▼書籍のご案内-後書き

『経穴の臨床実践』

あとがき


 経穴の学習は一人前の鍼灸師になるためには必須の課目である。しかし現実には,鍼灸師の資格を得ても,経穴にはどんな効きめがあるのか? いつ,どんな場面で使うのか? どの経穴と組み合わせれば相乗効果が得られるのか? といったことがわからず,悩んでいる鍼灸師が少なくないだろう。そのため,局所取穴の治療しか行わない者も多いかも知れない。
 筆者らは毎月1回,中医鍼灸の講習会を主催しているが,全国から大勢の医師や鍼灸師が学習しに来てくれている。そんなとき,彼らから「呉先生の経穴の使い方をまとめた本を作って欲しい」と,求められることが多かった。その声に応えるため,データを整理し,経験症例を集積して,本書の草稿を完成させた。その後,東洋学術出版社の井ノ上匠社長のご指導とご支援をいただいて,このたび本書が出版されることになった。改めて東洋学術出版社の山本勝司会長,井ノ上匠社長,さらに出版社の編集部の皆さまに心より御礼申し上げたい。また,鍼灸師の小沼静香さん,片寄結子さんの協力にも合わせて御礼申し上げたい。
 本書は大きく2部構成になっている。
 第1部では,経穴の基本的知識を紹介した。まず経穴のもつ共通性と個性を概説したうえで,各経穴の特徴に応じた活用法について,具体的な症例を提示して中医基礎理論にもとづいて解説を加えた。特に経穴の位置が近かったり,経穴の作用や適応症が似ている「相関経穴」の区別とその使い方に頁を割いた。臨床において「相関経穴」の使い分けに迷うことが多いと思われるからである。またそれぞれの経穴を活かすコツについても随所にちりばめた。最後に臨床効果を左右する選穴と配穴について具体例を示しながら解説した。第1部では,筆者らの経験にもとづき経穴の表面から裏面まであらゆる角度からその実体に迫った。基本的知識の紹介とはいえ,従来の教科書の枠を超え臨床実践を前提に記載したので,鍼灸教育の場でも臨床の場でも大いに役立つ内容と自負している。
 第2部では,臨床でよく使う40の経穴・奇穴を取り上げ,それぞれのツボについて[穴名の由来][解剖位置][取穴法][作用][主治][刺法][注意事項][臨床配穴][症例]を記した。[穴名の由来]は,経穴のイメージを理解するうえで役立つだろう。[取穴法]は正式な方法を重点的に説明したが,同時に簡便な取穴法も紹介しておいたので参考にしてほしい。[作用]の解説を通じて,その経穴が効く理由を全面的に理解できるはずである。[主治]では諸経穴が効く古今の病症をあげており,その経穴がどの範囲まで治療できるかをイメージするうえで役立つだろう。[刺法]では多彩な鍼法・灸法・補瀉法などについて応用しやすいようできるだけ具体的に記した。[注意事項]は鍼灸事故を避けるためのほか,最適な刺法・灸法についても紹介している。[臨床配穴]では代表的な配穴によって効果のある病症を表にしてお示しした。さらに[症例]では,筆者らの30年余りの臨床経験のなかから,自ら治療した印象深い症例を数多く収録した。ここでは,中医学的な病態の理解と,取穴の理由に重点をおいて詳しく解説した。
 本書は中医理論と鍼灸の臨床とを融合したものであり,中医学を学んだ鍼灸師が,日常の臨床においてどの経穴を取って治療すればよいかを考えるうえで,参考になるはずである。鍼灸学校の在校生にとっては,経穴の知識を深く学ぶことができるうえ,鍼灸の世界に入門するうえで最適の一冊になると思う。
 本書の出版によって,経穴に対する関心が高まり,中医鍼灸の魅力がさらに広がっていくことを心より祈っている。


2014年春
呉澤森
孫 迎