▼書籍のご案内-序文

『中医学ってなんだろう ①人間のしくみ』

まえがき
 
 現代の日本人が中医を学ぶとき,大きな問題が2つあります。
 それは……
 
  ①中医学は,大昔の人が作ったものである
          ―→ だから「時代の壁」を越えなくてはならない。
  ②中医学は,中国の人が作ったものである
          ―→ だから「文化の壁」を越えなくてはならない。
 
という問題です。
 この2つの壁を意識せずに進むと,ものの見事に「ずっとまじめに勉強しているのに,いつまでたっても分からない」という状態に突入します。
実際,そういう人は少なくありません。
 
 この「壁」の問題については,第1巻・第1章の冒頭でも取りあげています。
そして第1章にとどまらず,この叢書を読んでくださる皆さんが,なるべくスムーズに2つの壁を越えられるよう,全体に渡ってハシゴをかけつづけました。
それが私の仕事であり,本書の価値だと思うからです。
 
 入門書というものは,本来,その領域を極めた大先生が書くものです。
 私はもちろん,大先生ではありません。でも私は「中医学という,広く深い世界のガイド」としては,それなりに有能なガイドの一人であると思っています。
 ですから「少しでも登りやすいハシゴ」を「できるだけたくさん掛ける」ために,能力の限り,努力したつもりです。
それでもまだ,わかりにくい所はたくさんあるでしょう。将来中医を学び始める皆さんの後輩たちのためにも,ご意見・ご批判をいただければ幸いです。
 
 そして,いま日本人が中医を学ぶ時,もう1つ別の壁もあります。
 それは「中医を学ぶ人の多くが,医師や薬剤師である」,つまり「すでに西洋医学的な認識が固まっている」という問題です。これも一種の「文化の壁」ですね。
 
 この「文化の壁」を越えるために,お伝えしたいことはただ1つ,「自分のモノサシを他人に当てないでほしい」ということだけです。
 中医学は異文化です。そして異文化と付きあうときに,これ以上,大切なことはないと思います。
 たとえば外国人と付きあうときも,または異性と付きあうときも,この一点が守られていなければ,なかなか上手くいかないのではないでしょうか。
 
 それは,中医学との付き合いも同じです。
 「自分の常識とちがう。なんだこりゃ。中医ってヘンだぞ」ではなく,「相手の語法や感覚を,ありのまま理解しよう」という気持ちで,付きあってみてください。
 

2007年7月20日 
小金井 信宏