監訳者まえがき
1983年に出版された劉渡舟教授の前著『中国傷寒論解説』は幸いにも版を重ねており,訳者の1人として非常に嬉しく思っています。このたび前著の続篇ともいえる本書の訳出にも参加し,前著に勝るとも劣らない内容を熟読玩味し,堪能しながら監訳しました。
本書の内容については,劉先生の「まえがき」と共訳着生島忍氏の「訳者あとがき」に簡要に記されていますので重複は避けますが,弁証論治の基本的な指導書であり,臨床に直結した,生きている古典である『傷寒論』の有力な参考書が,もう1冊誕生したわけです。本書記載の多数の臨床例に対する適確な弁証と卓抜な治療は,理論的な解説に裏付けされて,『傷寒論』の真価をゆるぎないものとしています。本書は前著と併読されるのが望ましいのですが,本書のみ読まれても充分に『傷寒論』の理解に役立ち,臨床実践の参考になると思います。「『傷寒論』の気化説」はユニークな論説であり,難解なテーマですが,岳父である劉先生の意を帯して生島氏が明解に訳出しています。本書の特色の1つであり,御参考になると思います。
前著では文中引用の『傷寒論』条文や関連事項に,私が勝手に条文番号を付けて読者の便宜を計りました。条文番号は成都中医学院主編『傷寒論釈義』に依ったもので,前著巻末の条文索引では「成都」とされています。ところが本書で劉教授が記されている条文番号は,南京中医学院編著『傷寒論訳釈』と同じであり,前著巻末の条文索引では「南京・上海」とされているものです。本書を読む際にはこの点に留意して頂きたいと思います。因みに私は奥田謙蔵著『傷寒論講義』に2種の条文番号を併記して使用しています。
本書の劉先生の「まえがき」に,「五臓・五行の理や,経絡府兪,陰陽会通の妙が理解できなくて,どうして死生を判断できるであろうか。」という厳しい言葉が記されています。私事ですが,少林一指禅功を学んで経絡の流注が体感できるようになったおかげで,劉先生の言葉も頭ではなく肌で理解できるような気がします。東方医学は洪大で深遠な宝庫です。本書が読者各位の東方医学学習の一助となることを祈念して擱筆します。
勝田 正泰
1992年4月21日