まえがき
国家により執筆・編集が組織され,審査・決定された高等中医学教育機関の教材は,初版発行後,現在までにすでに二十数年を経ている。その間に,すでに何度か改訂を経て再版され,系統的な中医理論の整理,教育秩序の安定化,および中医教育の質の向上におおいに貢献してきた。しかし中医薬学の絶え間ない発展に伴って,すでにこれまでの教材では当面の教育・臨床・科学研究の要求に対して,十分に適応できなくなっていた。
そこで教材の質を高め,高等中医薬教育事業の発展を促進するために,衛生部は1982年10月に南京において全国高等中医学教育機関の中医薬教材の編集・審査会議を開いた。
そこではじめて全国高等中医薬教材の編集・審査委員会が設立され,その下に32学科の教材編集・審査部会が設けられた。そして新たに修正された中医・中薬・針灸の各専攻科のカリキュラムにもとづいて,教科ごとに教育指導要綱の改訂が行われた。各教科の教材編集・審査部会は,新教育指導要綱の要求に沿って,新教材の編纂に真摯に取り組んだ。各教材の編纂にあたっては,1982年4月に衛生部が衡陽で開催した「全国中医医院および高等中医教育工作会議」の精神を貫き,旧版教材の長所を取り入れ,各地の高等中医学教育機関の教員らの意見を総合した。この教材シリーズでは,努めて中医理論の科学性・系統性・完全性を保持し,理論と実際とが結びつくことを原則とし,継承から発展へとつながるよう配慮した。また,教材の内容の深さ,広さの面においては,すべてにわたって本課程の性質・役割を出発点として,実際の教育上の必要性に合致し,各学科の発展にふさわしい科学水準を兼ね備えることを目指した。本教科の基礎理論に関しては,基本的知識と技能について比較的全般にわたって詳述し,また同時に各教科の教材間の不必要な内容重複や脱落をできる限りなくした。編集・執筆担当者らの努力と全国の中医学教育機関の支援によって,新教材を次々と編纂し終えることができた。
本教材シリーズは,医古文・中国医学史・中医基礎理論・中医診断学・中薬学・方剤学・内経講義・傷寒論講義・金匱要略講義・温病学・中医各家学説・中医内科学・中医外科学・中医小児科学・中医婦人科学・中医眼科学・中医耳鼻咽喉科学・中医傷科学・針灸学・経絡学・腧穴学・刺灸学・針灸治療学・針灸医籍選・各家針灸学説・推拿学・薬用植物学・中薬鑑定学・中薬炮製学・中薬薬剤学・中薬化学・中薬薬理学などの32科目からなる予定である。このうち,いくつかの教材ははじめて編纂されるものだが,多数は旧教材,特に第二版教材を基礎として補足・修正を行い,編纂している。したがってこの新教材は,いくつかの旧版教材の編纂者たちの苦労の成果を内包しているといえる。
教材は社会主義の専門的人材を育成し,知識を伝えるうえで重要な媒体となるため,教材の質の良否は直接人材の育成に影響を与える。それゆえ,教材の質を高め,絶えず磨きをかけながら改正していくことが必要である。本教材シリーズにはまだいくつか不足している点があるのは避けられない。各地の中医薬教育に携わる教員および読者の方々が,本教材を使用するなかで検証を行い,さらなる改訂に向けて貴重な意見を寄せてくださることを希望する。その結果,本教材シリーズがより一層科学性を増し,より教育効果の高い高等中医薬教育教科書として,わが国社会主義の四つの近代化建設と中医事業の発展の需要に応えられることを期待する。
全国高等中医薬教材編集審査委員会
1983年12月
本書の編纂について(原著)
本書は,衛生部の高等中医薬教材編集審査委員会が組織し,編纂・審査・決定された,全国高等医薬学教育機関の中医・針灸専攻科における使用教材である。
本書は,主に中医内科学の基礎理論,よくみられる内科病証の基礎知識および弁証論治の規則について解説したもので,全体を総論と各論の二部に分けて論じている。総論では,気血・風寒燥火・湿痰飲・六経・衛気営血および各臓腑の病因病機の基本的概念と,内科の治療原則およびよく用いられる治法について,それぞれ解説している。各論では,よくみられる内科病証49種*についてそれぞれ章を設け,さらにその後ろに関連する疾患の解説を付して紹介しており,各章は概論・病因病機・弁証論治・まとめ・文献摘録の項目に分けて論述している。いくつかの章には,あわせて類証鑑別の項目を加えている。また,本書の巻末には,方剤一覧を付した。
本書の執筆・編集の担当者は,以下の通りである。
総論・淋証・癃閉…………………………………………上海中医学院 蔡 淦
感冒・咳嗽・肺痿・肺癰・哮証・喘証・肺労・肺脹・痰飲…南京中医学院 周仲瑛
心悸・胸痹・不寐・厥証・鬱証・癲狂・癇証………………北京中医学院 董建華
胃痛・噎膈・嘔吐・呃逆・泄瀉・痢疾・霍乱・腹痛・便秘…湖北中医学院 熊魁悟
脇痛・黄疸・積聚・鼓腸・頭痛・眩暈・中風・痙証………河南中医学院 李振華
水腫・腰痛・消渇・遺精・耳鳴耳聾・痿証………………福建中医学院 趙 棻
自汗盗汗・血証・痹証・虫証*・癭病・瘧疾・内傷発熱・虚労
………成都中医学院 李明富
最終的に,上海中医学院の張伯臾が全章の内容審査・校閲を行った。
編集・審査の過程において,上海中医学院の胡建華・周珮青,北京中医学院の陳光新らがわれわれの要請に応じて原稿統一などの作業に加わってくださった。ここに謹んで感謝の意を表する。
私たちの能力および時間的な制約のために,本書に欠点や誤りがあることは避けられない。各大学・学院で本書が使用される際に得られた経験を,絶えず総括・収集・報告して,貴重なご意見としてお寄せいただきたい。それによってさらなる修正を加え,内容をより向上させていくことができるであろう。
編 者
1984年9月
* 日本語版では,臨床で応用する機会がほとんどないと思われる虫証を割愛した。したがって,全48章からなる。