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通巻111号(Vol.28-No.4)◇コラム



 フランスでは針灸教育が重視されており,針灸の専門教育を行っている針灸学院・針灸専門学校は10カ所にのぼる。
 1946年,フランス針灸センター学院と国際針灸学会が創設され,ここがヨーロッパの針灸教育の中心となった。その目的は医療活動のできる中医師・針灸師を育成することにあった。
 1963年,Miboyet医師の提案によって針麻酔がフランスの病院に紹介された。1972年,中国とアメリカの間で国交が樹立されたことを契機に,世界的に針灸ブームが巻き起こり,フランスでも針麻酔が行われるようになった。さらにフランスの医師が中国へ渡って針灸を学習したり,中国の医師がフランスへやって来て針灸を教えたりして,針灸の応用はいっそう広がった。1970~80年の10年間,フランスでは針灸の応用・研究・教育が急増し,混乱状態となった。そのため,政府によって針灸分野に大学試験制度を導入し,高等教育を行うことが求められた。1987年,大学において共通課程および試験による資格証明制度が実施され,いくつかの大学医学部で正式に針灸教育が開始された。1988年,フランス医師会は資格証明制度を承認し,それを受けてフランス各地に多くの針灸学校が設置されるようになった。パリだけでも3カ所の学校が設けられた。
 1989年,フランス政府は公立大学に針灸課程を設置することを正式に許可し,パリ・マルセイユ・リヨン・ニース・ストラスブールなど9カ所の医科大学(8年制)で針灸課程が開設された。授業時間は450時間あり,講座形式で行われ3年以内に修了するものとされた。
 フランスの針灸教育は一般に3年制である。1年目は基礎教育で,125時間の理論学習,25時間の指導教育を行う。実技では新旧の針法の基礎を学ぶ。2年目は針灸学と疾病分類学で,75時間の理論学習,25時間の指導教育,50時間の実践教育を行う。実技では診断方法を学ぶ。3年目は臨床と治療教育で,90時間の理論学習,75時間の実習が設定されている。実技では疾病分類と治療法を学ぶ。その他に中国医学・藻類学・食療養生・生薬療法などから2科目を選択する。最後に論文を提出しなければならない。
 針灸の実習については医学院の付属病院,例えば針灸学院には25カ所の病院(あるいは診療所)があるが,そこが実習場所となっている。
 教材は中国の中医薬教科書および要綱を参照して作られたものが用いられている。そのなかで針灸の教科書はよくできているが,中薬・各家学説・臨床に関する教科書が不足しており,そのためフランスにおける中医の発展に課題が残されている。
 学校を卒業後,フランス針灸資格認定試験に合格し,資格証書を取得すれば,登録手続きをして診療を行うことができる。中国の医師が病院・研究所・専門家から招聘された場合はこれらの手続きは要らない。
針灸学校には,医学博士・医師・医学院の学生を中心に,針灸に興味のあるものが入学している。
 講師になれるのは,①中国の中医薬大学に留学しフランスに帰国したもの,②中国の中医薬大学を卒業した中医師・講師,③フランスで中医薬教育を受けたフランス人(しかしこれらの講師は中医薬教育に必要な理論知識・臨床経験・教育経験などが不足している),④中国から招聘した専門家(しかしこれらの専門家は言葉が通じないので,学生との交流ができない)などである。
 2007年2月14日,パリ第5大学で,フランスの教育科技研究部部長が「フランス政府は中医針灸教育と治療効果を全面的に高めるため,指定の大学で針灸の国家資格を与えることを検討している」という計画を発表した。この計画はすでに衛生部の批准を得て,フランス全土の各医科大学学長の支持を受けている。計画では2008年からスタートし,学習期間は2年の予定である。
 フランスでは,針灸は単純な治療でしかなかったが,何百年にも及ぶ努力によって体系立てられ本格的に学べる専門学校が設立されるようになり,さらに大学教育にまで発展した。現在,フランスでは針灸専門学校が10カ所,針灸・中医研究所が18カ所,針灸雑誌は6誌ある。フランス政府は針灸専門委員会を設立させており,さらに針灸・中医に従事するものは1万人にも達するという。
(海洋)

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