サイト内キーワード検索


お問い合せ

東洋学術出版社

〒272-0021
 千葉県市川市八幡
 2-16-15-405

販売部

  TEL:047-321-4428
  FAX:047-321-4429

編集部

  TEL:047-335-6780
  FAX:047-300-0565

▼『中医臨床』プラス

« 『中医臨床』プラス トップに戻る

通巻112号(Vol.29 No.1)◇インタビュー



『【図解】経筋学 -基礎と臨床-』
今年1月,西田順天堂内科の医師・西田皓一先生が著した『[図解]経筋学』―基礎と臨床―(東洋学術出版社)が刊行された。経筋療法を学体系化し,徹底した追試によってその効果を確認してまとめられたものである。昨年11月,高知県南国市の西田先生のご自宅を訪問し,本書をまとめられた経緯や,経筋学の価値とその臨床効果についてお話をうかがった。
(編集部)

西田先生

◇西田皓一先生のプロフィール―
1937年生まれ。1963年神戸医科大学卒業。1964年神戸大学医学部循環器内科入局。1966年神戸労災病院内科勤務。1974年「発作性頻拍症」の研究によって医学博士の学位を授与される。1977年西田順天堂内科を開業し,現在に至る。2004年高知大学医学部非常勤講師。2006年高知大学医学部臨床教授。
開業と同時に現代医学と東洋医学の両方の立場から治療してきた。その経験から東洋医学の優れた面に気づき,それらを書き残すために1997年から約10年間,『医道の日本』誌にほぼ毎月投稿。
著書に『東洋医学見聞録』上巻(1999),中巻(2004),下巻(2007)(以上,医道の日本社),監修に『目の体操』(マキノ出版,2005)。




針灸との出合い
 編集部:本書を読んで強く感じたのは,針灸に対する先生の情熱が伝わってきたことです。針灸の効果に対する純粋な驚きと興味がストレートに表現されているのが印象的です。先生はドクターですが,なぜ針灸に興味をもつようになったのですか?
 西田:40年ほど前になりますが,当時,神戸の病院に勤務していて,現代医学では肩こり一つ治せないことに気がつきました。神戸といえば華僑の方々が多く住んでおられる街です。そこで中華料理店を経営している華僑の方と知り合いになりました。彼に「医者になったが肩こりも治せない」と打ち明けたところ,「そんなのは簡単」と即答され,彼の案内で針と漢方薬を併用して治療を行っている神戸のとある診療所を訪れました。そこで見た治療法はこれまで学んだことのないもので,そのときは風変わりな治療法があるものだと感じたのですが,そのときが針灸とのはじめての出合いでした。当時,外来に出ていて肩こりを訴える患者がとても多いのにこれを治せないことを痛感し,「肩こりを治せれば名医になれる」と思っていました。
 編集部:それでご自身で針灸による肩こりの治療を試されたのですか?
 西田:当時,肩こりの局所に注射するカンポリジンという薬がありました。そこで非常に小さなツベルクリン針を注射針にした注射器にカンポリジンを入れ,肩の凝っているところに刺して,注射液は体内に入れず,軽く2~3回,雀啄のような操作をしてみました。すると患者さんは「気持ちよい」と言うので,こんなことを何回か繰り返しているうちに,針には効果があることを確信するようになったのです。
 それから本格的に針灸用の針で治療を試みるようになりました。当時はさまざまな講習会に出て勉強しましたし,故・森秀太郎先生の『臨床にすぐ役立つ はり入門』(医道の日本・1970)を読んで,針灸でカゼが治るとか,肩こりや腰痛が針灸治療で治ると書いてあり,それらを追試してみて実際に効果があるのに驚いたのをよく覚えています。
 編集部:先生はどんなところに針灸の魅力を感じますか?
 西田:針灸はほぼあらゆる疾患に対応できるところです。しかもファースト・エイド(病気になったときに最初に行う治療法)として即効があります。また高価な薬も不要で治療費が安くすみます。しかも危険はほとんどありません。
 編集部:臨床にあたるうえで先生が最も大切にしていることは何ですか?
 西田:私は患者さんを診るとき,まず現代医学と東洋医学のどちらの方法で治したほうがよいかを考えます。
 現代医学は診断学・疫学・外科学に優れています。一方,東洋医学は現代医学と異なった観点から病人を診ることができます。例えば,東洋医学では「望・聞・問・切」を通じて病人全体の病態を把握しようとします。その結果,現代医学にない瘀血や虚実などが見えてきます。ですから現代医学で難治性といっている疾患,例えばアトピー性皮膚炎なども東洋医学で治すことができます。アトピー性皮膚炎や他の難治性疾患の多くは瘀血を伴っている場合が多いと思いますが,この瘀血の概念は現代医学にはありません。瘀血を認識する「目」(手段・診断方法)をもっていないので,目の前に患者がいても気がつかないのです。さらに東洋医学には刺絡・刺針・駆瘀血剤などといった瘀血を取り去る手段もあります。そのほか「経筋病」の一つである関節リウマチにも効果があります。「死にたい」と言っていた患者さんがステロイド剤の投与を中止し,灸頭針・刺針・刺絡,あるときは火針を交えながら治療して,約1年半経った現在では製材の仕事に従事できるまでに寛解しています。
 このように私は東西2つの医学をチャンポンにして治療しています。その結果,治療上の盲点が少なくなったと思っています。

『経筋学』をまとめようと思った経緯

 編集部:先生が経筋に興味をもつようになったきっかけをお聞かせください。
 西田:毎日,肩こりやいろいろな部位の筋肉痛や関節痛の患者さんが来られます。これらはすべて経筋病です。わが国で経筋について部分的に書かれたものはありますが,私の知るかぎりまとまった書物は見当たりません。鍼灸学校の教育でも経筋はほんのわずかしか紹介されていないと聞きます。「臓腑学」「経絡学」があるのに「経筋学」はありません。経筋も経絡の一部なのだから「経筋学」があってもよいのではないかと思います。
 毎日,肩こり・関節痛・筋肉痛などを針灸によって治療しているうちに,あるときこれらはすべて「経筋の病」であることに気がつきました。これまで経筋についてまとめられた本はありませんでしたし,『黄帝内経』を見てみると,当時からすでに解剖が行われており,筋肉・腱・靱帯・関節について詳細に観察した記録が残されています。さらに『霊枢』経筋篇には十二経筋の走行や十二経筋が病んだときの症状・治療法が詳しく示されています。現代医学の解剖学からみてもこの十二経筋の走行と筋肉の分布とは大まかに一致しています。
 そこでこの十二経筋のラインは正しいのか,臨床的に追試してみました。そして筋肉は生理的につながって機能していることを確信するようになったのです。この驚きと感動を伝えたい,そういう思いから本書をまとめることにしました。

経筋学とはどのような学問か
 編集部:経筋学は東洋医学からみた筋肉学といえそうですが,経筋学にはどのような内容・特徴があるのか,その概略を紹介してください。
 西田:経筋学を一言でいえば「東洋医学の整形外科学」です。いや,手術はしませんので「東洋医学の筋肉関節学」といったほうがよいかもしれません。筋肉を中心に靱帯・関節の異常を治す治療学です。人は毎日筋肉を使って行動しています。その疲労が経筋病巣を産み,経筋病へと進展してゆきます。人は経脈を使って歩いているのではなく,筋肉を使って行動しているのです。もちろん経脈は経筋を養っているので経脈も大事な存在です。また一方で経筋は経脈を保護しています。さらに経筋は皮部も包括したものだと考える学者もいます。
 私が十二経筋を使って治療してきた結果,感じたことを表にまとめてみました。

表 十二経筋の特徴
①十二経筋のラインは,実際につながったも
 のとして機能している。
②『霊枢』経筋篇に書かれている経筋の走行
 上の「結ぶ」ところが,大事な治療点である。
③経筋の走行上の経筋病巣が,その経筋ラ
 インを治す治療部位である。
④経筋病巣は,経脈による治療である程度改
 善されるが完全ではない。そのときは「痛
 をもって輸となす」(痛みのあるところが
 治療点)で治療する。


 編集部:経筋病巣が現れやすい部位というのはあるのですか?
 西田:主に関節周囲に現れやすいですね。経筋病巣は自覚的にわかる部位と他覚的にわかる部位があります。まず自覚的にわかる,いわゆる阿是穴が大事な治療点になります。さらに阿是穴の周囲や所属する経筋を按診することで圧痛硬結部位を探します。筋肉の起始部と終止部は経筋病巣が生じやすく,これは『霊枢』経筋篇で各経筋の「結ぶ」「散る」と記載されているところです。そのほか,筋腹・筋肉の交わる部位(大腿四頭筋や膝窩など),筋肉に負担がかかる部位(腓腹筋など),骨の飛び出ている部位(肘関節や膝関節痛の周囲など)などにも経筋病巣が生じやすいです。
 編集部:経筋学は筋肉・関節の異常を治す以外にどのような適応症がありますか?
 西田:精神的異常にも経筋病を治すことによって効果があります。精神的な緊張や異常が経筋病巣を作り,逆に経筋病が精神症状を招くことがあります。例えば,最も障害を受けやすい足太陽経筋をはじめとした陽経の経筋に伴走している経脈はすべて脳に通じています。ですから筋肉の異常は精神症状を招き,精神的異常は筋肉の異常を生じさせます。正に「心身一如」です。ですから,経筋病巣を治せばこれらの精神症状を治すことができます。
 例えば,線維筋痛症に伴ううつ症状やその他の精神神経症状は,経筋病巣に刺針することによって治すことができます。それぞれの患者で病巣部位は異なるものの,経筋病巣は足太陽経筋と手太陽経筋に現れることが多いです。線維筋痛症の場合,刺針部位は阿是穴と圧痛硬結部位が参考になります。後頸部の風池,天柱から大杼までの圧痛硬結部の華佗夾脊穴・肩井・肩中兪・肩外兪,肩甲骨に付着している棘上筋・棘下筋上の経筋病巣,特に天宗・肓兪などに刺針します。
 また,線維筋痛症による筋肉の痛みと硬結は精神的異常によって誘発されますので,治療にあたっては大椎・期門・太衝・陽陵泉・四神総穴・膻中を取穴し,疏肝解鬱・温陽通絡によって肝鬱を取り去り,督脈を温め陽気を通じやすくします。
 このように,経筋は『黄帝内経』に記された内容にとどまらず,その後も現代にいたるまで進化してきていると思います。現代病を経筋の目からみると次の表のようです。

表 常見される経筋病


精神的疾患心身症・顎関節症・梅核気
全身疾患線維筋痛症・冷え症・スポーツ
 障害・慢性疲労症候群・四肢の
 運動障害・関節リウマチ
運動器疾患顔面神経麻痺・三叉神経痛・顔
面筋痙攣・筋過緊張性頭痛・顎
関節症・肩こり・寝違え・頸椎
症・むち打ち症・腕神経叢症候
群・肩関節痛・肘関節痛・手関
節痛・拇指腱鞘炎・弾発指・肋
間神経痛・背筋労損・肩甲挙筋
労損・筋性腹痛症・横隔膜痙攣・
腰腹腿三連症候群・腰痛・腰筋
労損・梨状筋症候群・椎間板ヘ
ルニア・変形性腰椎症・脊椎間
狭窄症・坐骨結節部痛・膝関節
痛・こむら返り・足関節痛・足
下垂・足底部痛・足背痛・踵部痛・
痛風・瘭疽・疑難病


経筋治療と阿是穴治療との違い
 編集部:現在,鍼灸治療院に来院する患者の多くは筋・筋膜性の運動器疾患を患っているといわれます。ですから「痛をもって輸となす」いわゆる阿是穴治療で,ある程度の効果を上げることができるという人もいます。経筋治療とこの阿是穴治療との違いは何でしょうか?
 西田:確かに「痛みを感じる部位が大事な治療点」というのは両者に共通する特徴です。しかし,経筋治療の場合は次に示すようにより幅の広いものです。
①経筋の走行に沿って按診して経筋病巣(ゴリゴリと触れる部位)を探って治療する。
②経筋のラインに沿って,局所と離れた部位の経筋病巣を治療することができる。
③筋肉の痙攣や麻痺あるいは精神的異常から起こる筋肉の異常,また筋肉の異常から精神症状を来たす疾患を治療する。
 阿是穴も大事な治療点ですが,経筋学は阿是穴を含めより拡大した,全身の筋肉の解剖学的な分布や精神的領域にも及ぶ広範な治療学といえます。



西田順天堂内科



火針の活用
 編集部:『霊枢』経筋篇の各経筋の説明の最後には,必ず「治は燔針劫刺にあり」,つまり「火針によって速刺速抜せよ」と言っています。火針は経筋治療に欠かせない治療といえますか?
 西田:確かに『霊枢』経筋篇にあるとおり,痛いところに火針によって速刺速抜する方法は一番効く方法です。しかし,他にも程度の差はあれ色々な方法がありますので,私はこの言葉を「最も効果があるのは火針である。しかし障害の程度と状況に応じて工夫して治療を試みてみなさい」と言っているのではないかと受け取っています。それを「痛をもって輸となす」を痛いところだけが治療点,「治は燔針劫刺にあり」を火針だけが治療手段だというふうに受け取ってはいないでしょうか。このフレーズは金科玉条のように受け取られていますが,もっと柔軟に理解してみてはいかがでしょう。事実,臨床の場では経筋病巣に対して火針に限らず,推拿・抜罐・刺針・刺絡などによって十分効果のある例もあります。『黄帝内経』が書かれた時代には木簡や竹簡が用いられています。当時としては肝腎な要点を簡明に記述する必要があったのではないでしょうか?
 編集部:それでは先生はこの火針をどのような位置づけで臨床に用いていますか?
 西田:『霊枢』では火針は寒が原因で起こる関節や筋肉疾患(寒痹症)が治療の対象になると述べています。火針によって陽気を助け,気血のめぐりをよくし病巣を改善するなど,確かに痹証の経筋病の治療には大事な治療法だと思います。ただ私は,火針は刺針や施灸,抜罐などほかの治療で効果がないときのラストチョイスと位置づけています。頑固な腰痛や関節痛などで他の治療で効果がなかったときに火針を用いています。
 中国の名老中医の賀普仁先生は,疾患の原因を気血の「不通」によって起こると考えておられ,この滞りを通す手段として,針灸の治療方法を,①微通法(皮内針・毫針)・②温通法(施灸・灸頭針・火針)・③強通法(刺絡)の3つに分類しています。私は火針はこの3つを兼ね備えた「最強通法」だと認識しています。つまり火針には,(1)刺針,(2)刺した局所が発赤し全身が温かくなる温通,(3)皮膚に穴をあけるときに出血することもあるため刺絡の3つの意味合いが含まれていると考えています。
 編集部:火針を臨床で用いた印象はいかがですか?
 西田:非常によく効きます。注意すべきは火傷の痕が1週間ほど残ります。また皮膚に穴をあけるので,治療した夜は風呂の湯につけないように注意したり,カットバンを貼るなどの配慮が必要です。ただ,私は最初から火針を用いることはありません。火針は患者さんの目の前で針を火で焼くため,火針の治療以前に患者さんとの信頼関係を築いておかなければならないと考えているからです。一般の針灸治療で効果のないときに最後に火針を用います。
 私自身の体験では,ゴルフの練習のしすぎでゴルフ肘になりました。そのとき刺針や,施灸・刺絡を行いましたが効果はありませんでした。ちょうど北京で講習会がありそこで火針で治療していただきました。わずか2回の治療で完治しました。以来ほぼ毎日クラブを握っていますが100~200球打ってもまったく痛くなりません。また火針するときの痛みは,治療を受ける前の予測では「さぞかし痛いであろう」と思っていましたが,火針される瞬間は「ヅンと何かで強く押される」感じでしたね。予測したより痛みは少なかったです。私の中国語の先生(東北出身)の話では,彼女のお母さんは自分で火針をして痛みを治療しているそうです。民間療法としても火針は感染の危険もないし,複雑な思考過程も要らないし,ただ痛みのあるところに治療すればよいので使用しやすいと思われます。

中国の経筋治療
 編集部:中国では経筋学の研究成果が書籍の形となってまとまっているようですね。
 西田:中国では経筋に関して体系立ててまとめられたものがあります。例えば,黄敬偉氏の『経筋療法』(中国中医薬出版社・1996)や薛立功氏の『経筋理論と臨床疼痛診療学』(中国中医薬出版社・2002)などです。黄敬偉氏は理筋手法(推拿)を得意としていますし,薛立功氏は経筋の走行と解剖学的な構造を詳細に検討し,治療法としては毫針法や灸法・火針・物理療法・通電療法・水針療法・薬物療法・抜罐療法(火罐)・理筋法など幅広く利用しています。さらに経筋病の治療と予防法として,気功(八段錦や小周天など)も紹介しています。中国では推拿(按摩)や気功も刺針・火針などと同等に経筋病巣を治す大事な手段と位置づけられていますが,わが国では推拿と針灸治療はそれぞれ分業されているので,臨床に用いるには制限があります。
 私はまだ経筋学を完成したものとは考えていません。東洋医学には経脈学・臓腑学などが重視されていますが,同じように経筋も1つの大事な領域です。今回の出版を通じて経筋の大切さを喚起したいと思っています。
 編集部:先生は北京で黄敬偉氏にお会いになったことがあるそうですね。
 西田:数年前にお会いし夕食をご一緒したことがあります。そのときは黄氏のご舎弟とご子息が一緒でした。黄敬偉氏は経筋の研究を祖父から引き継いで4代目になると言っておられました。ご子息を入れると5代にわたっています。
私が「経筋の大事さを知り,もっと多くのことを知りたいと求めている」と言いますと,大いに場の雰囲気が盛り上がりました。このとき,経筋はさらに研究するに値する大事な領域で「経筋学」というふうに「学」を付けるにふさわしいと思うがいかがでしょうかとたずねると,「そうだ,『学』(中国語ではシュエ)と呼ぶにふさわしい」と大きな声でお答えになりました。中国では5代にもわたって研究しているのに,私一代ではとても太刀打ちできないと思い知らされました。

経筋学の臨床的意義とは何か
 編集部:本書を読むと,経筋学の基礎のうえに,それが本当に機能しているのかを確かめるために,ご自身で徹底的に追試をされています。臨床的な裏づけを重視する先生の姿勢がよく現れているのが印象的でした。
 西田:経筋学の研究を通して体験をした印象深い経験を紹介しましょう。
 足太陽膀胱経の走行の膝窩部で圧痛硬結が最も出やすい部位は,委中の下斜め内側にある内合陽です。大抵の人は軽く押すだけで指圧痛を訴えます。この部位は膝窩筋の上にあると思われますが,ここに刺針するだけで,膝痛はもちろん腰痛や肩関節痛も治すことができます。このことは足太陽膀胱経がつながっていることを裏づける現象といえます。また膝関節を少し曲げ陰陵泉を取穴するとゴリゴリした箇所(王穴)を触れますが,ここに6寸針を用いて深めに刺針すると肩の症状がとれます。経脈の膀胱経は肩を通っていませんから,この事実も足太陽経筋が肩にめぐっていることを裏づける現象であり,足太陽経筋のラインを利用した治療といえます。さらに舌痛に背部の夾脊穴(心兪辺り)を用いると痛みをとることができます。これも足太陽経筋の走行上の「舌に行くライン」の存在を証明するものです。
 このような奇穴の大部分は,正穴で治せない点を補うために考案されてきたものだと思います。経筋を臨床で追試してみて感じたことは,奇穴の大部分は経筋の走行上にあるのではないかということです。むろん経験的な阿是穴の集約穴が奇穴であることもありますが。
 また,線維筋痛症・慢性疲労症候群・顎関節症などが精神的緊張から起こった経筋病であることも経筋治療を行っていて気がつきました。現代医学からみると難治性の疾患でも東洋医学からみるとこれらの疾患は経筋病です。筋肉の異常(経筋病巣)を治せば精神症状も治すことができます。線維筋痛症の患者さんの大部分はうつ状態・不眠や精神的不安となり,大抵の方が医療機関を転々としているうちに精神科などで抗うつ剤を処方され内服しています。このような状態の方に経筋療法を行うと精神症状も急速によくなっていきます。
 これらは経筋を学ぶことによって得られたほんの一部分です。
 編集部:本書の構成をみても,経筋学では背部の足太陽経筋の占める割合が非常に高いですね。この経筋1つで経筋学のほぼ半分の内容を含んでいるともいえそうです。
 西田:聡明な『黄帝内経』の著者は,経筋の説明をするのに足太陽経筋から始めています。『霊枢』経脈篇では,経脈の説明は肺経から始められていますが,それは中焦から得たエネルギー(気血)は肺経を通って全身に循環されているからです。一方『霊枢』経筋篇では,経筋の説明は足太陽経筋から始まっています。この違いには注目すべきです。日常最も障害を受けやすい部位は陽経の経筋で,特に足太陽経筋です。最も障害を受けやすい経筋ラインを最初に記している『霊枢』の著者の思慮深さがしのばれます。
 世の中にマッサージ器が氾濫しているのも,足太陽経筋が最も障害を受けやすく,頸部・背部・腰部・腓腹筋をマッサージするためです。経筋と経脈との違いはすでに述べたとおりですが,陽経の異常が精神症状を招くことも特筆すべきことです。しかし,このことは『霊枢』経筋篇には述べられていません。

最後に
 編集部:読者の皆さんに本書から何を汲み取ってほしいか,メッセージをお聞かせください。
 西田:わが国の医療においては経筋の認識が欠けています。毎日,経筋病を治療しておきながら,経筋についての認識が足りないように思います。ですから,まず経筋について認識を新たにしていただきたいと思っています。また,線維筋痛症・慢性疲労症候群・顎関節症など現代医学が治せない疾患が数多くあります。これらは難治性疾患と捉えられていますが,「経筋の目」でみれば比較的簡単に治療できます。これまで,これらの疾患で長年苦しんできた多くの患者さんを治療してきました。これからは観点の転換が必要です。
 また,経筋学は今後も進化・発展していく領域だと思います。本書には不完全・不足したところが多々あると思いますが,これらを訂正し,更により発展していくことを期待しています。
 編集部:本日はありがとうございました。
(2007年11月取材)



ページトップへ戻る