前言
古人曰く,「医における用薬は用兵の如く,病を治すは敵をおさめるが如し」。また曰く,「方は病状に応じざれば方にあらず,剤は疾病を取り除けざれば剤にあらざるなり」。針灸もまたかくの如し。針に長ずるものは,ある病症とある腧穴を対応させ,一針一穴で穴数を少なくしてその効能を集中させ,さらに手法が巧みであることから,「一針霊」の美称がある。そのため,臨床において多くの患者から心からの歓迎を受けるのである。
私は祖国医学のなかのこの一塊の宝物をさらに深く探り出し,整理するために,先人と現代の治療家の経験を汲み取ることに全力を尽くしてきた。そして自身の臨床経験を結びつけ,ようやく特別な効能を具える腧穴による単針療法としてまとめることができた。針灸を愛好する多くの方々に本書を献呈し,さらに広い範囲で活用されることを切望している。そして祖国の針灸医学の継承・向上・発展に寄与することを願っている。
とはいえ,レベルには限界があり,本書のなかにも遺漏や誤りがあるかもしれない。読者の方々や専門家のご斧正を乞いたい。
趙振景
はじめの言葉
毎日の多忙な診療のなかで,なんとか即効性のある,できれば一針で治せるツボはないものかと,わが国や中国の針灸書を探していた。「一針霊」とか「百病一穴霊」「針灸秘穴・治百病」など,多くの針灸書が出版されている。一般に針灸書は「○○病には△△穴が効く」などと説明し,そのツボがどのような理由で効果があるのかを説明してある書物は少ない。そんななかにあって,趙振景編著『一針一穴の妙用』だけは,疾患の治療法に「主治・取穴・穴位・按語」と順次説明が施され,「按語」ではなぜこの一穴を選んだのか,著者の説明が付け加えられていた。
原書の内容は簡明に書かれているが,残念ながらわが国ではほとんど見られない疾患や,使用できない治療法が説明されており,編集するにあたりこうした点については割愛した。また趙氏のあげた治療法以外にも,私が経験的に,もっと効果があると思われる治療法のある疾患については補足し,読者の日常の診療により役立つよう付け加えた。
これらの治療法で,まずは患者の症状を和らげられるものと思われる。しかし,病気によっては根深い病因を抱えている場合もあるので,一針で解決できない場合もある。そのときは東洋医学の診断原則にのっとって判断し,より完全な治療法を見出していただきたい。読者の臨床に少しでも役立つことを願っている。
西田順天堂内科 西田皓一