推薦の序
臨床の幅を広げたい臨床家,臨床力を向上させたい臨床家にとって待望の書,必見の書がここに出版されることとなった。治療目的に応じて要穴をいかに臨機応変に使いこなすかが,臨床効果をあげるうえでは大きな鍵の1つとなる。つまり要穴について深く理解し応用する力を身につけることが,臨床力の向上に直接つながるのである。
本書の大きな特徴は,五兪穴・五要穴・八会穴・下合穴・八脈交会穴・交会穴について,それぞれの理論的基礎と臨床応用が紹介され,さらに要穴の各論として一つひとつの要穴について効能・主治症・配穴応用・手技の操作法・注意事項・古典抜粋・現代研究の内容が詳細に紹介されていることにある。文字通り,要穴についてここまで詳しく解説している専門書は,日本では皆無であろう。
弁証選穴による効能,循経選穴による効能,局所選穴による効能をそれぞれ提示することにより,各要穴の主治症との関連性をみて取ることができるのも本書の大きな特徴であり,これらは日々の臨床に大いに役立つことであろう。また日本ではあまり臨床で用いられていない八脈交会穴を使った臨床応用,とりわけ交会穴を使った臨床応用を身につけることができれば,誰でもいっそう臨床の幅を広げられることは非常に魅力的である。ここまで詳細に交会穴の臨床応用について紹介している類似書はおそらく中国でもないであろう。
本書は針灸を学ぶ学生たちにとっても待望の書ということができる。学校ではカリキュラム上,どうしても時間的な制約があるため,要穴についてはガイダンス的な紹介となっているケースが多くみられる。自分たちの学んでいる「要穴表」がたんなる暗記のためのものではなく,臨床上どのように役立つのかを知りたがっている学生を私は全国で多く見てきたが,これは中国の学生たちにとっても同様である。
本書の著者である趙吉平先生は,北京中医薬大学附属病院という臨床現場の第一線で責任者の一人として活躍されているだけでなく,これまで臨床教育の分野でも長年にわたって非常に情熱を捧げてこられた先生である。学生たちのこういった臨床的な問題意識に応えるためにも本書の必要性を最も痛感されていたのは,他でもない趙吉平先生自身であろう。
本書は中国の臨床家・学生のニーズに応えるために著されたものであるが,日本の臨床家・学生のニーズにも十分に応えてくれることであろう。それは24年前に後藤学園に教員交流という形で1年間留学をされ,その後も日本と中国の針灸学術交流に携わることによって,日本の針灸教育事情や臨床事情にも精通されている趙吉平先生だからこそ成し得たことだと思われる。共通の恩師である故・楊甲三教授の教えを継承し,また多くの老中医を師とあおぎ,さらにご自身の臨床経験と臨床教育経験を体系的にまとめあげた趙吉平先生を心より敬服いたします。
中国の先人たちが中国伝統医学の継承をベースとして発展させてきた針灸弁証論治システムの充実化をはかるうえでは,今日にいたるまで臨床サイドでの結果が非常に重視されてきた。その臨床結果をふまえて著された本書が,中国針灸学の体系的な飛躍の礎とならんことを心より期待する。また臨床の幅を広げ臨床力を向上させたい諸先生方,要穴学習のレベルアップをはかりたい多くの学生たちが,本書を座右の書として活用されんことを心より期待する。最後に,本書を推薦できる機会を与えていただいた東洋学術出版社の井ノ上匠社長に,心より感謝を申し上げる。
学校法人後藤学園中医学研究所所長
兵頭 明