本書を読むにあたって
1.本書は,五行理論の特に相生・相克・相乗・相侮の関係を,臨床において応用した筆者の経験をまとめたものです。
2.五行説は,古代中国の基本哲学であり,宇宙の森羅万象を木・火・土・金・水の5種類の行に分類し,それらの相互関係の法則性を見出して体系化されたものです。現代科学の目からみると五行は非科学であり,漢方臨床家においても五行を忌避する方は少なくありません。しかし五行の相関理論は中国伝統医学の発展過程で中核的理論として取り込まれており,五臓の生理病理を把握するうえで五行の理解は欠かせません。
3.五行の相関には,正常な状態の相生・相克関係と,病的な状態の相乗・相侮関係があります。実際の臨床においても,肝(木)が盛んとなって脾(土)を克する(討ち滅ぼす)相乗関係の木乗土,心が盛んになり過ぎて,本来心(火)を克する腎(水)を受け付けない相侮関係の火侮水はしばしば見られます。
本書では一般に空理空論と思われがちな五行理論にスポットを当て,五行に熟知すれば臨床に役立つことを,筆者の臨床経験にもとづいて紹介しています。特に筆者は慢性疾患に有効であると述べています。
4.もちろん筆者自身が強調しているとおり,五行理論のすべてを人体に当てはめることはできません。しかし人の病態に五行理論を当てはめて考えることは難治病を治療する糸口となる可能性があります。
5.本書の中核を為すのは,第3・4章の筆者の症例分析です。収録した26症例すべてに五行図を使って各臓の相関を図示しており,ひとめで各症例における五臓の相関関係を理解できるようになっています。図中には便宜的に肝①・心②・脾③・肺④・腎⑤と各臓ごとに番号をふってありますが,番号自体に意味はありません。
6.症例のなかには煎じ薬を使ったものもあります。それらについては各症例の最後に[エキス剤で代用するなら]という項を設けて,代用処方を呈示してありますので参考にしてください。
7.巻末の附表は,神戸中医学研究会編著『中医学入門[第2版]』(医歯薬出版株式会社)などを元に一部改変して筆者が作成したものです。五臓各臓の弁証論治を一覧にしたもので,病態がどの臓に属するのかを決定する際に参考になるので,附表を見ながら本書を読み進めていただくと理解しやすいでしょう。なお表に記載されている症状はあくまでも主症状であり絶対的なものではありません。