はじめに
1989年に上梓した『中医臨床のための舌診と脈診』は,多くの医師や医療に携わる方々の支持を得て,臨床の場で利用されてきた。
このたび東洋学術出版社から改訂版を出す機会をいただき,全面的に各項に検討を加えたが,その骨格・意図については,初版のものを受け継いでいる。
舌診については初版の参考写真の弁証を検討し直し,記述内容の再検討を行った。舌診は,現在一般化したデジタルカメラやタブレット等で簡便に管理できるようになってきたため,さらなる症例の蓄積が行われ解釈の発展が期待される。しかしながら舌写真の撮影・保存・再生において未だ一定の撮影方法や再生条件が確立されていないため,条件を揃えて比較することが困難である。今後は機器や撮影方法の発展とともに新たな診断技術とするための研究がなされることを期待している。
脈診については数千年前からさまざまな記述がなされているが,同じと思われる脈においても年代や医家により説明が異なることも多い。脈診は本来実技によって修得していく手技であるが,理解を助けるため初版では脈波図を用い現代医学的解釈により簡便に説明できないかを試みた。しかしながら,やはり本来の中医学的観点を主眼とするほうが望ましいと考えこの点の変更を行っている。
中医学の基礎理論に関しては本研究会の『[新装版]中医学入門』を読まれ,臨床の場において中医の四診合参をよりいっそう確かなものにするための参考にしていただければ幸甚である。
なお,われわれの知識レベルに限界があり,掲載した症例の数も十分とはいえない。誤りや不足については,読者諸兄の忌憚のないご意見をいただければ今後の参考にさせていただきたい。
2016年10月 神戸中医学研究会