▼書籍のご案内-序文

『[詳解]針灸要穴辞典』日本語版序

日本語版序


 針灸治療を行うには,理・法・方・穴・術が一体となって完備されていなければならない。なかでも「穴」は理・法・方・術のすべてを左右するので,最も重要であると思われる。腧穴の帰経・位置・解剖学的構造を把握し,その生理的特性・治療作用を理解しなければ,針灸理論の柔軟な応用,治療における法の活用,合理的な選穴による処方の組み立て,針灸器具の適切な選択による施術などを行うことはできない。したがって,腧穴理論に習熟することは,針灸による診断治療にとって不可欠である。
 要穴は,十四経穴の中軸でありすべての腧穴の真髄であり,その理論は深淵で主治作用が独特なので,古来より研究する者が多く,臨床における応用範囲も極めて広い。
 著者である趙吉平は,1983年に大学を卒業すると,北京中医薬大学東直門医院針灸科に勤務した。そこでの30年間に及ぶ学習・業務・成長の過程で,幸運にも楊甲三,姜揖君,李鳳萍,李学武,張国瑞,耿恩広,何樹槐ら,科内の恩師たちの薫陶を受け,また北京内外の賀普仁,張世傑,周徳安,盛若燦,高維濱らに教えを受け,さらには李鼎,邱茂良,李世珍,于書庄ら大家の針灸専門書や,王楽亭,承淡安ら大家による関連する学術経験書などを読みあさって深く啓発されたことで,各針灸大家がいかに要穴を重視しているかを痛感することができた。なかでも,楊甲三,姜揖君老先生には,数年間診察に立ち会わせていただいたが,楊先生の腧穴に関する造詣の深さは国中に名を馳せ,姜先生の八脈交会穴の活用法は大いに称賛されており,趙吉平自身の要穴使用に強い影響を与えている。
 もう一人の著者である王燕平博士は,耿恩広教授の教えを受け,卒業後は北京中医薬大学針灸推拿学院針灸臨床系で教鞭を執るとともに,要穴の研究と応用に没頭した。


 長年にわたる鋭意学習とその臨床における治験とを通し,私たちはしだいに知識を蓄積していった。趙吉平がかつて執筆した「要穴解説」が,1991~1993年に日本の雑誌『中医臨床』に連載され好評を博したが,その後内容を大幅に補足・整理して,『針灸特定穴的理論与臨床』として編集された。これが1998年科学技術文献出版社から第1版として出版されたのだが,購入するのは針灸関係者が多く,大学の針灸科の教師,研究生,臨床医がほとんどであった。その後改訂を経て2005年に再版(第2版)され,広範な読者からの評価に励まされ,2006年『針灸特定穴詳解』として「国家科学技術学術著作出版基金」プロジェクトに申請したところ,幸運にも援助を受けることができた。このプロジェクトは,1997年以降毎年1回全国規模で選考が行われ,自然科学や技術科学分野の優秀かつ重要な学術著作を出版するための援助に用いられる。その年援助を獲得した64冊の著作のうち,医学関係の書籍は16冊だったが,中薬の専門書以外では,中医関係の書籍は『針灸特定穴詳解』のみであった。いかに高い評価を受けたかがわかる。私たちは過分な評価に戸惑ったものの,寸暇を惜しんで内容と形式とをさらに補充・完成させたうえで,2009年に出版する運びとなった。
 30余万字に及ぶ本書は,10種類の要穴を9章にわたって叙述しているが,各章はさらに総論と各論の2つのパートに分かれている。総論は,おもに概説・理論的根拠・臨床応用・現代研究などからなっているが,そのなかでも各種要穴の理論に関する説明と,臨床応用に関する概説が本書のポイントである。各論では,各要穴を別名・出典・穴名解説・分類・位置・解剖・効能・主治症・配穴・手技・注意事項・古典抜粋・現代研究などの13項目に分けて詳細に説明している。そのなかでも,腧穴の効能・主治症・配穴が本書のポイントであり,その目的は,各要穴の主治作用上の特徴を明らかにすることにある。効能については,その腧穴と臓腑経絡との関係や穴性の特徴から分析を進め,主治症については系統的に帰納しており,理論性を重視するとともに臨床に則したものになっている。また他に,各腧穴の刺針法・施灸法についても紹介している。
 編集にあたっては,内容の充実,詳細かつ簡潔な説明,優先度の明確化,わかりやすい表現,学習の利便性を追求し,理論と実践の融合を重視したが,腧穴理論は深淵かつ豊富であり,筆者の力では至らぬ点も多いと思われるので,読者諸氏のご批判を待つものである。
 また本書では,出版および公開された数多くの書籍・文章を参考にさせていただいており,針灸に携わる各賢人たちにここに謹んで心よりの謝意を表したい。

趙吉平  王燕平

2012年12月 北京中医薬大学にて