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通巻113号(Vol.29 No.2)◇著者に聞く



脈診
脈診を学んだのに臨床で使えないと悩む人は多い。
解決するカギは,脈象の基準を定め,脈理を把握することだ。
本書を繰り返し読み実践すれば,必ず脈診技術は向上する。


山田 勝則(やまだ・かつのり)先生のプロフィール―
1954年,東京都生まれ。1988年,早稲田針灸専門学校卒業。同年,現在地において針灸治療院・オリエンタル治療院(東京都品川区)を開業。呼泉堂において,1991年より何金森教授から中医学の指導を受ける。以後,現在にいたるまで,ときには上海あるいは来日時に継続して指導を受ける。指導内容は,中医基礎理論・中医診断学・中医内科学・中医婦科学・針灸治療学・バセドウ病の針灸治療・男性不妊症の針灸治療など,理論と臨床技術の多岐にわたる。




弁証できても脈診ができなければ効果は上がらない
 編集部:脈診をいつ,どこで学びましたか?
 山田:はじめて脈診を学んだのは,今から17年くらい前に,ちょうど来日されていた上海中医薬大学の何金森先生に講義していただいたときです。そのときは『針灸学』[基礎篇](東洋学術出版社)を使って中医学の講義をしていただきました。当時はまだ中医学の入門段階で,臨床に応用するどころか,脈診全体をぼんやりと理解した程度でした。もちろん臨床では脈診を行っていましたが,虚実・遅数・停止の有無だけをみていて,弁証論治に役立てるところまで達していませんでした。しかし,たとえ弁証ができても,きちんと脈診を行えなければ,実際の補瀉の加減をどのように配分して治療するかなど,はっきりしないことに気がついて,再度脈診を勉強し直すことにしました。このときは独学で,和書では『中医診断学ノート』『針灸学』[基礎篇](以上,東洋学術出版社),『中医臨床のための舌診と脈診』(医歯薬出版),中国書では『中医診断学』(人民衛生出版社),『中医診断学』(中医医薬科技出版社),『瀕湖脈学釈解』(志遠書局),『中華脈診』(中国中医薬出版社)などを読んで勉強しました。
 編集部:この本をまとめようと思った経緯は?
 山田:独学で再度脈診を勉強し直しましたが,どの本にも一番知りたい脈の取り方が書いてありませんでした。例えば大脈であれば,「正常脈より太い」としか書いておらず,正常な脈の太さをどのように決めるかが書いてありません。その他の脈もだいたい同じで正常な脈をどう決めるかがはっきりしないのです。結局,再現可能で誰でもわかる基準を定める必要があると気がつきました。それから自分なりに脈診を理解しようとまとめていきました。出版を意図してまとめたものではありませんでしたが,今から4~5年くらい前に白川徳仁先生(呼泉堂)の所で行っていた勉強会で脈診についてこのノートのことを話したところ,白川先生が興味をもって読んでくださり,とても有益な内容だから本としてまとめるよう勧められ,出版に至りました。

本書を繰り返し読み実践すれば脈診は向上する

 編集部:この本の特徴は?
 山田:「脈理篇」「脈診篇」「病脈篇」の3部構成にしたことで,知識を整理して理解でき,独学でも臨床で活用できるレベルになることです。「脈診篇」を繰り返し読んで実践すれば,脈診技術は必ず向上します。3カ月くらい徹底的に練習すれば,基礎ができあがりますから,あとは自分自身で積み上げていけばよいのです。ただし,脈理を把握していないと治療には役立ちません。
 編集部:この本の見どころは?
 山田:一番の見どころは,「脈診篇」で,基本病脈の基準を図を使って説明しているところです。これだけ具体的な脈診技術を書いた本は,私の知るかぎりないと思います。役に立つという点では,「脈診表」が診断技術を向上させる手助けになると思います。
 編集部:力を入れた点は?
 山田:脈理です。脈理を理解できれば絶対に臨床で役に立つと考えたからです。でも,気血・陰陽・病邪と脈の関係を矛盾なく組み上げていくことには苦労しました。監修していただいた何金森先生は非常に丁寧に原稿のチェックをしてくださり,最初の原稿ではじつにたくさんの修正意見をいただきました。そのおかげで,2回,3回と原稿を書き直す過程で,自分の理解も深まりました。とにかく脈理を首尾一貫させるために,何度も何度も検討し直しました。
 編集部:これまでの脈診書との違いは?
 山田:従来の脈診書は,まず脈診の一般的な方法を論じ,その後で各病脈の脈象・主病・解説をするものでした。確かに脈理も書いてありますが,各病脈に属した脈理なので,脈理を系統的に集中して学ぶことができません。本書では「脈理篇」を独立して設けてありますから,気血・陰陽・病邪と脈の関係を矛盾なく一貫して学ぶことができます。また,多くの脈診書は脈診の一般的な方法論は書いてありますが,一番知りたい,何をもって太い,細いといっているのか,少し按じるとはどの程度なのかが書いてありません。本書では基本病脈の基準を初学者でもわかるように具体的に示しています。基本病脈を設定したことで脈診方法が簡潔になり,病脈探しの脈診でなくなります。さらに病脈については,各脈象を網羅的に紹介するのではなく,多くの専門家が支持する脈象に絞り込み,その他の脈象とも矛盾しないように決めました。

脈理を理解すれば複雑な病証にも対処できる

 編集部:相兼脈も本書の脈理を理解しておけば難しくありませんね。
 山田:そのとおりです。脈理は遠回りのように感じるかもしれませんが,ここが理解できれば,さまざまな相兼脈でも慌てることも,記憶をたどる必要もなくなります。
編集部:捨脈従証・捨証従脈のコツは?
山田:これは,極端な虚実あるいは寒熱が脈と証に矛盾して現れた場合に行うものです。その方法に定まった形があるわけではありませんが,どちらが病気の本質を反映しているかを見きわめることです。そのコツはやはり脈理に照らして脈と証の矛盾がどこにあるのかを分析することです。ここで注意しなくてはならないのは,捨脈や捨証の捉え方です。採用しないという意味の舎(捨)には,次の2つの場合があります。
①脈と証が矛盾しているが,その矛盾を説明できる場合
 例えば,熱証で脈遅の現れる陽明腑実証の場合です。証が熱,脈が寒の一見矛盾した場合のようですが,じつは熱結により腑気が圧迫されて脈が遅くなっているのです。ですから,熱を取り除く治療を中心に行っても何も問題が生じませんから捨脈従証,つまり寒証(捨脈)の治療は採用せず,熱証(従証)の治療を行います。
②脈と証の矛盾を説明できない場合
 中医学理論で分析してもわからない場合は,かなり病気が重いか,あるいは服用している薬が原因となっている場合があります。このときには再度診察を行い矛盾の原因を見つける努力をしなければなりません。治療に際しては脈が虚証に属する場合は瀉法は避けたほうがよいでしょう。
 編集部:最後に読者にメッセージを。
 山田:脈診の重要性について一言補足しておきます。中医学を勉強し始めれば,たとえ脈診が不十分でも,机上の演習問題では弁証ができ,配穴も組み立てられるようになります。しかし実際の臨床では,病証と脈象が一致しているケースは意外と少なく,一致しない場合,どのように病態を理解したらよいかわからなくなります。例えば,外感病の初期では舌象に変化があまり現れないので,症状と脈診を根拠に治療法を組み立てなくてはなりません。太陽傷寒証の場合,風寒外束・衛閉営鬱の病証ですから発汗解表を中心に治療するので針灸では瀉法が主となります。例えば,基本配穴は瀉大椎(灸)・列缺・合谷となり,教科書レベルではそれで合格です。しかし,脈象が浮緊であるべきところが沈無力であれば,どのように考えればよいのでしょうか。もし脈診の知識が不十分なら,この沈無力の脈象が何を意味しているのか読み取れません。『傷寒論』を読んでいる鍼灸師なら間違わないでしょうが,たとえ悪寒発熱・無汗・身体痛の症状があっても正気不足を表す沈無力の脈があれば,発汗法を用いてはいけません。まずは正気不足を主とし,次に解表の治療をしなくてはなりません。具体的な基本配穴は大椎灸,補合谷・気海・足三里です。
 また,脈理を理解していないと,虚実夾雑証と弁証し配穴を決定しても,補瀉の加減がわからず,すべての経穴を同程度に刺針してしまうことも起こり得ます。例えば,李世珍先生の『臨床経穴学』(東洋学術出版社)は腧穴の効能と応用を学べる格好の教材ですが,この本を読んで理解できるレベルでも,脈診を含めた四診がきちんと行えないと,実際の臨床で補瀉の軽重を決められず,治療があやふやなものになってしまいます。
 
 編集部から
 監修者の何金森先生は,以前,本書について,「このような首尾一貫して明解なまとめ方をした脈診書は中国にもない。中国で翻訳出版してくれるところがないか探してみたい」とおっしゃっていたことがあります。
 本書は山田勝則先生個人の臨床経験や脈診方法を集約してできあがったものですが,何先生監修のもと,中医学の伝統的な理論に則ってまとめられています。日中両国の中医臨床家にとって有用性の高いテキストだと思います。



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