推薦の序
『臨床に役立つ五行理論 ―慢性病の漢方治療―』を推薦致します。
地球上に生活するすべての生体は,自然の恩恵を受けている。
自然界の五行,木火土金水を人体の五行に当てはめてみると,まさに四季・天候・暑さ・寒さ・湿度などの巡りによって,その時期の疾病が発生しやすいことがよくわかる。
このたび,土方康世先生が五行五臓の相生・相克によって,様々な慢性疾患の診断と治療を大変わかりやすく解説された。
二臓の母子関係の相生相克だけでなく,三臓が影響し合っている様子が図示されているので,どの順番で治療すればよいかがよくわかる。1つの疾病が多くの臓器と関連していても,その原因と目される臓から現症を呈する臓へと移行することが判明すれば,おのずと処方も決まってくる。
症例を通した解説は先生ならではのもので,その解釈は斬新である。先生は中医学の大家ではあるが,漢方を志すものであれば,中医学,日本漢方に関係なく,この理論を日常の診療に役立てることが必要だと推薦申しあげる次第である。
推薦の序
中医学は東洋医学を学習しやすいように,古典を重視しながら歴代の医家の学説を取り入れ,系統的に理論づけられて完成した医学です。中国では中医薬大学で使用される「統一教材」としてまとめられています。基礎の解説書として統一することで,難解に感じられる東洋医学を整理しやすく,また初学者にとっても把握しやすいという利点があります。日本においても中医学に対する認識が高まり,中医学を学ぶ先生方も増えており,たいへん嬉しく思っています。
『傷寒論』などの古典においても,「病」「証」「症」それぞれを説明する条文がありますが,日本では条文どおりに方剤を投与することが多く,一般に「方証相対」と言われています。これが有効なこともありますが,複雑な臨床症例に対しては無効なこともあります。その理由は,原文の条文だけでは,その「病」「証」「症」の基礎理論・病因病機(発病の原因・発病の機序=病理)に対する説明が不足しているためだと考えられます。
そこで,中医学の弁証論治*を学習することによって,思考法や視野が広がり治療法を見つけやすくなります。弁証論治の具体的な流れは,「理(弁証)→法(論治=治療原則)→方(方剤)→薬(生薬)」ともいわれ,正確に弁証論治を行うためには,中医基礎理論・中医臨床・方剤学・生薬学を併行して学習する必要があります。
*弁証論治:中医学の診断方法(望・聞・問・切の四診)を運用して患者の複雑な症状を分析し,それを総括して,いかなる性質の証(証候)であるかを判断するのが【弁証】で, さらにその証に対する治療原則にもとづいて,治療方法を確定するのが【論治】です。
確かに中医学で用いられている中医用語と,弁証論治の考え方には理解しにくい部分があります。しかし,臨床医である土方康世先生の著書はまさに,具体的な弁証方法を丁寧にまとめた臨床に役立つ参考書で,特に中医学の根源でもある『黄帝内経』の五行学説・臓腑学説を軸に,千変万化の臨床症例がわかりやすく整理されています。本書は中医学の弁証論治の考え方を学習するうえで役に立つはずです。
私は5年前に静岡伊豆漢方勉強会で,土方康世先生に出会いました。静岡の先生方からも土方先生は中医学に精通した先生だと教えられましたが,なにより土方先生の中医学に対する熱意にたいへん感動し,刺激を受けました。土方先生は学んだ中医学の理論を,すぐに臨床で実践する頭脳明晰な学者であり,心より敬服しております。
本書の特徴は主に以下の4つです。
1.難解な中医学の用語を簡明に説明しながら,図を多く取り入れているので,中医学の初学者でも活用しやすい。
2.臓腑学説の理論だけでなく,五臓の相互関係を重視する五行学説を利用して,「相生」「相克」「相乗」「相侮」の関係を具体的な症例を通して詳しく説明しています。臨床においてうまく弁証できない難治症例に遭遇しても,治療方法が見つけやすく,有効処方を選択しやすくなります。
3.各症例の考察では,診断のポイントを明らかにしながら簡明にまとめられています。
4.読者自身の症例を分析したり,整理したりするときに,本書の弁証分類法を参考にすることができます。
今から36年前,私は中国の北京から日本に来ましたが,来日当初,母校である北京中医薬大学の先生方から「日本に行けばこれまで学んできた中医学を学べなくなるが,それでもいいのか」と言われ,そのことをいつも気に掛けていました。しかし,日本に来て36年の歳月が過ぎ,その間,ずっと中医学の仕事に囲まれ,日本の医療関係の先生方とともに中医学を勉強できることに,心から感謝しています。
中医学を学んできた一人として,日本の医療関係者に中医学の素晴らしさをわかりやすく伝えることに大きく貢献されている土方康世先生に感謝申しあげます。中医学が日本の医療現場でさらに普及し,応用され,人びとの健康・養生に貢献できることを心からお祈り致します。