるにいたった。
さらにここ数年で,中医薬はその確かな治療効果によって社会的に支持されるようになってきた。2001年末,イギリス衛生部部長は中医薬の効果を認め,中医薬を含めた補完代替医療の発展のために,中医薬を法制化すると発表した。
2002年5月,イギリス衛生部は草薬と針灸を法制化するため,2つのワーキンググループを組織して〈Herbal Medicine Regulatory Working Group (HMRWG)とAcupuncture Regulatory Working Group (ARWG)〉,草薬医と針灸を法制化する準備作業を始めた。そして,英国針灸学会(BACC)・英国中草薬登録協会(RCHM)・欧州草薬師連盟(EHPA)・英国中医学会(BSCM)・ATCMなどの代表が参加したが,結果的に政府の意向として草薬と針灸のみが法制化されることになった。
英国中医薬学会は中医薬の正しい姿(中医薬と針灸の両方を含む)を守るため,英国中医学会針灸・英国中草薬登録協会などの学会とともに中草薬治療を含む中医師の名称を認め,法制化するように提案したが,草薬界と針灸界の反発を招いた。特に針灸界は中医薬を認めようとはせず,中医師が針灸を行うためには針灸師の登録をしなければならないと主張し,現在もこの議論は続いている。草薬界は当初,草薬単独の法制化を求めていたが,中医学の独特な理論体系に理解を示し,中医師の法制化を支持した。
2005年2月,イギリス衛生部の「立法諮問報告」で,はじめて「法律上で,中医師の名称および針灸師と草薬師が同じ立場であることを認めるべきである」という提案が出された。イギリスで中医薬が認められる日も近いかもしれない。