序にかえて
臨床における,五感のフル活用による細心の患者観察の重要性については,これまでのシリーズ(『針灸学』[基礎篇](初版2版)と[臨床篇]の序文で度々指摘してきました。
「経穴」とは,まさしくこのような先人による細心の患者観察の集積が基礎となり体系化されてきたものであろう。体の中の変化,それも器質的なものはもちろん,機能的変化をも投影していると思われる体表面の微妙な変化を的確に捉えた,その観察とひらめきの鋭さ,及びそれらを体系化した理論性には,ただ脱帽するものです。
鍼灸治療の基本ともいうべき経穴に関する類書は沢山ありますが,この度の出版はこうした先人の経験に加えて,さらに現代中国における臨床成果の枠をも盛り込んだものです。また,前述の先行出版と同じく,日本の臨床現場で役に立つように,中国と日本が共同編集したものであり,いわゆる翻訳本とは違う読みやすさを持っています。
ただ,生きている人間を対象とする「臨床」は,ダイナミックなものです。
人間の生命・生存・健康を考える時,大切なことは,現象との遊離をした理論のための理論は必要ないということです。本書を教条的に使うことなく,常に,現象からのフィードバックと基礎理論との関連から,何故この経穴を使うのか? 何故この経穴に意味があるのか? という疑問を持ちつづけ,自ら考えるという医療人としての姿勢が大事かと思います。
世界的規模で期待が広がっている鍼灸臨床の可能性を,さらに確実にするために,本書がお役に立てればこの上ない喜びです。大いに活用していただきたいと思うものです。
学校法人 後藤学園(東京・神奈川衛生学園専門学校)
学校長 後藤 修司