あとがき
五行説は,宇宙の森羅万象を理解し法則性を見出して体系化したもので,当初は医学とは無関係でした。しかし医業に携わる人も参加して,やがて五臓と関連付けられ医学的に検討されるようになっていったと推察されます。
「五行理論を使って治療する」といいますが,人体のもつ臓器相関(神経性胃炎・脳腸相関・肝腎症候群等)が,たまたま五行理論の木乗土・水木相生などと,よく当てはまる部分があったため,というのが筆者の実感です。したがって五行理論のすべてを人体に当てはめようとするのは,暴挙であると考えます。しかし,逆に人の病態に五行理論を当てはめて考えることは,難治病への治療の糸口を与えてくれる可能性があります。
たとえば,肝鬱・ストレス由来の疾患は人体において最も多くみられます。肝鬱をはじめ,相侮の肝火犯肺など肝鬱関連の五行理論に熟知しておくと,治療に非常に役に立ちます。ときには長期にわたる難治例がわずか2週間という短期間に著効することもあります。特にある臓の病気が,その臓に対する処方で治らないときには,五行理論を駆使すると簡単にその病気に適応する処方に到達することも多いことでしょう。先生方が五行理論を駆使して,難病治療に成功されることを祈って稿を終えます。お気づきの点がございましたら,ご教示いただけますと幸甚です。
最後になりましたが,本書の出版にあたり,校正,ご助言,種々疑問点の相談にのっていただきました,アオキクリニック院長の二宮文乃先生,菅沼栄先生に,深謝いたします。
また,御尊父,陸幹甫先生の考えをご教示いただき,種々ご助言いただきました,神戸中医学研究会の陸希先生に謝意を表します。さらに,五行理論についての忠告をいただきました,日本中医学会会長の平馬直樹先生に,深謝いたします。
出版にあたり公私ともにお世話になった,東洋学術出版社社長の井ノ上匠様,会長の山本勝司様に深謝いたします。