▼書籍のご案内-序文

[チャート付]実践針灸の入門ガイド

日本語版序


 私は1980年代中頃より,北京中医薬大学において針灸の教鞭を執り,教育者として学生に対し針灸の理論および技術手順の講義を行ってきた。さらに,学生が教室における講義から現場での臨床へと,すみやかに移行できるようサポートし,患者の診察・治療という実際の業務において,彼らが中医学の針灸理論を的確かつ柔軟に運用できるよう指導してきた。
 そのなかで,針灸臨床における私自身の実践のなかから比較的有効な病例を取り上げて,教室での討論に用いることを試みてきた。各病例の弁証的思考の分析を通じ,学生が中医学における思考方法を理解・修得するためである。彼らの中医学の弁証論治および針灸治療プラン設定のレベルアップをはかることができればと願ってきた。
 この試みの結果,学生らの成長はめざましく,この指導方法は彼らからも好評であった。野口創氏(奈良・登美ヶ丘治療院 院長)は,この指導を受けた学生の1人である。さらに多くの学生がこの指導方法の恩恵を受けることができるよう,私と朱文宏氏らが共同で本書を執筆した。
 2004年から2005年の期間,私と私の同学の仲間によって,北京市など14都市99名の針灸科主治医師以上のスタッフに対し,「針灸臨床人材市場の需要に関するアンケート」を実施した。このアンケートのなかで,「針灸医師はどのような職業的資質を備えているべきか」という質問を加えたが,調査の結果,7つの職業的資質のうち「針灸の技術的能力を備えているべきである」が最も多く,「中医学的思考を備えているべきである」が2番目であることがわかった。ここからも,針灸医師にとって「針灸の技術的能力」と「中医学的思考」がたいへん重要なものであることがわかる。
 このたび,野口創氏が翻訳を担当して,『実用針灸医案表解』の日本語版が出版されることになった。私は,本書が日本の鍼灸師をめざす方々の学習をサポートするものとなることを心より願っている。と同時に,日本の多くの患者さんが彼らの針灸治療による恩恵を受けることができるよう願っている。
 最後に,読者の方々が本書を利用するにあたり,一般的な読み物としてご覧いただくほか,自己研修のための学習書として利用されることをお薦めしたい。例えば,病例に対して,中医学針灸理論の知識を応用し,まず自身で病例分析を行ったうえで,われわれが提供した病例分析の内容を参考にするという方法や,いくつかの個別の病例を先に読んだ後,再度,自身で病例分析を実施するという方法である。すでに中医学の弁証法と針灸の診察・治療について基本的な知識を備えた学生であれば,10から20の病例の分析トレーニングを行うことで,比較的正確な分析を行うことができるようになるだろう。

朱 江
  2010年1月26日 北京にて