はじめに
私が中国で高校を卒業した1973年は,ちょうど文化大革命が実施されている最中でした。当時,大学の学生募集はほとんど中止されており,そのため私はすぐに大学へ進学せず,1976年にしばらく地元の中医病院に勤めることとなり,老中医の弟子になりました。私と中医学とのかかわりはそのときから始まりました。
1978年3月,南京中医学院(現在の南京中医薬大学)に入学し,1982年12月に卒業してからは,揚州市立中医医院内科で臨床に従事してきました。その間,学校で学んだ中医内科学の知識は臨床実践のなかで展開されていき,重要なポイントが頭の中で絵を描くように徐々にイメージ化されていきました。その内容を整理してまとめ上げようとしましたが,当時は臨床の仕事が忙しく,なかなか完成に至りませんでした。
1996年に日本に来てからは,日本医科大学で呼吸器内科疾患と肺がんの研究をしながら,いくつかの学校で中医学講師として中医内科学や中医学全般の講義をしてきました。その講義原稿を作るときに気がついたことがあります。それは,中国の中医内科学の教科書は中国教育部と衛生部の指導によって現在までに7版が出版され,各版で使用される病名は時代の変化に合わせながら部分的に修正されたり,付け加えられたりするなかで,その内容は次第に膨大なものになっているということでした。しかも,中国語の表記には難解な専門用語や古文などが使われており,微妙な語感を自分で悟るしかない部分もあり,外国の学習者が内容を正確に理解するうえで障害となっていました。そこで,日本の読者にとって理解し記憶しやすいように,一目瞭然でわかるハンドブックのようなものを作りたいと思うようになりました。
たまたま手にした内山恵子氏の『中医診断学ノート』(東洋学術出版社)を読み,中医内科学の内容もそのようにわかりやすくまとめることができれば学習者の参考になると考え,大学時代の中医内科学ノート,長年の臨床で得た心得や講義のレジメを整理し,関連参考書などを参照しながら,その内容を一見して理解しやすいように図や表を中心にして解説してみました。
著者の中医学と日本語のレベルから,必ずしも理解と表記に至らない点が多々あると思いますが,中医学学習者の参考に供することができれば幸甚です。
本書の出版にあたり,来日して以来ご指導を賜り,一方ならぬ御世話をいただいた留学先の日本医科大学内科学呼吸器・感染・腫瘍部門講座名誉教授の工藤翔二先生,教授の弦間昭彦先生,元助教授(現がん・感染症センター都立駒込病院呼吸器内科部長)の渋谷昌彦先生をはじめ,教室の先生の方々に心より感謝を申し上げます。
また長い間,中医学の講義などにおいてアドバイスをいただき,たいへんお世話をいただいた長野県看護大学人間基礎科学講座(基礎医学・疾病学)教授の喬炎先生,本書の執筆に際して,いろいろと貴重なご意見をいただいた高橋楊子先生,日本語の表記にご指導いただき,編集にお骨折りいただきました東洋学術出版社の井ノ上匠社長にこの場をお借りして厚くお礼申し上げます。
2012年 春
鄒 大同