▼書籍のご案内-序文

『Essential 生薬ファインダー』 監修のことば

 
監修のことば
 
 薬用植物の自生地や栽培地を調査していると,しばしば感動する景色に出会ってカメラを構えるが,多くの場合その感動が写真には写っていない。このたび,本書の監修をお引き受けすることになったが,そのきっかけは見せていただいた写真の中に心休まる素晴らしい写真がいくつも見られたことにある。まさに,感動が写った写真である。
 その写真とは,インチンコウ・コウカ・ショウマ・チョウトウコウ・ハマボウフウなど数々あるが,すべてやや遠目に群落や広大な栽培地などが撮影されたもので,各項目で最初に大きく掲載されているものである。つい頁をめくるのをためらうほどに見入ってしまう。心に覚えるのは感動というよりも,一種の安らぎというものであろうか。癒し効果抜群である。一方で,周りに載せられた小さめの写真は,植物の各器官を接写したものが多く,それだけを見せられると何の植物かさえ判断できないが,時に芸術的で別の感動を与えてくれる。癒しどころか,逆に心にざわめきさえも感じ,新しい発見があり,また自然の妙に気づかされる写真でもある。
 ところで,ヨーロッパにハーブ療法が興った頃,象形薬能論というのが提唱されて,あらゆるハーブはその薬効を象徴する形をどこかに有しているとされた。私の祖母が腎臓病には黒豆が良いと教えてくれたのはその影響であったのかも知れない。また日本でも実際,高山植物のコマクサの花が肺臓に似ているとして肺結核の特効薬と考えられ,乱獲された時期があったという。迷信とは云え,クローズアップされた器官のなかに薬効を暗示する何かの標識を探してみることは,西洋医学発展の歴史を振り返ることにも通じ,本書の別の楽しみ方であると思う。
 掲載写真の多くは,主としてカレンダー用に一時期に撮影されたものであるので,季節的な変化に欠けていることは否めない。被写体が薬用植物でありながら,薬用部位やその採集時期の写真が少ない所以でもある。また,日本に自生しない植物や畑地栽培されていない植物については,植物園での展示品が被写体とされた。監修にあたって,それらを補うために手持ちの写真をいくつか提供させていただいたが,本書発行の趣旨から外れていないことを願う。
 本書に掲載された植物に由来する漢方生薬の基本的な記載は,『第17改正日本薬局方』(第一追補を含む)もしくは『日本薬局方外生薬規格2015』の内容に従い,利用の便をはかるために最新のAPG分類による科名や原植物の異名などを付記した。また,薬用植物という観点から,各項目にはその植物の生薬としての現代中医学的な薬効や含有化学成分などが掲載され,また漢方研究者の必読書とされる『薬徴』(吉益東洞,1771年)や『古方薬議』(浅田宗伯,1863年)からの引用文が付記されたものもあるが,これらの情報は専門用語が多く,一般には馴染みにくいかもしれない。それよりも,本書は見て癒しを得る写真集として,少しでも生薬の本質に迫るヒントを得るための座右の書にしていただければと願う次第である。


監修者 御影 雅幸