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中医食療方-病気に効く薬膳

序文

 中医食療は中医学の重要な構成要素であり、長い歴史をもっています。
 二千年以上も前の中国の古籍『周礼』の中には、「食医」に関する記述があり、これによれば「食医」がもっぱら帝王の健康を守る配膳を行っていたことが記されています。唐代の孫思著の『千金要方』食治にも、食療によって病を治す者こそがよい医者であると書かれています。
 また、『黄帝内経』には健康維持のためには人体内の「陰平陽秘」が必要だと書かれていますが、中医食療もまた、陰陽の平衡を調節することを重視しています。
 薬膳とは、中医理論を基礎とする弁証に従って献立を立て調理することですが、薬物的な効能をもつ特殊な加工食品を意味することもあります。薬膳は薬物の効能と食物の味をうまく結びつけて健康維持に役立てることができるだけでなく、病気を治療することもできます。つまり、飲食と医薬はお互いにその力を借り合い、助け合うといった特徴があります。
 現代においても臨床上で、多くの食療方が健康を増進させ、病気に対する免疫力を高め、老化を防止し、回復力を高めるといった働きをもつことが証明され、病気の治療や治療の補助としてすでに役立っています。
 薬物の副作用や、薬原性の疾病が増え続けるなかで、多くの人々が「自然回帰」の生活を理想と考えるようになりました。食療方で用いられる生薬は、作用が穏やかで不快な味が少なく、長期にわたって摂取しても安全な天然物質です。一日三回の食事で、健康の保持・増進、疾病治療を行うことは、現代人の養生保健の方法として最適だといえます。
 本書『中医食療方』は中医学、中薬学、中薬炮製学、調理学、営養学を一体化させた著作です。その内容は広く豊富で、正確な中医理論によって分析され、中医弁証による疾病の分型にも合理性があります。体質、性別、年齢、疾病証候、症状、さらに癌の場合には進行状態の違いなども考慮に入れたうえで弁証を行い、さまざまな食療方を紹介しています。また、実際の調理にも身近な物を多く用い、作り方も簡単で、わかりやすく学びやすく実用的です。それぞれの体に合わせた食療方は、健康に資するのみならず、口福ももたらします。この本は多くの病院や家庭において、頼りになる食医や中医営養師となることでしょう。私は心からこの本の誕生を祝賀し、この本が医療従事者や患者をはじめ、多くの人々の福音となることを確信しております。

北京中医薬大学
廬 長 慶


はじめに

  「すべての食べ物に薬効がある」
 これが薬膳の基本的な考え方です。普段食べているもの、豚肉や白菜、キャベツにもみな薬効があるという考えです。また煎じ薬として使われる生薬のなかにも「食べられる」ものがあります。
 そもそも「薬食同源」と言いますが、「薬」は薬効の高いもの、「食」とは食べておいしいものか、せめてまずくないものであると筆者は考えています。とすると、おいしくて(まずくなくて)しかも薬効の高いものが食養や食療には最適であるということになります。実際、中国の関連文献にあるレシピには、このような食材・薬材が多く使われています。
 薬膳(中医営養学)は中医学の理論を基礎としています。この本の中にも多くの専門用語が出てきます。一見難しそうですが、中医学の理論を理解することで、薬膳を幅広く応用することが可能となります。湯液や鍼灸などの他の療法と同じ考え方で併用することも可能となるのです。
 中医学では証によって治療方法が決まりますが、薬膳の場合も同じです。症状や病気の種類が違っていても証が同じであれば、同じ薬膳を使うことができます。また、証に関係なく、ある症状や病気にとくに効果があるという食材もあります。
 この本には、中国の飲食養生法や飲食療法に関する数々の古典、および近年出版された多くの書籍を参考に、薬効の高い食材、おいしい薬材を多く使った食養・食療レシピを載せました。ただし、原典のレシピを尊重しながらも、現代の日本の食生活に合うように改良を加えています。日本ではなじみのない、手に入りにくいものは採用していませんが、なかには瑰花、山子、仏手柑など日本ではまだ一般的ではないけれども、薬効や使いやすさから是非普及させたいと思うものはあえて使っています。これらは生薬を取り扱ってる薬局や中華食材を扱っている商店で手に入ります。 
 分量についてはおかず類は4人分を目安に、お粥・飲料類は1人分を目安にしていますので適宜加減してください。
 また、他の症状や病名の項の同じ証のレシピも参考にできるよう、それぞれの項に参照頁を示しています。

瀬 尾 港 二