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『腹証図解 漢方常用処方解説[改訂版]』 あとがき

 

あとがき


 
 漢方医学に初めて興味を抱いたのは,昭和44年,母校九大医学部の大学紛争のさなかのことであった。当時大学の医局にいた私は,現代の医療を批判する若い青医連の人達の鋭い問題提起に答える術を知らなかった。
 自分なりに解答を捜そうと,あれこれやっているうちに,漢方医学という,われわれが習ってきた西洋医学とは全く異なる医学の世界があることを知った。しかし,それに入りこむことは,そう簡単にできるものではなかった。
 漢方を学ぶ機会を得たのは,ひとえに恩師寺師睦宗先生にめぐり会えたお蔭である。
 寺師先生の主宰される漢方三考塾に於いて,先ず,医経(素問,霊枢)を学んで病理を考え,経方(傷寒,金匱)を学んで方考を究め,本草(本草学)を学んで薬性を知ることが,漢方修得の基本であることを教えられ,以後授業ではこの三本の柱を徹底して叩き込まれてきた。
 先生は第一期の終講にあたって,全塾生に対し,今迄に勉強したことの成果を何でもよいから,各自一冊の書物にまとめるようにと厳命された。浅学非才の身には,到底大論文をものにして,新説を掲げるというようなおおそれたことは望むべくもないので,自習用に作っておいた処方運用の覚え書きに,塾で教わった事柄を書き足して一冊にまとめ,宿題の責を果たすことにした。
 「知ル者ハ言ワズ,言ウ者ハ知ラズ」という。私がここで敢えて小冊にまとめるのは,わたしが何も知らないからである。お読み下さった諸賢兄に忌憚のない御批判,御叱責をいただければ,私にとっては何よりの勉強をさせて頂くことになる。
 上梓に当り,全処方の腹証のイラストを描いて下さった三木(旧姓太田)早苗さん,いろいろお世話下さった津村順天堂(現 ツムラ)の山上勉,中西琢郎の両氏に深く感謝の意を表する。
 

昭和63年初夏 髙山宏世識す