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通巻112号(Vol.29 No.1)◇リポート
流派を越えた共通言語を作る 尋集会リポート
昨年9月に,異なるバックグラウンドをもつ数人の若手漢方家たちが集まり,「尋集会(じんしゅうかい)」という新しい研究会が発足した。本会の名称は,『傷寒論』序の「雖未能尽愈諸病,庶可以見病知源。 若能尋余所集,思過半矣」からつけられている。
●尋集会の目指すもの
尋集会の目的は,「流派を越えた共通言語を作る」ことにあるという。現在の日本の東洋医学界においてはさまざまな流派が存在し,例えば基本的な用語に関してさえもいまだ統一された見解がないことが多く,しばしば流派によって異なった診断・治療の手法が実践されている。
本会の発起人代表の別府正志先生は以下のように語る。「今後よりいっそう日本の東洋医学分野を発展させていくためには,まずこのような混乱した現状にいたった歴史的な経緯を振り返り,東洋医学に関わる者一人一人がそれぞれの臨床の立脚点を認識することが必要となる。たとえ教わる師匠や勉強する本が異なっても,臨床的な事実は変わらないわけで,立場を異にする者同士が臨床について語り合おうとする際に,みなが根拠にすべきものは古典であろう。その際にも,『どの古典がよいか,正しいか』ということよりも,全体的・客観的な視点をもったうえで,その本が相対的にどのような位置づけにある本か、どういう流れの中でその本は書かれたのかを理解することがより重要である」。
●虚実の解釈をめぐる歴史的変遷
第3回目となる2008年1月16日の研究会で,取り上げられたテーマは,「虚実」。演者を務めたのは,小児外科の第一線で活躍されながら,医史学の分野でも『千金方』ほか数々の古典の研究をされている静岡県立こども病院・松岡尚則先生であった。
松岡先生はこの壮大なテーマに関連して,古典の記述をはじめ,日本漢方の歴代の大家から現代の著名な漢方家にいたるまで,「虚実」について述べられている数多くの論説を取り上げて紹介された。例えば,古典では『素問』『霊枢』『難経』『太素』『傷寒論』『金匱要略』『五十二病方』『輔行訣臓腑用薬法要』など,中医学の近代の認識としては『中医入門』(秦伯未),日本漢方の歴代の大家としては(以下敬称略)吉益東洞,吉益南涯,和田東郭,尾台榕堂,多紀元簡,山田業広,浅田宗伯,和田啓十郎,湯本求真,矢数有道,木村長久,奥田謙三,和田正系,藤平健,龍野一雄,大塚敬節,荒木性次らの論説,そして現代の代表的な大家たちの論述にいたるまで,ありとあらゆる文献にみられる虚実の記述について縦横に検討し,今日の混乱にいたった源流を解き明かした。
●これから目指すべき方向性
最後に松岡先生は,「日本漢方も中医学も同じく『素問』通評虚実論を元に発展してきたが,日本漢方では吉益東洞以降,虚実の考え方に広がりが生まれ,昭和初期に体力・体質の虚実が用いられるようになった。『素問』の定義は東アジアで一般に使われているものであり,これを捨て去ることはできない。その一方で,体力・体質の虚実というものは歴史は短いものの日本の先達が積み重ねてきた貴重な経験であり,それを放棄することは惜しまれる。したがって,これらをうまく統合できるように理解することが望まれる」と述べ,講演の結びとされた。
「虚実」を筆頭に,基本的な概念などに解決していくべき問題点が多く存在している以上,日本の東洋医学がさらなる発展を遂げるために,それらを正面から見つめ,古典を検証し,歴史的経緯を明らかにしながら討論していこうとする本会の存在意義は大きいといえよう。
開催日時:隔月(奇数月)の第3水曜日,19:30~21:30
場所:東京医科歯科大学構内
発起人代表:東京医科歯科大学・別府正志
e-mail: jinsyu@masashi.beppu.ac
* ご興味をおもちの方は,ぜひご参加ください。問い合わせはメールで上記宛にお願いします。
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